あこがれ
白いサマードレスとYシャツの裾が、海風にはためいて、湿った甘い匂いがする。太陽も蟹もいない寂しい、波打ち際に足を浸して、ぼくときみと、夏と、約束の幼い日に、還る。
白い陽射し、白い砂浜、汗をかいて、小さな手いっぱいに拾い集める、貝殻虹色の燦めきにときめいて、はずむ、こころ。その向こうにはいつも、『海』が、茫洋として、あった。
ocean blue、sky blue、
次から次に、湧き立つ、
入道雲の、perspective、
水平線の、gradation、
まずぼくが、続いてきみが、目を奪われて、せっかく拾った、貝殻の幾つかをこぼし、銀の波が渡る果てどない碧い水面を、手を取り合って、身を寄せ合って、見つめた、『海』。
ひろいね。
ひろいね。
(あのむこうに)
(なにが、あるんだろう?)
すこし、こわいね。
すこし、こわい、ね。
(あのむこうに)
(なにが、あるんだろう?)
いつか、いこう。
あのむこうへ、いっしょに。
幼い『あこがれ』の『約束』だけが、ぼくときみを繋いで、今年も白い夏が手招きをする。雨の海岸、誰もいない砂浜に、閉じたパラソルが一本揺れている。濡れることを厭わず、ぼくらは、ただ好きなだけでよかった頃の想い出を抱いて、
(未だ、知らない、世界)
そっと、そっと、
唇を、重ねる。
written:2017.08.17.〜21.
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