「リビング・スピーチ(Living Speech)」、この言葉を、先日、奥平康弘・東大名誉教授に教えて頂いた。ジェームズ・ボイド・ホワイト(James Boyd White)ミシガン大学法学部教授の著作、「Living Speech: Resisting the Empire of Force(リビング・スピーチ:レジスティング・ディ・エンパイヤー・オブ・フォース)」のタイトルの一部である。私は、この言葉を今回の選挙で健闘された多くの候補者に捧げたい。市民の危機を肌に感じ、いてもたってもいられず、立候補した候補者に捧げたい。
さて、まずは、民主党大勝、おめでとうございます。応援した皆さん、お疲れ様でした。世に、民主党は頼りないと言われようと、自衛隊好きの人が紛れ込んでいると言われようと、とにかく、政権交代させることで、腐敗の構造を破壊することは絶対に必要であり、今回の参院選での勝利を糧に、市民の声に耳を傾ける政策を実行し、次期総選挙(衆院選挙)では、ぜひ、与野党逆転を実現してほしい。そうでなければ、今回の選挙で、民主党に吹いた風を無駄にしてしまうことになるからだ。
そして、今回の選挙で、リビング・スピーチを世に訴えた全ての候補者の皆さん、当選された方は、国会においてもリビング・スピーチを口にし続けてほしいし、残念ながら議席を得ることができなかった方もそれぞれの立場でリビング・スピーチを口にし続けてほしい。
リビング・スピーチ、これは、文字通り「生きている言葉」であり、スローガンやクリシェ(決まり文句)などの「デッド・スピーチ(dead speech)」=「死んだ言葉」とは正反対のものだ。深い思索から生まれる深い意味を持つ言葉こそがリビング・スピーチだ。
残念ながら、今、世界は、デッド・スピーチ(dead speech)からなる「ディ・エンパイヤー・オブ・フォース(the Empire of Force)」=「力の帝国」と化しているのが現実だ。
このことは、郵政選挙と化した前回の衆院選でも明白だし、安倍に対するお仕置き選挙となった今回の参院選でも明白だ。1つの問題(シングル・イシュー)のみをテーマとする選挙は、まさに、スローガンとクリシェに満ちあふれていたと言っても過言ではない。
現に今回の参院選に立候補した「怒れる元駐レバノン大使」天木直人さんの最後の演説は次のようなものだったという(
人工樂園さんのブログより)。
■■引用開始■■
皆さん,この日本は,今度の選挙でもそうですけれども,自民党か民主党でなければもう当選できないようになってしまいました。私は今度の選挙で本当によくわかったんですけれども,私たちは政党として認めてもらっていない。そうするとお金も出ない,…(聴取不能)…も出ない,なんにもない。ですから,どんなに私たちが一生懸命選挙を戦っても,どんなに私たちがいいことを言っても,全く皆さんに伝わらないんです。私は,このことが本当に口惜しかった。今度の選挙で,私がなにが一番口惜しかったかというと,私たちの声が皆さんに届かないんですよ。届かない。
このあいだ私は,民主党の若い連中が演説をしているところを聴いていました。私が演説しようと思って行ったら,大勢の人がいて,民主党の若い候補者と応援をする代議士が,大きな声をあげてお祭り騒ぎのようなことをやっていました。周りにたくさんの人がいて,みんなそれは動員された人たち。女性ばっかりで,赤いハンカチを振りながら,一生懸命ワーワーやっていました。
その若い人たちは,いいですか,今度の選挙で,もう俺たちは勝ったんだ勝ったんだ,自民党をやっつけたんだ,ワーワーワーワー,もう喜んで,遊びのような選挙をしているんですよ,皆さん。誰ひとりとして,国民のための政策を訴えていないんです。俺たちに勝たせてくれ。俺たちが勝ったら日本はよくなるんだ,そんなことばっかり言って,今度の選挙は民主党が勝ったんだ民主党が勝ったんだ。
私は,民主党に勝ってもらいたい。一回は政権をとってもらいたい。しかし,はっきりわかったのは,この国の政治家はみんな,選挙のときだけ頭を下げるけれども,政治家になったら国民のことなんかなんにも思わないんです。自分たちのことしか思わない。そのような,自民党か民主党か,こういう今の政治は,必ず行き詰る。この日本を決して幸福にすることはできない。
■■引用終了■■
私は、民主党が自民党と同じように、格差固定的な政策をとるとは思わない(少なくともとらないよう願っている)。
天木さんの演説で大切なのは、言葉が届かなかったという現実だ。天木さんというネームバリューのある人をしてでさえ、そう思わしめた現実は、まさに、日本が「ディ・エンパイヤー・オブ・フォース(the Empire of Force)」と化していることを明白に表している。
