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今日の筆洗

2023年06月02日 | Weblog

故・瀬戸内寂聴さんの『夏の終(おわ)り』は自身の恋愛に基づく小説として知られる。本名の瀬戸内晴美時代の一九六三年、女流文学賞を受賞した▼主人公は旅先のソ連で、日本で待っているはずの深い仲の男の死をその妻から告げられる夢を見る。不安を覚えつつ旅を続けて帰国するが、こんなくだりがある。「スプートニクを飛ばしている一方、航空便が二カ月もかかって日本へ着くような奇妙な文明国のソ連内からは、安否のききようもなかった」▼東西冷戦期の五七年、人類初の人工衛星「スプートニク1号」を打ち上げ、覇を競う米国を慌てさせる一方で不便が多い国を「奇妙な−」と皮肉っている▼北朝鮮が軍事偵察衛星「万里鏡(マンリギョン)1号」を載せたロケット打ち上げを試みたが、失敗した。名の通り、遠くまで見る能力を得て米国、韓国、日本の艦艇や兵器の配置を把握したいらしい▼冷戦期同様の分断が続く朝鮮半島で体制を守るには欠かせぬと考えているのか、再挑戦するという。だが、国は食糧難で餓死者も出ていると聞く。金に糸目をつけぬ軍事的野心と足元の貧しさのギャップ。昔のソ連に劣らず「奇妙な」感を覚える▼ロシア語のスプートニクには、同行者や人生の伴侶という意味もある。なるほど衛星は、ロシア人に限らず権力者にはよき伴侶か。体制との同行を強いられる民は今、半島の北側で何を思うのだろう。