集成・兵隊芸白兵

 平成21年開設の「兵隊芸白兵」というブログのリニューアル。
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先生と呼ばれるほどのバカでなし…の新解釈?

2020-03-02 20:24:21 | 兵隊の道・仕事の話
 江戸時代の川柳に「先生と 呼ばれるほどの 馬鹿でなし」というのがございます。
 大辞林第3版によりますと、「先生と言われて気分をよくするほど、馬鹿ではない。また、そう呼ばれていい気になっている者をあざけって言う言葉」と解釈されておりますが…しかしこの川柳、近年の心理研究を鑑みますと、大辞林の解釈とは少し違う解釈ができ、違う意味で人間の蘊奥を衝いたものだと思っております。

 日本では昔から、いずこの世界にあっても「専門技術を窮めた人間はの直観は、シロウトに比べて優れている」という評価をされていました。
 ところが近年、これに異を唱える研究結果が発表されています。

 人間の判断能力は大きく分けて合理的・直観的・依存的・回避的・自発的の5スタイルに大別されるそうですが、専門知識をこじらせた人は「直観的スタイル」に分類されるヒトが多いそうです(むろん、先天的にそういう人も多数います)。
 米ボーリング・グリーン州立大学において、「この5スタイルのうち、自他ともに一番後悔のない選択をしているのはどのタイプか」を研究したところ、そのトップは「合理的スタイル」の人で、逆に「コイツは何を考えてるんだ…」と眉をひそめられるような判断を下す傾向が強かったは「直観的スタイル」の人間だったそうです。
(ちなみに「直観的スタイル」の該当者は「自己評価がやたらと高い」という傾向も見られました。余談ですが、「無駄に自己評価が高い」ことは、IQの低さと正比例するそうです。)
 これに類する実験として、いわゆる「刑事のカン」の的中率がどの程度かということを、実際の刑事を使って実験した結果もあります。
 刑事に対して事件っぽい課題を与えて捜査させ、その事件解決結果を集計したところ…解決率54%。後日、捜査のことなんかわからないドシロウトを捕まえて同じ実験をしたところ、解決率は刑事のそれと全く同じだったそうです。

 以上の事柄をまとめると、以下のような物事の姿が見えてきます。
① いわゆる「専門家」と呼ばれるヒトの専門知識はスゴイものがあるが、その反面、狭い専門知識が増えれば増えるほど、自己に都合がいい情報だけを信じ、それ以外の情報を無視したり、否定したりするようになる(確証バイアスというそうです)。
 結果、決断を容易に誤るようになる。
② いわゆる「専門家のカン」「専門の知識」が比較的有効な世界とは「ルール改変がほとんどない世界」(伝統的なものづくりや、スポーツの世界など)だけであり、融通無碍な世界において、「専門家のカン」などというものはその有効性が大きく疑問視されている。 

 実は、ワタクシが永年お世話になっている武道・格闘技の世界においても、こうした「専門バカになり過ぎたゆえの誤った選択」が多々見受けられます。
 格闘技の業界では世に言う「大先生」なるヒトビトが晩節を汚したり、組織を誤った方向に導いたり、あるいは分裂の憂き目を見たりといった事案は山ほど見受けられますが、その原因はすべて、上記①で説明がつきます。
 これをふまえたうえで、冒頭の「先生と 呼ばれるほどの 馬鹿でなし」という川柳の解釈を考えますと、冒頭に紹介した大辞林の解釈以外にも「センセイなんて呼ばれる専門バカになったら、人生を誤るようなバカな選択しかできなくなっちゃうよ!」という意味も込めていたんじゃ…この川柳の作者がもし、そうしたメタファー(暗喩)を隠していたとすれば、これは単純に驚くほかありませんね(;^ω^)。


 ただ、誤解していただきたくなのは「『直観的スタイルの物事選択全てが悪い』と言っているわけではないこと。
 「直観的」で大きな成功をつかんだ選択は歴史上数々あるのは周知の事実です。ただ、それを永続させることは極めてむつかしい…ってことですね。

 この「確証バイアス」を予防するためには「自分にそういう傾向がある」ということを自覚すること、そしてそれを防ぐため、違う世界のものに積極的に目を向けること(なるべく調査底辺が広い結果を受け入れること)などが挙げられています。

 え、「オマエはどうなんだ」ですって?
 いちおう、自分が先述の5スタイルのうちどれに当てはまるか、というチェックをして「自分はこうなんだ」ということは分かっていますが…ワタクシのそういった傾向のことを知っても、皆さんの生活には何の足しにもならないでしょうから、ここではお話しません(;^_^A。
 ただ、ワタクシは武道・格闘技の道に身を投じて永く、各種段位こそ取得しておりますが、どれ一つとして「蘊奥を窮めた」などというものはなく、しかも、複数種類の格闘技を錬成している都合上、「あれもやらなきゃ、これもやらなきゃ、あれも知りたい、これも知りたい…」と未だ絶賛悶絶中。とてもとても「専門バカ」になんてなってる場合じゃありません(;^ω^)。
 ワタクシの場合は、「あれもやらなきゃ、これもやらなきゃ」のまま死んでいくと思いますので、とりあえず「直観的スタイル」の人間ではないかな…と思っています

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