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意思による楽観のための読書日記

異端の数 ゼロ チャールズ・サイフェ ***

ゼロを扱う本書は当然かもしれないが、ゼロ章から始まる。ゼロ章には本書で述べられるゼロの歴史が概説される。ゼロが古代に生まれながら東洋で成長して欧州で受け入れられるには大いなる苦闘が必要だった。その後西洋では現代物理学にとって常なる脅威となるまでの物語。本書を貫くテーマはゼロと無限、扱われる分野は数学、美術、哲学、宗教、物理学、化学と多様であり、話題も多岐にわたる。世界各地で生み出された古代文明が編み出す数体系とゼロに対して抱いた恐れ。ゼロの発見を妨げたギリシャの数哲学。一方、東洋で受け入れられてきたゼロの概念を西洋はいかに受け入れたのか。教会はなぜゼロを異端視したのか。ギリシャの思想と聖書の思想の間にある無と無限を巡る対立に神学者たちはどう対処したのか。

微積分が考え出されたとき、それがゼロを巡るどんな論理の飛躍を抱えていたのか。極限の概念によってその問題をどのように解決したのか、ゼノンのパラドックスをどのように解けるのか。ゼロが熱力学、相対性理論、量子力学でどのような形をとって現れ現代物理学をどのように脅かしてきたのか。ブラックホール、真空エネルギー、万有の理論の探求と論争の核心にあったゼロ、物質の基本要素をゼロ次元の粒子から一次元のヒモに転換して相対性理論と量子力学から生じる無限大を解消するひも理論を論じて、最終的に宇宙の始まりと終わりの理論にも触れている。

本書では歴史的な振り返りと時代ごとにこうした問題に取り組んだ人物とを紹介して無と無限を巡って数学や物理学、哲学などについて渉猟しながら俯瞰的に各種の話題を取り上げた読み物風の科学歴史書ともいえるので、理科系、文科系を問わず興味を持つ読者には話題を提供してくれるだろう。
 

↓↓↓2008年1月から読んだ本について書いています。

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