チョーひさびさの「杉田屋守伝」をお送りいたしますm(__)m。
運命の早慶1回戦、早大は序盤、あらゆる意味で「先手」を奪い、慶大を圧倒します。
1回裏慶大の攻撃。
マウンドに登ったのは早大の絶対エース・小川正太郎。
以前もお話ししたとおり、小川は腺病質であり、そのため大抵立ち上がりが悪かったのですが、この早慶戦では、初戦であるこの試合から最終3回戦まで、終始神懸かった投球を見せます。
先頭打者の楠見幸信を四球で歩かせ、続く本郷の送りバントで一死二塁。ここで迎えるは三番・山下実…この連載をご覧の方には既におなじみとなった、日本野球史上に残る怪物打者です。
小川絶体絶命のピンチ!だったのですが、ここから圧巻の投球。
見逃し・ファウルでツーストライクを取った小川。構える山下。山下は小川のウイニングショットであるインドロ(現代でいう縦のカーブ)にヤマを張り、投球を待ちます。
小川の投じた一球はまさにそのインドロ!読み通りの球種に迷わず強振する山下…でしたが、なんと小川のインドロは見事山下のバットをかいくぐりました。
怪物山下、スイングアウトの三振!
続く四番・宮武三郎も、山下の三振に気圧されたか、あえなく一塁ファウルフライに倒れ、小川はこのピンチを見事無失点で凌ぎます。
この試合の帰趨はここで決まった、と言っても過言ではありませんでした。
早大はその裏となる2回表、1年生ながら打撃のいい佐藤茂美(松本商業)のタイムリーで1点を先取。その後は小川・水原による息詰まる投手戦となりますが、9回表、死球で出塁した水上、三塁強襲安打で出塁した小川を置いて、左打者今井がライトフェンスを直撃する長打で2点を追加。
早大は3-0にて完勝。早慶戦復活以後、早大が慶大を完封したのはこれが初めてのことであり、小川の投球内容は被安打2・四死球3という完璧なものでした。
しかし、勝ち慣れしている試合巧者慶大は翌14日の2回戦で、早速のリベンジ。
慶大は初回から早大先発・高橋外喜雄に猛然と襲い掛かります。
慶大の頼れる斬り込み隊長・楠見幸信の二塁打から始まり、山下実の大三塁打など、集中打を喰らわせて高橋をKO。早大は多勢正一郎をあわてて送り込むも、火に油を注ぐ結果としかならず、この回4点、2回までに5点を奪われます。
早大は高橋外喜雄―多勢正一郎―松木賀雄(今治中)―清水光長(柳井中)とつなぎますが、5回・8回にそれぞれ1点ずつを献上。攻撃も振るわなかった早大は結局0-7で完敗。
昨日は小川が完封したものの、今度は宮武に完封され返される、というおまけつき。
早慶がっぷり四つに組んでの勝負はついに、第3回戦までもつれ込みました。
昭和4年10月15日火曜日。
神宮球場は徹夜のファンが取り囲み、混乱を懸念した球場側は開門時刻をかなり繰り上げ、なんと午前7時に開門してしまいますが、これが思わぬ悲喜劇を生みます。
試合開始の午後2時までは相当な時間があるため、お客は当然、球場売店で何かを買って腹ごしらえ…と考えます。
ところが球場売店の貼り紙には「葡萄パンお一人様2個限り」…売店が来場者数を完全に見誤り、仕入れの個数が全く追い付いていないがゆえのハプニングでしたが、ブドウパン2個で7時間も待たされた客は、さぞかし空腹を覚えたことでしょう。
この人気を当て込んだニセ切符売りも横行します。
