ゆすりたかり

朝からばたばたと忙しかった。
そんなときに限って、ややこしい電話がかかる。
午前中１本、午後１本。
どちらも質の悪いクレームの電話。
午前中は若い女性で、以前にもかかってきたことのあるひとだ。
女性なのに、非常に柄の悪いしゃべり方でまくしたてるので、すぐにわかった。
我が社が配布しているものの入れ方が悪い、というのだ。
どう、悪いのか、といえばポストのがしゃんという音を響かせて入れるから、体調が悪くて寝ているのに休めない、という。
じゃ、お届けするのをやめましょうか？と言えば
勝手にそっちが配っておいて、届けるのをやめる、とは何事か！そんなえらそうなことを言うほどオマエの会社はえらいのか！とくる。
ちょうどタイミング良く、普段はほっとんど在席していない上司がいたので放りかけた。
さんざん同じことを蒸し返し、ねちねち絡んで電話は切れた。
その後、上司が言ったのは
「これからこんなクレームがあったら、すぐにお詫びに伺いますから、と言ってくれていいから。」というものだった。
あら、そうですか。それは助かります。
ってことで彼にとっては運悪くかかってきたのが午後の電話。
今度は凄みのある男性の声。
ごみになるようなものを勝手にポストに入れるとはどういうことだ。
この電話も携帯を使ってかけているんだから電話代は高いぞ。すぐに取りに来て電話代を支払え。
と、完全にヤクザな口調で怒鳴られた。
電話代、電話代、とうるさく言うので、私が
「じゃ、おいくらお支払いすればよろしいですか？」と尋ねればそれに対しては答えない。
「持ってきさえすればええんじゃ。来るのか、来んのか、どっちや？」
とさらにすごむ。
心臓は怖さと怒りとでバクバクして喉から飛び出しそうなほど。
「すぐ、責任者を参らせます」というのがやっとである。
どうにか聞き出した番地がわからないアパートを、目をさらのようにして節子さんと二人で探す。
ようやく見つけ出し、上司に連絡。
この上司、見た目は蟹江敬三がむくんだような風貌で、普段からネクタイもせず黒いＴシャツをカラーワイシャツの下に着て、胸元のボタンははずしている。
うちの息子などは、その風貌から「組長」とあだ名するほどだ。
眼光鋭く、普通の会社にお勤めの普通のサラリーマン、とは見られにくい。
このちょっと引くような風貌がついに役立つときが来た。
節子さんと二人「いってらっしゃ～い」と心の中で大きく手を振り送り出す。

果たして、結果は。
電話代とコーヒー代（喫茶店で待ち合わせた）ということで千円をおいてきたそうだ。
上司は普段から比較的寡黙なタイプなので、多くを語ろうとはしないからよくはわからないが、どうも本筋の方ではないらしい。
６０前くらいの、それでもやっぱり柄は良くない男性だったとか。

その話を、横からちょこちょこ盗み聞きしていた関連会社の社長は
「なーんや。たった千円しか取れへんかったんか。けちくさいやつやな。ほんでも、いくらだせ、と言わんところが常習犯っちゅうこっちゃ。いくら出せ、ゆうたらそこで恐喝罪で捕まるからな。ようわかっとんねんわ。」
と、過去に似たようなゆすりで、自分がいかに賢く勇敢に振り払ったかの武勇伝を誰も聞きもしないのに、とくとぶって帰って行った。
「こういう柄の悪いやつが多いのも、ここの県民性かな？」と、余計な一言まで付け加えて。（なんせ、関西ラブなひとなので）

閑話休題。
それにしても、毎度クレームの電話を受けて思うのは、暇な人も多ければ、尋常ならざるひとも多い、ということだ。
ごもっともなクレームはほとんど皆無に等しく、たいていはゆすりたかりの類を思わせるような柄の悪いものばかり。
物騒なご時世なので、口の利き方ひとつ間違えば刺し殺されかねない。
こんな電話を受けた日は、本当に気分が塞がる。
もっとまともなひとを相手にする仕事がしたいな、とついつい弱音が出てしまう。