生涯独身を通した文豪ヘンリー・ジェイムスがゲイであったかどうかは、明らかにされていない。この映画もはじめは『ドライブ-アウェイ・ダイクス(レズビアンの意)』というヘンリー・ジェイムスの(おそらく短編)小説と同名タイトルが予定されていたという。しかし、将来大統領になるかもしれない有力共和党代議士の勃起チ◯コを型どったディルドに欲情するレズビアンを描いた下ネタコメディに、アメリカ人文豪の小説タイトルを冠するとは不届き千万、アメリカ映画協会から許可がおりなかったらしい。で『ドライブ-アウェイ・ドールズ』に急遽変更になったわけ。
なにせチャンドラーの(意味不明なハードボイルド小説)『大いなる眠り』を基に『ビッグ・リボウスキ』を撮った監督である。本コメディもおそらく原型をとどめないほどに大幅脚色されているに違いない。インド系レズビアンマリアンが、車の配送中に『ヨーロッパ』にはまっていたり、それを追いかけるギャングのボスが『金色の盃』を読んでいたりすることから察するに、イーサンこの映画でよっぽどヘンリー・ジェイムスをやりたかったのだろう。兄のジョエルが『マクベス』を撮った後だけに、格的にも見劣りしない作家をぶつけてきたのかもしれない。
ゆすりネタのディルドが入ったケースを積んでいることもしらずに、フロリダ州タラハシへと旅行気分で車を走らせるマリアンとジェイミー。読書が趣味の堅物OLマリアンはかなりの奥手、レズとみるやSEXしないではいられないド淫乱ジェイミーとは正反対だ。しかし、紆余曲折があった末議員の型どりディルドで真実のレズに目覚めた2人は、めでたく同性結婚することに....とまあお話的には大したどんでん返しもなく、兄弟で撮っていた時の作品に比べれば特に難解な印象も受けない凡作であろう。
『テルマ&ルイーズ』を彷彿とさせるSEX旅行にうかれるマリアンとジェイミーを追っかける間抜けなギャングのコンビが登場するのだが、この2人がどうもジョエルとイーサンの兄弟に見えてしょうがないのである。社交性の高いちび=イーサン?が粗暴なデカ=ジョエル?にむかって「お前は人に対する接し方がなっていない」と、車の中で延々と文句をたれるのである。『バスターのバラード』を最後にコンビを解消した理由を、この凸凹コンビの会話内容でちょこっとだけ伺え知れるかもしれない。
オバマ政権以来LGBTQ法を強引に推進してきた民主党であるが、ノンケのお子さまにまで「あなたはゲイかもしれない」と洗脳する行きすぎたやり方が問題視され、いまや反LGBTQの嵐が全米で吹き荒れているのだとか。LGBTQに限らず、不法移民、発達障害のオタクたちマイノリティを味方につけてトランプ共和党に敵対する作戦なのだろうが、家族やコミュニティを破壊しかねない不自然きわまりない主張が最終的に受け入れられるはずがない。ユダヤ系であるイーサンも、この映画を通じてハリウッドからLGBTQ擁護のために一石を投じさせられたのであろうが、社会の趨勢に反しているが故、勢いが全く感じられないのである。
ドライブ-アウェイ・ドールズ
監督 イーサン・コーエン(2024年)
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