この帝国のもと、言葉は人を傷つける。他人を人間扱いせず、人の存在をトリビアル(矮小)化する。「敵は殺せ」、「よそ者は敵だ」…スローガンは民主主義を破壊し、クリシェは人の想像力を破壊する…。
この帝国を打ち破ることができるのは、思索の底からつぐまれ、深い意味を持ち、聞く人の思索の底に届く「リビング・スピーチ」しかないのだ。そう、ジェームズ・ボイド・ホワイト著作のタイトルである「Living Speech: Resisting the Empire of Force(リビング・スピーチ:レジスティング・ディ・エンパイヤー・オブ・フォース)」のとおり、リビング・スピーチこそが、帝国に抵抗(レジスト)することができる唯一の手段だ。例えば、戦争の悲惨さを語り、相互理解を訴える声はリビング・スピーチだろう。企業の違法な行為を告発する声もリビング・スピーチだろう。
今回の選挙でも、外務省を辞する覚悟でイラク攻撃に反対した天木さんの言葉は、まさにリビング・スピーチであったし、弱い側(※自分は「弱い側」とは関係ないと思ってほしくない。権力に対峙すれば、普通の市民はほとんど弱い側になるのだから)に立って活動してきた東京選挙区杉浦ひとみ弁護士の言葉も、リビング・スピーチだった。そして、候補者であるか支援者であるかを問わず、また、所属政党を問わず、ほかにも、リビング・スピーチを話した方は多かったと思う。
また、本当は、リビング・スピーチを話したかったのに、今回は、勝つために、クリシェとスローガンをまとった方もいたと思う。このブログもその傾向あり…。
そう、突き詰めれば、問題は、リビング・スピーチが伝わる社会を実現しようとする人でさえ、デッド・スピーチを口にしなければならない矛盾をいかに克服するかということである。
リビング・スピーチが伝わる社会を実現するには、まずは「表現の自由」を現実化する必要がある。そのためには、日本で表現の自由を侵害している日本独自のシステムを修正しなければならないのだが(
ここ←など参照)、いまや、表現の自由に対する侵害は、インターネットの世界に及ぼうとしている(
ここ←など参照)。そして、政治的意思を直接的に反映できる完全比例代表制の実現(
ここ←など参照)も必要になるが、今回の選挙をみても、2大政党制への道を歩んでいるように見え、何だか、かなり追いつめられているように思えてしまう。
しかし、幸いなことに、リビング・スピーチを語り、リビング・スピーチを人の心に届けたいと願っている方は増えている。平和外交を推し進めようとする人(9条改悪に反対する人)、機会均等を実現する豊かな教育を実現しようとする人(教育行政改悪に反対する人)、環境・自然を守ろうとする人(環境破壊に反対する人)などなど…。
これらの市民が、自分たちには、「リビング・スピーチを話す自由を得ること(システムとしての表現の自由の実現)」、「リビング・スピーチを政治に反映させるシステムを実現すること(完全比例代表制=全国区のみならず、選挙区も大型にして比例制度を導入する)」が必要なのだ、ということに気づき、その声を結集することができたら、自民党を中心とする勢力と民主党を中心とする勢力に対し、国政選挙におけるキャスティングボードを握ることができるはずだ。つまり、リビング・スピーチが伝わる仕組みを実現する政策などをとる党に投票することを市民や市民団体が宣言することで、政党にリビング・スピーチを実現させる政策を選択させることができるのだ。
インターネットにおける自由があるうちに、この事実をリビング・スピーチを口にしている多くの市民に伝えてほしい。リビング・スピーチを話す自由を得ること(システムとしての表現の自由の実現)、リビング・スピーチを政治に反映させるシステムを実現すること(完全比例代表制の導入)、これこそ、いま、あなたが口にしているリビング・スピーチを世に伝えるために必要なことだということを!
最後に、もう一度、今回の選挙でリビング・スピーチを心から訴えた全ての候補者に…ありがとう!
★「憎しみはダークサイドへの道、苦しみと痛みへの道なのじゃ」(マスター・ヨーダ)
★「政策を決めるのはその国の指導者です。そして,国民は,つねにその指導者のいいなりになるように仕向けられます。方法は簡単です。一般的な国民に向かっては,われわれは攻撃されかかっているのだと伝え,戦意を煽ります。平和主義者に対しては,愛国心が欠けていると非難すればいいのです。このやりかたはどんな国でも有効です」(ヒトラーの側近ヘルマン・ゲーリング。ナチスドイツを裁いたニュルンベルグ裁判にて)
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