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今日の筆洗

2023年06月13日 | Weblog
梅雨の季節とはよく分かっているが、それにしても、よく降る。毎日、降る雨に少々気も重くなってくるが、空をにらみつけてもはじまらない▼当然ながら雨は空から降るもの。だが、「空知らぬ雨」という言葉がいにしえからある。空のあずかり知らない雨とは、人の流す「涙」のことである▼この大洪水は空や天気とは一切、関係がないのである。ウクライナ南部ヘルソン州のカホフカ水力発電所の巨大ダムが決壊し、ドニエプル川流域の町々が水没するなど大きな被害が出ている▼誰かがダムを破壊し、意図的に洪水を引き起こしたとの見方が強まっている。情け容赦のない「犯人」は人の思いを知らぬ「空」ではなく、人の痛みをよく知る人。「空知らぬ洪水」の事実と被害の大きさに暗い気分となる。戦いとなれば人はこれほどまでに恐ろしいことをやってしまう▼被害は洪水にとどまらず、水道の取水にも影響し、飲み水の確保が難しくなっている。ウクライナはロシアの犯行と主張し、国際刑事裁判所が調査を始めた。ロシアのしわざと決めつけるわけにはいかないが、ウクライナの反転攻勢を阻止するためのダム爆破ともささやかれる▼<荒梅雨の降れば必ず人死ぬる>日野草城。反転攻勢を本格化させたウクライナに対し、ロシアのなりふり構わぬ行動が心配になる。これ以上、市民の「空知らぬ雨」を見たくない。
 

 


今日の筆洗

2023年06月12日 | Weblog

映画『ラヂオの時間』などの脚本家、三谷幸喜さんにはアイデアに行き詰まったときに使う奥の手があるらしい▼シャワーを浴びるそうだ。一日に五、六回とは多い。アルキメデスが入浴中に金の純度の測定法につながるアイデアを思いつき「エウレカ(見つけたぞ)!」と叫んだ逸話を思い出す▼バスルームが隠し場所だったとは、見つけた際は捜査員も「エウレカ!」と叫んだか。トランプ前米大統領が大量の機密文書を持ち出し、スパイ防止法違反などの罪で起訴された事件である。フロリダ州の邸宅のバスルームなどに機密文書を隠していたという▼公開されたバスルームの写真に驚く。機密書類が入ったと思われる紙箱が無造作に山積みされている。機密には核兵器に関する軍事情報も含まれている。人の出入りも多かった邸宅と聞く。ここから機密が流出するようなことがあれば、米国のみならず世界を危険にさらしかねなかっただろう▼この三月に別件で起訴され、訴追は二度目となる。出馬を表明している次期大統領選には致命傷だろうと思いきや、そうでもないらしい▼一連の起訴はトランプ支持者にはいわれなき迫害に映るようで、むしろ結束を強める可能性もある。共和党内の候補選びでも、トランプ氏の優位は今のところ動きそうもない。起訴という冷たいシャワー。それでもトランプ信奉者の目は覚めない。


今日の筆洗

2023年06月10日 | Weblog
 「ポッポー、ポッポー」と毎正時を告げる鳩(はと)時計。東京の機械工具の商社、手塚商店(現・テヅカ)を率いた女性社長、故・三橋可免(かめ)さんが戦後間もなく国内向けに製造を始めた▼軍が必要とした測定器を作る仕事は終戦でなくなり、従業員ともども食べていくために手がけた新事業。ドイツのシュワルツワルト地方で作られるカッコウ時計に着想を得た▼カッコウは閑古鳥とも呼ばれ、商売がはやらないさまを「閑古鳥が鳴く」と言うように日本では印象がいまひとつ。戦争も終わったのだからと平和の象徴を代役にした▼今日は天智天皇が日本で初めて水時計を置いた故事にちなむ「時の記念日」。二年前に夫に先立たれた名古屋の女性(84)が寂しさを紛らわせるため、長く壊れたままの鳩時計を実家に頼んで譲り受け、時計職人に直してもらった話が少し前、地元で報じられていた。時計は可免さんの会社製である▼夫の介護で忙しい日々が去り、女性の家に訪れるようになった静けさ。鳩の鳴き声は心地良く、時計から顔を出すのをいすに腰かけて待つこともあるという▼「ポッポーと鳴く鳩が、人々に平和で幸せな時間を告げられますように」と願った可免さん。大正期に夫が病没したため社業を継ぎ、昭和の戦前には息子も病で喪(うしな)っている。人を亡くす悲しみを知る人だからこそ、優しい時計を世に送り出せたのだろうか。
 
 

 


