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今日の筆洗

2016年02月13日 | Weblog

 <万有引力とは/ひき合う孤独の力である/宇宙はひずんでいる/それ故みんなはもとめ合う>。谷川俊太郎さんの詩「二十億光年の孤独」に即して言えば、重力波とはそんな孤独な力が引き起こす、宇宙のさざ波か▼二十億光年ではなく、十三億光年のかなたにあった二つのブラックホールが引き合い、求め合い一つになった。そのときの時空の「ひずみ」が生んだ波を観測したと、米国の科学者らが発表した。それはとてつもなくかすかな波だが、そこに秘められた可能性は、とてつもなく大きいという▼光など電磁波を観測する望遠鏡はいくら性能を上げていっても、見えるのは宇宙誕生から三十八万年後の姿。それまで余りに熱く濃密な宇宙だったため、光すら真っすぐ進めなかったのだ▼しかし重力波が精密に観測できるようになれば、誕生から一兆分の一のさらに一兆分の一の、そのまた一兆分の一秒後の宇宙を見ることも原理的に可能というから、究極の望遠鏡だ▼寺田寅彦は一九三三年に「宇宙線」と題する随筆で、科学とは<不思議を殺すものでなくて、不思議を生み出すもの>と書いた▼アインシュタインが百年前に予言した重力波の初観測は、「あるはずなのに見つからぬ」という不思議を一つ消したが、重力波望遠鏡はいずれ、天才の頭脳も思いつかなかった特大の「不思議」を見せてくれるに違いない。