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意思による楽観のための読書日記

日本の古典を読む 源氏物語(上・下) ****

大河ドラマ「光る君へ」を見ながら、まひろが源氏物語を書き始めたら本書を読んでみようと思っていた。実家にあった「谷崎版」は第一巻で挫折、その後円地文子版は読み進んだのが「明石」で挫折。今回こそと、上下巻で読める本書を手に取った。ちょうど11月3日の放映が宇治十帖の書き始めだったので、上下巻にしたおかげで読み終えるのが適時に間に合った感がある。ドラマがどこまで史実に忠実なのかは分からないが、彰子中宮と一条天皇のことを頭に思い描いて書かれた物語だと思い読み進めることで、物語に一層のふくらみが出たのは確か。光源氏が一条天皇や道長にも重なり、明石の君や国司の娘はまひろ、殿御たちにもてあそばれながらも、しかるべき地位を得ることで生活の安定を得ることができる女性たちの弱い立場にも思いをはせる。

本書には、内裏における各殿舎の配置図が解説されていて読み進む助けになる。彰子中宮や女房たちが過ごしていた藤壺には物語では桐壺帝の藤壺中宮がいて、桐壺の更衣がいたのは内裏の北東の端、物語では意地悪な女御として描かれる弘徽殿の女御や承香殿の女御などとの位置関係も頭に描くことができる。

源氏物語は、現実の進行とともに毎月書き進められ発表された部分もあるとかで、彰子中宮の女房達が中宮たちと一緒に声に出して読んだ様も面白く想像できる。8人いたという彰子中宮の女房達も実際大河ドラマでは登場していた。まひろに加えて、醍醐天皇のひ孫にあたる宮の宣旨、赤染衛門、和泉式部、彰子にとっては母方の従姉妹に当たり式部が親しかったという子少将の君、その姉妹だったという大納言の君、まひろに意地悪をしたという左衛門の内侍、馬中将の君など。それぞれが高貴な皇族や公卿のお姫様だったので、その中では式部は国司の娘として、物語作者としての誇りを頼りに勤めを果たすしかなかったのだろう。物語の登場人物がそれぞれの女房達の立場も想像させるようであり、毎月の「物語の夕べ」はスリル満点の一大イベントだったことが伺われる。

そのスリルは、「藤裏葉」までの光源氏の一大出世物語までの第一部と、光源氏の因果応報を描いて趣きが異なる「若菜」から紫の上死亡と光源氏出家までの第二部では、大いに違った雰囲気だっただろう。敦康親王誕生、敦成親王誕生、一条天皇死去という女房たちにとっても身近な出来事や、道長と三条天皇対立、朝廷内での徐目、出世などが物語の進行とどのように同期していたのか、それとも全く別進行だったのか。想像の翼は広がる。

物語中、光源氏が語る「物語論」や「かな文字による物語の価値」は、読み手の女房達や男性たちにも式部が訴えたかったことだっただろうし、主張の文字化は式部の女房のなかでの存在価値そのものだった。それにしても、光源氏の輝くような振る舞いや評判と比べて、「若菜」以降の柏木と夕霧の未熟さ、宇治十帖に入っての薫と匂宮のぎこちなさは、どのような意図があったのだろうか。「男はだいたいこんなもの」ということなのか、読み手の女性たちへのメッセージなのか。一方、女君たちの消極的振る舞いや、ある意味の社会的無責任さは時代的背景や女君たちが置かれた社会的地位を考慮すれば理解できるとはいえ、個別の登場人物別に考えると作者の意図を解釈することは難しい女君もいる。最後の幕切れでは出家して、薫からの手紙に返事もしなかった浮雲に託した役割は何だったのか。あれで54帖の大物語は終わりでいいのだろうか。読み手はこうした人物の行動やストーリーを上手く消化できたのだろうか。しかし抄訳一読程度では語るに落ちる、登場人物論は専門家に委ねたい。

物語を全体として捉えれば、それぞれの境遇と立場を持つ女性の物語である。男性も女性もであるが、この時代、人の人生は生まれ落ちた家庭のポジションと、女性ならパートナーとなる男性の立場と財力次第である程度決まってしまう。その中でも、男性であれば学問を身につけ、朝廷内でうまく立ち回ることで少しは出世もできるが、女性は親が決めてしまう就職先や嫁ぎ先で決まってしまうためそうもいかない。国司の娘として生まれ、出世に恵まれなかった父の教えで学問をすることで、中宮の女房になることができた紫式部が訴えたかった事。空蝉や明石の君などの生き方を通してひょっとしたら娘の賢子に女性としての生きる道を示したかったのかもしれない。であるとしたら大弐三位(だいにのさんみ)にまで出世した賢子には十分伝わったことになる。

超大作源氏物語を挫折せずに読むには最適な上下巻。原文と抄訳でこれなら最後まで行ける。
 
 



↓↓↓2008年1月から読んだ本について書いています。

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