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今日の筆洗

2016年02月10日 | Weblog

 一九二二年、旧ソ連の映画監督レフ・クレショフがこんな実験をした。短い映画を見せた。諸説あるが、クレショフが撮った映画はこんな内容だ。まず俳優にこう演技させた。「何も考えず、カメラを見ていろ」。俳優とは別に複数のカットを用意した。スープ皿、棺(ひつぎ)の中の子ども、少女。これらに俳優の顔をはさんで、編集した。スープ、俳優、棺、俳優、少女、俳優…という具合である▼上映後の反応は俳優の演技への賛辞だったそうだ。スープに対し飢餓、少女には愛情、棺には悲しみ。俳優が巧みに演じ分けたと解釈した。俳優の顔はすべて同じだったにもかかわらずである▼クレショフ効果。映画編集の基礎である。人は映像のつながりの中で、無意識に意味を解釈する。泳ぐ女性のカットに続き、サメが映れば、危機を想起する▼高市早苗総務相の発言である。放送局が政治的公平を定めた放送法違反を続けた場合、電波停止を命じる可能性に言及した▼放送局が放送法を守る。当然である。されど政治の側、特にメディアになにかと威圧的にもみえる政権与党から電波停止の四文字が出れば、別の意味、解釈が嫌でも強まる▼高市さんのクローズアップ、放送局のビル、高市さん、放送法、高市さん…。クレショフ効果で高市さんの顔や自民党が醜く歪(ゆが)んで見えまいか。ご注意を。そんな映画館はいずれ閑古鳥が鳴く。