樹齢三十年のわたしの楠、この四月末、アパートの住人の意向で、
異様に奇妙な形に切り詰められてしまった。
陽の光を遮るからと、あの深い緑をたたえた大木の枝が、葉を一枚も
残さずに、無惨に切りおとされてしまった。
ヘルマン・ヘッセの詩の樫の樹は、金剛不壊だった。
わたしの楠も、九月の声を聴き、根気よく新しい葉を枝から出して、
今、やわらかく緑に萌えています !。背丈はすっかり低いまま・・・
根方にはこの三十年間、亡くした愛鳥たちの亡骸を預け続けてきた。
樹には樹の精が宿る、と、わたしの郷に言い伝えがあって、庭の樹
を移したり枝を切るとき、お酒とお米と塩と水を供えて願かけをします。
それだから、どうぞ楠さんも 精霊を慰めてください。
ケルトの国でも、樹に霊が宿ると何かで読みました。
そう聴くだけで、ほっとしてわたしの心は和みます。
朝は一番にミンミン蝉、次にジージー蝉が木陰の辺りから
聞こえます、雨の日は雀の雨宿り樹になって、彼らの恵み多い
場所です。
はやく冬になるといいのに。雪が降ると枝々に雪を載せて、
見事な冬景色が待ち遠しい・・・・
夢想しながら ベランダから、ぬれた楠の眺めはいいものです。