ときの備忘録

美貌録、としたいところだがあまりに顰蹙をかいそうなので、物忘れがひどくなってきた現状にあわせてこのタイトル。

やさしい父さん、こわい父さん

2016-04-13 | 砂時計
思い通りにならない日には、あした頑張ろう
の、詞に励まされたこの半年が終わり
また新しいドラマが始まった。

さすがは、「暮らしの手帖」の編集長大橋鎭子さんの物語だけあって、おだやかなご両親に育まれていたようである。
家長制度が当たり前の時代に、こどもたち、それも女の子に対してのあのお父さんの姿勢には驚かされる。
こどもであっても、女子であっても人間としての尊厳を大切に、ともすれば他人行儀にも聞こえる丁寧な言葉で語りかける。
いたずらに対しても、けっして乱暴な言葉でしかりつけることなどない。
そんな穏やかな親に育てられたこどもというのは、どういう大人になるのだろうか。

ちょうどそれと相対する父親を先日見かけた。
いつも行く、麺処でのこと。
カウンターに座った私の耳に、斜め後ろのテーブル席からの声が飛び込んできた。
ふと、振り返ると40代の夫婦と小学5年くらいの女の子と3年生くらいの男の子の4人家族。
父親は、新聞を広げ、自分の注文を待っている模様。
先に男の子の注文したざるうどんが届いた。
男の子は食べにくそうに、ざるからうどんを出汁の入った猪口に移し替えようと奮闘している。
そこで、その父親。
「おまえは、馬鹿か?
頭を使えよ。どうすればうまくうどんが入るかちょっと頭を使えばわかるだろう!
おまえの頭はなんのためにあるんだ。
お前の脳味噌は入ってないんじゃないのか?」
と、横で聞いているのがかわいそうになるほどの罵詈雑言。
イントネーションからすると、地元民ではなく、転勤族の様子。
母親である奥さんは、どうしているのか?と伺い見れば
同じテーブルに座りながら、遠巻きに見ている。
そのあとも、なんだか気にかかりちらちらと様子をうかがうが、
どうも、奥さんも、娘ちゃんも、父親が怖くておびえたようにしている。
あんなお父さんと一緒に食べても、全然おいしくないだろうな・・
そんないらないお世話を考えつつ、その家族の日常を思った。

あの父親にとって、息子に対しての言葉は、しつけのつもりなのか、
指導のつもりなのか知らない。
だけど、こどもにも自尊心はある。
人前でああいうしかり方をされたら、屈辱的だろう。
大人であっても、ざるそばやざるうどんの類を猪口に移して食べるのは難しい。
なのに、あの父親の言い方ときたら。
愛情が感じられる言い方なら、私も気にも留めなかったと思う。
だが、あまりに冷徹に言い放たれた言葉には、微塵の愛情は感じられなかった。
カウンターの奥で、麺をゆがいていた店主も、じろりとそちらを見やっていた。

昔読んだ向田邦子さんの小説にも、こわい父親が登場する。
暴君ぶりをいかんなく発揮した父親だったが、それとはまた違うように思う。
虐待は、身体的な暴力だけではないと強く思った出来事だった。

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