正規価格1円の切符を5円、あるいは6円で購入させられ、挙句に「これは偽切符だから入場できません」と言われた哀れな?客も続出したそうです。
(「私の昭和野球史」では5円、「真説日本野球史」では6円と記載(;^ω^))
なお、正規の割り印が捺された切符は、最高20円(!)の値がついたとか…。
数々の苦難を乗り越え、神宮球場の観客席に座れた幸運な観客は、試合に先立って行われた先発メンバー発表…当時はスコアボードへの選手名表示がなく、試合開始前に、スタメンを表示した板を首からぶら下げたサンドイッチマンが、グラウンド内をウロウロ歩いて周知していたのですが、それを見た客からどよめきが起きます。
先発投手は早大・小川正太郎。慶大・宮武三郎!まさに竜虎の一騎打ちです。
この記念すべき早慶決勝戦のスターティング・ラインナップは以下のとおりです。
【先攻・早大】
1番ライト水原義明・2番センター矢島粂安・3番キャチャー伊丹安廣・4番サード森茂雄・5番セカンド水上義信・6番ファースト西村成敏・7番ピッチャー小川正太郎・8番レフト佐藤茂美・9番ショート富永時夫
【後攻・慶大】
1番センター楠見幸信・2番セカンド本郷基幸・3番ファースト山下実・4番ピッチャー宮武三郎・5番ライト井川喜代一・6番レフト町田重信・7番サード水原茂・8番キャッチャー川瀬進・9番ショート加藤喜作
…ここまで見て「あれ、主人公のオッチャンは?」と思った方も多いと思います。
実はこの記念すべき秋のリーグ、オッチャンはわずか4試合の出場にとどまっています。
実はこのリーグ戦、外野手が頻繁に入れ替わっており、最終的に固定されているのが水原義明・佐藤茂美・矢島粂安の3人。その後塵を拝する形となったのがオッチャン、三原修、今井雄四郎の3人でした。
おそらく、早大のアキレス腱である投手力を補うため、打撃でパンチを効かせられるメンツを集めた結果、というところだと思料されますが…しかしこの采配が、早大に思わぬ幸運をもたらすことになろうとは、この先発メンバーを決めた早大・市岡監督ですら予測不可能だったでしょう。
【第48回 参考文献】
「早稲田大学野球部五十年史」飛田穂洲編
「日本の野球発達史」河北新報社
「真説日本野球史 昭和篇その1」大和球士 ベースボールマガジン社
「私の昭和野球史 戦争と野球のはざまから」伊達正男 ベースボールマガジン社
運命の早慶1回戦、早大は序盤、あらゆる意味で「先手」を奪い、慶大を圧倒します。
1回裏慶大の攻撃。
マウンドに登ったのは早大の絶対エース・小川正太郎。
以前もお話ししたとおり、小川は腺病質であり、そのため大抵立ち上がりが悪かったのですが、この早慶戦では、初戦であるこの試合から最終3回戦まで、終始神懸かった投球を見せます。
先頭打者の楠見幸信を四球で歩かせ、続く本郷の送りバントで一死二塁。ここで迎えるは三番・山下実…この連載をご覧の方には既におなじみとなった、日本野球史上に残る怪物打者です。
小川絶体絶命のピンチ!だったのですが、ここから圧巻の投球。
見逃し・ファウルでツーストライクを取った小川。構える山下。山下は小川のウイニングショットであるインドロ(現代でいう縦のカーブ)にヤマを張り、投球を待ちます。
小川の投じた一球はまさにそのインドロ!読み通りの球種に迷わず強振する山下…でしたが、なんと小川のインドロは見事山下のバットをかいくぐりました。
怪物山下、スイングアウトの三振!
