【正論】
集団自衛権の「日本的定義」正せ 日本大学教授・百地章
2014.4.3 03:25 (1/4ページ)[正論] 産経新聞
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/140403/plc14040303260003-n1.htm
政府は、集団的自衛権の行使は憲法上許されないとしてきた従来の見解を見直し、他国への武力攻撃が「日本の安全」に密接に関係していることを条件 として行使を認めようとしている、という(毎日新聞、3月26日付)。これに対しては、野党や自民党内の一部にも反対や慎重論がある。
理由は、(1)憲法解釈の変更は許されない(2)集団的自衛権の行使を認めたら、アメリカの戦争に巻き込まれる-などというものだ。
≪過去にも憲法解釈を変更≫
第1点だが、安易な憲法解釈の変更が許されないのは当然である。しかし、憲法や法律の解釈には幅があり、「解釈の枠内」での変更は判例・通説の認めるところだ。
典型的な例は、首相の靖国神社参拝をめぐる憲法20条3項についての解釈変更である。
昭和55年11月17日の政府統一見解では、靖国神社公式参拝は「憲法第20条第3項との関係で問題があ(り)、〈略〉政府としては違憲とも合憲とも断定していないが、このような参拝が違憲ではないかとの疑いをなお否定できない」となっていた。
これを変更したのが昭和60年8月20日の政府見解である。中曽根康弘内閣の下に設置されたいわゆる「靖國懇」は、公式参拝を合憲とする報告書を提出、これを受けて次のような見解が示された。
首相らの参拝が「戦没者に対する追悼を目的として、靖国神社の本殿又は社頭において一礼する方式で参拝することは、同項の規定に違反する疑いはないとの判断に至ったので、〈略〉昭和55年11月17日の政府見解をその限りにおいて変更した」。
今回も、安倍首相は懇談会を設置しその報告を受けて政府見解を変更しようとしているのだから、これと変わらないではないか。
国際標準に改め問題解決を
第2点だが、混乱の原因は従来政府が行ってきた「集団的自衛権」の無理な定義にあると思われる。それゆえ、その定義を国際標準に改めれば、問題は解決する。
集団的自衛権は「自国と政治的・軍事的に協力関係にある他国にたいして武力攻撃がなされたとき、その攻撃が直接自国に向けられたものでなくても、自国の平 和と安全を害するものとみなして、これに対抗する措置をとることを認められた権利」である(城戸正彦『戦争と国際法』)。つまり自国が直接攻撃を受けなく ても「自国が攻撃を受けたものとみなし反撃する」のが集団的自衛権だ(田畑茂二郎『国際法講義下』)。
代表的な集団防衛条約でも、次のように定めている。(1)全米相互援助条約(1947年)「米州の一国に対する武力攻撃を米州のすべての国に対す る攻撃とみなし…集団的自衛権を行使する(3条1項)(2)北大西洋条約(1949年)「欧州または北米における締約国に対する武力攻撃を全ての締約国に 対する攻撃とみなし…集団的自衛権を行使する」(5条)。
ところが、政府見解では、集団的自衛権は「自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもって阻止する権利」であり、「集団的自衛権を行使することは、必要最小限の範囲を超える」とされている。
つまり、政府見解では「自国と密接な関係にある外国に対する攻撃」を「自国に対する攻撃とみなして反撃する」という、最も肝腎(かんじん)な部分がオミッ トされ、逆に「自国が直接攻撃されていないにもかかわらず」と強調されてしまった。これによって、自国が直接攻撃されていない場合にまで武力行使を行うの は、「必要最小限度」を超えるとされたわけだ。
従来の政府答弁とも整合性
しかし、個別的自衛権と集団的自衛権は不即不離のものである。集団的自衛権については、国内法における「正当防衛(刑法36条)」や「緊急避難(同37条)」とのアナロジーで説明されることがある。
つまり、「急迫不正の侵害」が発生した場合、「自己または他人の権利を防衛する」のが正当防衛である。例えば、一緒に散歩していた女性が突然暴漢 に襲われた場合には、自分に対する攻撃でなくても、反撃し女性を助けることができるのが正当防衛である。また、緊急避難でも「自己又は他人の生命、身体、 自由又は財産に対する現在の危難を避けるため」とある。
であれば、国際法上の自衛権についても、個別的自衛権と集団的自衛権を不即不離の ものと考えるのが自然だろう。例えば、公海上において一緒に訓練を行っていた米国の艦船に対して、万一ミサイル攻撃があれば、自衛隊が反撃を行い米艦を助 けることができるのは当然ということになる。
それゆえ、まず集団的自衛権の定義を正したうえで、行使の条件を「放置すれば日本の安全に重大な影響を与える場合」などに限定すれば、「必要最小限度の自衛権の行使は可能」としてきた従来の政府答弁との整合性も保たれると思われる。(ももち あきら)
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます