意思による楽観のための読書日記

夏への扉 ロバート・A・ハインライン ****

SFの古典で名作と言われる本書、Kindle本として読んでみた。古い福島訳のバージョンである。書かれたのは1956年、舞台は1970年12月、そして主人公のダンは冷凍睡眠で30年後の2001年に蘇る。猫のピートは護民官ペトロニウス、住んでいるのはアメリカのコネティカット州。6週間戦争といわれるアメリカの大都市を壊滅させた戦争が起きる少し前、ダンは恋人に裏切られ、発明した特許も友人とその元彼女に騙し取られ、この寒いコネティカットから抜け出せる「夏への扉」を探していた。

ダンは技術者でありアイデアマンだった。家事をこなしてくれるロボット「Hired Girl(文化女中器」を開発し、友人のマイルズ・ジェントリーと会社を起こして販売し、成功を収めていた。マイルズには養女にした9歳のリッキーがいて、リッキーはダンになついていた。いや、懐いていたというより30にもなろうというダンのことを将来のパートナーと考えてもいた。そんなリッキーをダンも可愛がった。

ダンとマイルズは続いて自動窓ふきロボットの「窓ふきウイリー」を開発、それを販売できるまでの工程にあった。そんな時に現れたのは完璧な事務処理能力をもった美人のベル、ダンはすぐにベルが好きになった。ふたりは婚約をし、会社の株式はマイルズとダン、そしてベルで分割することにした。そしてダンが開発したのが、今までのロボットの能力を全て備える「万能フランク」、トーゼンメモリーチューブを備えていて、教え込んだ動作を再現できるので、チューブの数だけ異なる作業をこなせるようになるというロボットである。そして会社の将来がもうひとつのGEかと思えるようになる頃、ダンは相棒だと信じていた二人から会社を実質的に追い出されるという仕打ちを受ける。その上、自白剤をベルに打たれて、すべてを告白することを強いられた上で、冷凍睡眠サービスの病院に送り込まれた。

30年後の2001年に目覚めたダンは、マイルズとベルが経営していた会社は今はもう存在しないことを知るが、ベルからは、催眠から目覚めたという新聞記事から知ったという連絡が入る。会いたくもなかったが、他に知り合いもいないダンはベルに会いに行き、ひどく失望させられる。そして2001年の時代に過去への人間転送を研究しているという大学教授の存在を知り会いにいく。そして計略を巡らして、30年前に、マイルズとベルにしてやられた時点の直前に送り戻してもらうことに成功する。もう一度30年前のベルとマイルズのいる時点でダンがしたことは、二人がダンからだまし取ろうとした新製品の設計図や試作品を取り戻し、その時には離れたキャンプ場でガールスカウトをしていたリッキーに事情を説明することだった。どう説明したのか。会社の株式を銀行に預けておくこと、養父のマイルズと縁を切ること、祖母と一緒に暮らすこと、そして10年経ったら冷凍睡眠サービスを行っている指定の病院に行き、2001年に目覚めさせて欲しいという契約を結ぶこと。そうそれば、2001年の僕に会えるからと説明した。

ダンは再び30年の冷凍睡眠サービスを申し込み、リッキーは言いつけ通り10年後に冷凍睡眠サービスを受け、2001年のダンは指定した冷凍睡眠の病院にリッキーを迎えに行く、というお話。

読後、良い気分になれるのは、ダンが良いヤツだから、リッキーが良い子だから、そしてダンが自分の発明に自信をもつ正直な技術者だから、なのかな。ストーリーのポイントは時間旅行と冷凍睡眠を組み合わせて年の離れた二人を結びつけるというアイデア、これが秀逸なのだ。Hired Girlを文化女中器という翻訳には参るが、1956年といえばまだ人工衛星もとんでいない時代、電話の普及もまだまだ、自動車もこれからという時代であることを考えれば、この秀逸なアイデアだけでも名作とされる価値はある。

Kindle本は、電車の中では横位置にして読むのが読みやすいことも発見、本の紙色を真っ白ではなく薄い黄色、つまりちょっと古びた本のように指定できるのも嬉しかった。営団地下鉄なら地下区間はwifiで「ラジコ」も聞けるので、本(新聞)を読みながらTBSラジオを聞きながら、ということもkindleだけでできる。もっと他にも面白そうなことを試してみようと思っている。


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