本書の発刊は2020年6月であり、その時点での内容である。1964年の東京五輪大会や大河ドラマにおける国旗に関するアドバイスをしてきた筆者。国旗の変更は64年の東京五輪参加国に限っても独立や非共産化、政権・国名変更などで次の通り。ギリシャ、アフガニスタン、バハマ、バミューダ、ボリビア、ブラジル、英領ギアナ、ブルガリア、ビルマ→ミャンマー、カンボジア、カメルーン、カナダ、セイロン→スリランカ、コンゴ共和国、コスタリカ、エチオピア、ドイツ、ガーナ、香港、イラン、イラク、イタリア、レバノン、リビア、リヒテンシュタイン、メキシコ、モンゴル、蘭領アンチル→アルバ他、北ローデシア→ザンビア、ペルー、フィリピン、ローデシア→ジンバブエ、ルーマニア、スペイン、チュニジア、アラブ連合→エジプトとシリア、ソ連→ロシアとその他14カ国、ベネズエラ、ベトナム、ユーゴスラビア→スロベニア・クロアチア・ボスニアヘルツェゴビナ・コソボ・セルビア・モンテネグロ・北マケドニア。
イギリスはBREXITの結果スコットランドの独立運動が再燃していて、今後の情勢次第ではスコットランド抜きのUKとして国旗まで変わる可能性もある。ニュージーランドは国民投票で国旗変更は否決されたが変更賛成は43.2%。オーストラリアでも1974年までは英国連邦として英国歌を国歌としていたが現国歌に変更、1990年代には英国連邦を示す国旗の議論もされた経緯がある。フィジーの英連邦からの独立は1970年、国旗変更が議論されたが2016年のリオ五輪で7人制ラグビー決勝でイギリスに勝利、国旗を振っての国民的感動国旗変更議論まで鎮めてしまった。
キプロスは北半分をトルコに占領されており、国旗も二種類ある。イラク国旗はクウェート侵攻以来、フセイン体制における国旗が見直されたが、正式な国旗は確定せず国会における制定を待つ状況。三角形のユニークな国旗を持つネパールでは2001年に王族同士の諍いによる殺人事件があり、2006年に政教分離、2007年には民主共和国となることを議会が決め、2008年5月に王政に終止符を打った。国歌が変更され国旗の議論が行われたが未だ変更には至っていない。
中国の国旗は五星紅旗、大きな星が共産党で4つの星は農民、労働者、知識人、愛国的資本家を表すが、4つの星は大きな星の方向を向く。リオ五輪の体操で入賞した中国人選手を称える国旗の4つの星のデザインが間違っていて大きな問題となった。
アメリカの国旗はよく知られているようだが、現在の50星になったのは1960年のハワイの州昇格のタイミング。1959年にはアラスカが州に昇格して49星に、1912年にアリゾナとニュー・メキシコが州昇格した際に48星になった。すべて独立記念日の7月4日に変更されている。1912年のストックホルム五輪は7月4日を挟んでおり、金栗四三が出場したマラソンは7月14日。大河ドラマ「いだてん」ではそのあたりの考証が甘かったと、それ以降筆者が国旗考証の依頼を仰せつかったとのこと。ひょっとしたら本書筆者が指摘したのだろうか。
赤十字標章は1863年に発足した当初、キリスト教国しか加盟していなかったため、創立に寄与したスイス国旗を反転した赤十字を標章としていた。その後、トルコやペルシャ、イスラエルが加盟。現在はトルコ、シリア、ヨルダン、サウジアラビア、エジプトなどは赤新月、イスラエルでは赤クリスタルの3種類。パレスチナに入国する組織員がどんな標章をつけて行くのかは難しい問題だという。エチオピアは赤ハートマークに統一しようと提案したというが採択されずに現在に至っている。本書内容は以上。
20201年の東京五輪では、多くの国旗を見ることになるので、本書内容を意識して観てみたい。そういえば、EUの旗に星は12。完璧と充実を表すという。新加入や離脱があってもその数は変えないと。プエルトリコの州昇格があるとアメリカの星も51になるのか。何かを象徴する、数を表す、などの国旗のデザインの意味や意義は、その本質が変わると変更を余儀なくされるということ。国旗が変わることにどの程度の抵抗感があるか、というのは国民性かもしれないが、日本の日の丸が変わる、などという日は来るのだろうか。