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今日の筆洗

2020年06月01日 | Weblog

 江戸時代の大横綱、谷風が初ガツオを買う話だから、いま時分の季節だろう▼値の高さに谷風が「ちと負けてくれぬか」と頼むと魚屋さん、「関取が負けろとは忌み言葉。この値段でお買いください」。谷風はカツオをその値で買って帰った▼四十六歳まで現役だった谷風の年齢をしのぐ、その力士なら、足のはやいカツオは験が悪いと逃げ出すだろうかと空想してみる。大相撲の現役最年長力士で、序二段の華吹(はなかぜ)(立浪部屋)が五十歳になったそうだ。歴史的にも珍しい五十代力士の誕生である▼初土俵は一九八六(昭和六十一)年三月場所。その翌年に入社した身としては五十路(いそじ)力士への思い入れも強くなる。バブル期の昭和、天災の相次いだ平成、そして令和。この人はひたすらに相撲をとる▼相撲ファンの漱石が「吾輩は猫である」に四つに組んで動かぬ相撲について書いている。「はたから見ると平穏至極だが当人の腹は波を打っているじゃないか」。平穏至極に見えても、その年となれば大きな身体と体力を維持するだけでも大変なことだろう。同じ世代はやめていく。下の世代からは突き上げられもする。身体ばかりでなく、気持ちの方にも波の打つ日もあったはずだ▼「五十にして天命を知る」。天命と精進を願う。谷風は流感にたおれ、結果、現役に終止符を打ったが、この力士は流行の病にも強かろうと信じる。