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詩と物語を紡ぎます

石榴 ― long version ―

2017-08-01 22:30:00 | poem



       石榴
    ― long version ―



 灰色の空からひと粒、雨がこぼれる。ひと粒、ひと粒、またひと粒、と。
 一度こぼれ始めると、もういけない、堪える術を空は持たない。
 濃灰色の雲が大粒の雨を落とし、幼き輩がわたし目がけて掛けて来る。


 わたしは、まだ青い、青い石榴の実。繁りの葉をわたしは思い切り拡げる。
 さあ、おいで。ひと時わたしの傘で、君たちが濡れないように包もう。



 なつはきたのかな? それともどっかいっちゃったのかな?
 ほんの一時間前、ユウキがわたしを見上げながら呟いた。
 きょねんはおひさま、もっとぎんぎん、だったよね、とトモちゃん。
 うん、ひやけ、いったかったもん、なのにことしは、とアッちゃん。
 まいんち、くもって、やなかんじだよねぇ、とエッちゃん。
 もんだいは、きょうから、はちがつなんだよな、とシンくん。

 そう、シンくんのゆうとおりなんだ、はちがつだのに、とユウキが口を尖らせ。

 なつじゃない、みたいだ!

 仲間たちは声を揃えた。



 八月一日。
 この地に生まれ育つ、仲良し五人組。幼い探求者たちは円陣を組む。

 なつはきたのか? どこかでよりみちしてるのか? つきとめる!
 つきとめる!

 なつをさがそう!
 さがそう!

 たんけんだ!
 たんけんだ!


 鳴く蝉に、ユウキが尋ねる。
 ねえ、なつがきたか、しってる?

 夏が来てなかったら、俺たちこうして鳴いてないと思うけどね。

 何だか、頼りない答え。


 舞う蝶に、エッちゃんが尋ねる。
 ねえ、なつがきたか、しってる?

 夏じゃなかったら、こうして舞ってられないわよ。

 やっぱり何か、頼りない答え。


 踊る蜂に、シンくんが尋ねる。
 ねえ、なつがきたか、しってる?

 さあね、今、蜜の掻き入れ時なんだ、それどころじゃない。

 おっと、かなり、頼りない答え。


 咲き誇る花々に、トモちゃんが尋ねる。
 ねえ、なつがきたか、しってる?

 さてねえ。アタシたちは、シルバーセンターの人が世話してくれるから。

 興味なし? 頼りなさ過ぎの答え。


 木々の繁りに、アッちゃんが尋ねる。
 ねえ、なつがきたか、しってる?

 ざわざわわ、ざわざわ、ざわわ。

 ゲゲゲッ、答えになってない!


 君たちの探検が続いたけれど、誰も本当の答えを知らない。

 それが冒険。



 降り出した雨は止み間も見えず、どんどん激しくなってゆく。
 リーダーのユウキが決断する。

 おれがかあちゃんに、えすおーえす、ゆいにいくから、みんなまってろ!
 ユウちゃんだけぬれちゃうよ、みんなでかえろうよ、と女の子のリーダーのエッちゃん。
 おんなのこをあめにぬらすおとこはさいてーなんだよ、シンくんとアッちゃんは、エッちゃんとトモちゃんぬらさないようにまもれ、おれいってくる!

 ユウちゃん!
 ユウキ!


 本降りになった雨の中、全力疾走のユウキが消えた。
 と思ったら、手を降るずぶ濡れのユウキの後ろから駆けて来る、五人組のママたち。
 四人は、歓声を上げた。


 おばちゃん、ユウちゃんおこらないで!
 うん、ユウキね、カッコよかった!
 おんなのこをあめにぬらすおとこはさいてーなんだ、て!
 ユウキはゆうきあるのユウキだよ!
 シンくんもアッちゃんもやさしかった!


 興奮冷めやらぬ五人組、かと思ったら、ユウキが大あくびしているよ。
 ユウキだけじゃない、シンくんもアッちゃんも、エッちゃんもトモちゃんも。
 今日もユウキの家で、みんな揃ってお昼寝、だね、きっと。



 わたしが赤く熟れて、弾ける時が来たら、種に思いを乗せよう。
 幼き輩よ、今日の日の、君たちの冒険が、君たちの夏なのだということを。

 君たちは一歩世界に踏み出して、世界は君たちに開いていく。

 幼き輩よ、やがて君たちは知るだろう、広い野原に見えるここが、実はごくありふれた狭い公園に過ぎないことを。
 その時、君たちは新たな世界を見つけていくだろう。

 石榴たる、我が子《たね》が、新たな地を探し当て根付いて行くように。



 もし旅の途中で、平坦ではない道のりに疲れたら、思い出して、今日の日を。
 恥ずかしがらなくてもいい、いつでも帰っておいで、わたしの下へ。


 ここは、――わたしは、君たちの夏、君たちの故郷だから。



written:2017.08.01.


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