続く四番・宮武三郎も、山下の三振に気圧されたか、あえなく一塁ファウルフライに倒れ、小川はこのピンチを見事無失点で凌ぎます。
この試合の帰趨はここで決まった、と言っても過言ではありませんでした。
早大はその裏となる2回表、1年生ながら打撃のいい佐藤茂美(松本商業)のタイムリーで1点を先取。その後は小川・水原による息詰まる投手戦となりますが、9回表、死球で出塁した水上、三塁強襲安打で出塁した小川を置いて、左打者今井がライトフェンスを直撃する長打で2点を追加。
早大は3-0にて完勝。早慶戦復活以後、早大が慶大を完封したのはこれが初めてのことであり、小川の投球内容は被安打2・四死球3という完璧なものでした。
しかし、勝ち慣れしている試合巧者慶大は翌14日の2回戦で、早速のリベンジ。
慶大は初回から早大先発・高橋外喜雄に猛然と襲い掛かります。
慶大の頼れる斬り込み隊長・楠見幸信の二塁打から始まり、山下実の大三塁打など、集中打を喰らわせて高橋をKO。早大は多勢正一郎をあわてて送り込むも、火に油を注ぐ結果としかならず、この回4点、2回までに5点を奪われます。
早大は高橋外喜雄―多勢正一郎―松木賀雄(今治中)―清水光長(柳井中)とつなぎますが、5回・8回にそれぞれ1点ずつを献上。攻撃も振るわなかった早大は結局0-7で完敗。
昨日は小川が完封したものの、今度は宮武に完封され返される、というおまけつき。
早慶がっぷり四つに組んでの勝負はついに、第3回戦までもつれ込みました。
昭和4年10月15日火曜日。
神宮球場は徹夜のファンが取り囲み、混乱を懸念した球場側は開門時刻をかなり繰り上げ、なんと午前7時に開門してしまいますが、これが思わぬ悲喜劇を生みます。
試合開始の午後2時までは相当な時間があるため、お客は当然、球場売店で何かを買って腹ごしらえ…と考えます。
ところが球場売店の貼り紙には「葡萄パンお一人様2個限り」…売店が来場者数を完全に見誤り、仕入れの個数が全く追い付いていないがゆえのハプニングでしたが、ブドウパン2個で7時間も待たされた客は、さぞかし空腹を覚えたことでしょう。
この人気を当て込んだニセ切符売りも横行します。
正規価格1円の切符を5円、あるいは6円で購入させられ、挙句に「これは偽切符だから入場できません」と言われた哀れな?客も続出したそうです。
(「私の昭和野球史」では5円、「真説日本野球史」では6円と記載(;^ω^))
なお、正規の割り印が捺された切符は、最高20円(!)の値がついたとか…。
数々の苦難を乗り越え、神宮球場の観客席に座れた幸運な観客は、試合に先立って行われた先発メンバー発表…当時はスコアボードへの選手名表示がなく、試合開始前に、スタメンを表示した板を首からぶら下げたサンドイッチマンが、グラウンド内をウロウロ歩いて周知していたのですが、それを見た客からどよめきが起きます。
先発投手は早大・小川正太郎。慶大・宮武三郎!まさに竜虎の一騎打ちです。
この記念すべき早慶決勝戦のスターティング・ラインナップは以下のとおりです。
【先攻・早大】
1番ライト水原義明・2番センター矢島粂安・3番キャチャー伊丹安廣・4番サード森茂雄・5番セカンド水上義信・6番ファースト西村成敏・7番ピッチャー小川正太郎・8番レフト佐藤茂美・9番ショート富永時夫
【後攻・慶大】
1番センター楠見幸信・2番セカンド本郷基幸・3番ファースト山下実・4番ピッチャー宮武三郎・5番ライト井川喜代一・6番レフト町田重信・7番サード水原茂・8番キャッチャー川瀬進・9番ショート加藤喜作
…ここまで見て「あれ、主人公のオッチャンは?」と思った方も多いと思います。
実はこの記念すべき秋のリーグ、オッチャンはわずか4試合の出場にとどまっています。
実はこのリーグ戦、外野手が頻繁に入れ替わっており、最終的に固定されているのが水原義明・佐藤茂美・矢島粂安の3人。その後塵を拝する形となったのがオッチャン、三原修、今井雄四郎の3人でした。
おそらく、早大のアキレス腱である投手力を補うため、打撃でパンチを効かせられるメンツを集めた結果、というところだと思料されますが…しかしこの采配が、早大に思わぬ幸運をもたらすことになろうとは、この先発メンバーを決めた早大・市岡監督ですら予測不可能だったでしょう。
【第48回 参考文献】
「早稲田大学野球部五十年史」飛田穂洲編
「日本の野球発達史」河北新報社
「真説日本野球史 昭和篇その1」大和球士 ベースボールマガジン社
「私の昭和野球史 戦争と野球のはざまから」伊達正男 ベースボールマガジン社
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