「いつか母の死を受け入れられるとは思うんですけど、寂しさはなくならないと思います
人には必ず誰かとの別れが訪れる。
だが、母を亡くした時、「母ロス」と呼ばれる苦悩や悲しみに襲われる人は少なくない。
『母ロス』(幻冬舎新書)の著書がある心理学者の榎本博明さんによれば、母ロスとは、心理学の専門用語で「対象喪失反応」、つまり愛着の対象を失うことに伴う心理反応のことだという。
「欧米では配偶者を失った場合に対象喪失反応が出やすいのに対し、日本では親を失った時に顕著です。
欧米では配偶者同士の絆が強いのに対し、日本では親子間の距離が近いため。
また、父親より母親を亡くした時の喪失反応が強いのは、それだけ母子関係が強いからです」
一般的な母ロス反応として
(1)心身の不調、
(2)故人のことばかり考える、
(3)故人の死にまつわる罪悪感、
(4)敵意のある反応、
(5)喪失前に果たしていた役割がうまく果たせなくなる、などがあるという。
「配偶者や友だちなど、グチを聞いてくれる人がいることが大切。
そうして心の中にしっかりとした居場所をつくり、心の中に生かし続けることが大事。
逆に、対象喪失という事実から目を背け、一心不乱に仕事に没頭したりするばかりでは、いつまで経っても喪失というつらい現実を消化することはできません。
これは母親に限らず、配偶者や子どもなど、大切な人を亡くした人も同じです」
「母親が亡くなった場合、混乱して自己コントロールを失って冷静な対応ができなくなり、攻撃的な衝動が表れます。
それが医師や看護師などの病院関係者に向くこともありますが、自分に向かった場合は、罪悪感や自責の念になります」(榎本さん)
●現実を直視すること
母ロスから立ち直るには、どうすればいいか。
アンケートでは「母への手紙を毎日書いて客観的に自分の気持ちを知るようにした」「時間が解決してくれた」など、様々な意見があった。
都内の会社員の男性(56)は、12年前に母を80歳で亡くし、うつを発症したが、現実と向き合うことで母ロスから立ち直ることができたという。
症状がよくならず、精神科に入院。
入院中、投薬を中心とする治療がなされたが、同じ入院患者や友人らに励まされる中で、現実を見つめ直すことができた。
人は遅かれ早かれ必ず死ぬと心から思えるようになったという。
積極的に治療に取り組み、母の死を受け入れることができるようになり、半年で退院できた。
今は、母親のいない生活を普通に受け止めている。
男性はこう振り返る。
「何をしても100%はありません。
見送り方にしても治療法にしても、その時はわからないなりに最善のことをしてきたと思います。
そんな自分を容認してあげましょう」
実は小平さんも今年3月、母を急性白血病で亡くした。享年84。愛情の深い母だった。
今も夜寝る時など、母のことを思い出し、会いたいと思う。
余命を告げたほうがよかったのか、抗がん剤をやめさせればよかったのか、病院を変えればよかったのか……。治療中のそんな後悔も押し寄せてくる。
それでも少しずつ、悲しみや後悔と折り合いをつけていると話す。
「まずは、頑張れた自分をほめてあげてください。
これからも自分の人生を生きていくのですから」(小平さん)(編集部・野村昌二)