このごろ また しきりに想うのは、ギッシングの『ヘンリ・ライクロフトの私記』です。 いつもの散歩路、雑木林の枯れ草の匂いのなかを、ゆたりゆたり歩きながら、帰ったら、冬の章を読もう・・・、と思っている。
ライクロフトは、ゆったりと人生の後半を穏やかに、悠々自適にすごして五十五歳に永眠した。作者ギッシングは四十六歳まで生きた。その己の架空の余生を、ライクロフトの生きように託して自らの憧れとして描いたのか・・・。不憫でならない。
ふと、帰途、彼の好きなキンポウゲを見つけたかったが、知らないので代わりに、きれいに色づいたなんの樹だかの葉を〈なにかの縁ね〉と言って、呼びかける数枚を拾う。まるでギッシングになりきっての、おだやかな朝の散歩でした。もちろん、冬の章に心奪われた午前中でした。