今日の筆洗

2023年06月09日 | Weblog
先天的に両手足がなく、著書『五体不満足』で知られる作家の乙武洋匡さんは一時期、小学校教諭を務めた。後に学校が舞台の小説『だいじょうぶ3組』を書いた▼車いすに乗る主人公の先生は赴任先の始業式で児童にあいさつ。自分には手足がなく、できないこともあると語り「困ってるなと感じたときには、ぜひお手伝いをしてください」と頼むと、後に学年主任に苦言を呈される。「われわれは教師ですよ。どうして、子どもに手伝ってもらわなくてはいけないんですか」▼実体験に基づく話。児童の前では完璧たれと考える教員は少なくないと、乙武さんは別の随筆で振り返っている▼仕事の時間が長くなるのも、完璧さが期待される環境ゆえか。昨年度、残業時間が国指針の上限「月四十五時間」を超えた教員は公立の小学校で六割、中学校で七割以上。処遇改善の検討が国で本格化する▼長い労働のためか教員志望者は減少傾向。実態通りの残業代が払われず「定額働かせ放題」といわれる給与体系も問題視される。不登校の子らと向き合うカウンセラー、部活を指導できる住民らとの分業も大事だという▼乙武さんは、異業種経験者や障害者ら多様な教員が増えればと願う。そのためにも働き方の改善は不可欠だろう。障害とともに生きる作家がかねて唱えるように元来、何でもこなせる完璧な人などいないはずである。
 
 

 


今日の筆洗

2023年06月08日 | Weblog
ブラジル音楽、ボサノバの名曲「イパネマの娘」。歌に登場する魅力的な女性は実在の人物で、名をエロイーザ・ピニェイロさんとおっしゃる。失礼ながら、現在七十七歳になるそうだ▼一九六二年、リオデジャネイロのイパネマ海岸にほど近いバーにいた作曲家のアントニオ・カルロス・ジョビンと作詞家が通りを歩いていた、十七歳のピニェイロさんを見かけ、その姿に着想を得て、曲を作った。もし、その少女が通りかからなかったら曲の誕生はもちろん、ボサノバの今の地位もなかったかもしれぬ▼この曲には別の伝説がある。伝説の主役で、この曲を歌い、ヒットさせた「ボサノバの女王」のアストラッド・ジルベルトさんが亡くなった▼伝説とはこの曲を録音するまでアストラッドさんはプロ歌手としての経験がほとんどなかったこと▼米ジャズのスタン・ゲッツが自分のアルバムにこの曲を採用したが、ポルトガル語の歌詞が分からない。英語のできたアストラッドさんがたまたま英訳して歌ったのを気に入り、歌手としての起用が決まった。もし、英語が話せなかったら…▼ボサノバのボサとはポルトガル語で「突起物」のこと。転じて才能や天性の感覚を意味する。ジョビンがボサノバとは「美しい哀(かな)しみ」の音楽と言ったが、柔らかく、時に壊れやすい歌声がそれを巧みに表現した。大きな「ボサ」をお持ちだった。
 
 

 


今日の筆洗

2023年06月07日 | Weblog
ロッキーという名の不良少年が罪を重ねて、やがてはギャングの顔役になっていく▼悪の道での成功とはいえ、貧しい町の少年たちには、カネを手にしたロッキーが崇拝すべき英雄に映ってしまう▼ジェームズ・キャグニー主演の米映画『汚れた顔の天使』(一九三八年)を思い出した。その容疑者も誰かにとってのロッキーなのか。著名人の裏話を暴露するユーチューバーとなって名と大金をつかみ、参院議員にも当選。芸能人らを脅迫したとして逮捕されたガーシーこと、東谷義和容疑者である▼報道によるとユーチューブのチャンネル登録者数は一時、百万人を超え、広告収入は一億円以上あったそうだ。再生回数を増やすため人の弱みや隠し事を世間に公表するとはおよそ気分の悪いやり方だが、そこにひかれ、あるいは支持した人もかなりいたということか▼大物への階段を駆け上がる様に驚きや小気味よさを覚えた人も少なからずいたはずだ。とすれば、である。言いにくいが、醜い華を産み、育てる土壌や空気がこの世間にもあったということなのだろう▼ロッキーは逮捕され、死刑宣告を受ける。幼なじみの神父がロッキーに頼む。死刑の時は「泣き叫び、臆病者になってくれ」。ロッキーを崇拝する少年たちに幻滅させ、同じ道を歩ませないためである。逮捕で容疑者への一部の「あこがれ」がなくなればよいが…。
 
 

 


今日の筆洗

2023年06月05日 | Weblog
俳人の正岡子規はウナギが好物だった。が、代金のことはあまり考えなかったらしい。親友の漱石が「子規という奴(やつ)は乱暴な奴だ」とまわりにこぼしている▼旧制松山中学の教師だった漱石の下宿に子規が居候を決め込んだ。その二カ月の間、子規は毎日のようにウナギを食べていたという。支払いはどうしたか。「帰る時になって、万事頼むよ、とか何とか言った切りで発(た)ってしまった」(高浜虚子『回想 子規・漱石』)。代金は漱石が払った▼二人の関係ならともかく、頼りない「代金」の話が心配になる。政府が公表した少子化対策の「こども未来戦略方針」である▼児童手当の拡充などで子育て世帯の負担を軽くし、子どもを持つためらいをやわらげる。年間の出生数が八十万人を割り込む危機的な状況の中、思い切った手を打つのは当然だが、その財源となる「年三兆円台半ば」をどう用立てるかがどうも、はっきりしない▼国民に追加負担を求めず、消費税などの増税も行わないとおっしゃる。ありがたい話にも聞こえるが、それで本当に安定した財源を確保できるものなのか。そのやり方は「後はどうにでも」の子規のウナギ代を疑わせるが、それではせっかくの政策も怪しくなるだろう▼政府与党からこの手の虫がいい話が出てくるとあのにおいが漂ってくる。カバ焼きではなく、衆院解散・総選挙のにおいである。 
 
 

 


今日の筆洗

2023年06月03日 | Weblog

一九八三年、谷川浩司さんは二十一歳二カ月で将棋の名人になった。史上最年少。勝った翌日から色紙を求められ「前進」などと書くも、署名に「名人 谷川浩司」と書けず「谷川浩司」とだけ記した▼名人戦以外はタイトルの挑戦者にもなったことがなかったのに、最も歴史があり別格とみられる称号を初挑戦で得た。ふさわしい実力はないと思っていたという▼名人奪取前、棋士仲間らも「時期尚早」とみていると視線で感じた。三連勝してあと一勝に迫り、対局から神戸の家に戻る新幹線で「自分はとんでもないことをしているのでは」という気持ちに襲われたと著書で明かしている▼谷川さんの史上最年少名人の記録を、藤井聡太さんが四十年ぶりに破った。二十歳十カ月。竜王など六冠保持者として名人に挑んだが、七冠目を「時期尚早」とみていたファンは恐らくいまい。実力者にまた、ふさわしい称号が加わったというべきだろう▼本人は「とても重みのあるタイトルだと思うので、今後それにふさわしい将棋を指さなければ」と話した。慎み深く高みを目指す姿に凄(すご)みを感じる▼谷川さんは八四年、名人位の防衛を果たし「弱い名人から並の名人になれたと思います」と語った。謙虚な物言いもまた、後に最年少記録を破る若人が受け継いだかのよう。並々ならぬ器量に見えるその人は一体、どこまで伸びるのだろう。


今日の筆洗

2023年06月02日 | Weblog

故・瀬戸内寂聴さんの『夏の終(おわ)り』は自身の恋愛に基づく小説として知られる。本名の瀬戸内晴美時代の一九六三年、女流文学賞を受賞した▼主人公は旅先のソ連で、日本で待っているはずの深い仲の男の死をその妻から告げられる夢を見る。不安を覚えつつ旅を続けて帰国するが、こんなくだりがある。「スプートニクを飛ばしている一方、航空便が二カ月もかかって日本へ着くような奇妙な文明国のソ連内からは、安否のききようもなかった」▼東西冷戦期の五七年、人類初の人工衛星「スプートニク1号」を打ち上げ、覇を競う米国を慌てさせる一方で不便が多い国を「奇妙な−」と皮肉っている▼北朝鮮が軍事偵察衛星「万里鏡(マンリギョン)1号」を載せたロケット打ち上げを試みたが、失敗した。名の通り、遠くまで見る能力を得て米国、韓国、日本の艦艇や兵器の配置を把握したいらしい▼冷戦期同様の分断が続く朝鮮半島で体制を守るには欠かせぬと考えているのか、再挑戦するという。だが、国は食糧難で餓死者も出ていると聞く。金に糸目をつけぬ軍事的野心と足元の貧しさのギャップ。昔のソ連に劣らず「奇妙な」感を覚える▼ロシア語のスプートニクには、同行者や人生の伴侶という意味もある。なるほど衛星は、ロシア人に限らず権力者にはよき伴侶か。体制との同行を強いられる民は今、半島の北側で何を思うのだろう。


今日の筆洗

2023年06月01日 | Weblog
「梅に鶯(うぐいす)ホーホケキョ、京都の名物京人形、行儀のよい子は利口の子、子どものお好きな布袋(ほてい)さん」。昔からの言葉遊びでホーホケキョから京都という具合にしり取りがずっと続く。途中は省くが、後半は「足袋にキヌテンコールテン」「天神様には牛と梅」。「梅」で先頭に戻るので、いつまでも終わらない▼いつまでもおしまいにならない話に、こんなしり取り言葉が浮かんでくる。「高速道路がございます、ますますお金がかかりそう、相談したけど打つ手がない、いつか無料は夢ん中、泣かずに待ってもらうを請う」▼料金徴収期限を最長二一一五年まで延長する改正道路整備特別措置法などが成立した。無料化のゴールは遠ざかり、おそらくは半永久的に徴収が続くことになるだろう▼料金徴収期限は二〇〇五年の段階では五〇年。それが一四年に六五年まで延長され、今度は二一一五年。老朽化した道路や橋の改修には巨額の費用が必要、少子化によって利用者も減る−。政府の言い分はある程度は理解するにしてもやり方が気に入らない▼料金をどうするか、根本の議論を避けている。無料化は困難と思いながらも正直に話さず、さも、いつかはその日が来るという法改正では利用者はごまかされている気分にもなる▼しかも九十二年後。楽しみに待つことにするが、無責任な期限延長はそれこそ「道」から外れている。