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詩と物語を紡ぎます

あこがれ

2017-08-21 01:20:00 | poem
       あこがれ



 白いサマードレスとYシャツの裾が、海風にはためいて、湿った甘い匂いがする。太陽も蟹もいない寂しい、波打ち際に足を浸して、ぼくときみと、夏と、約束の幼い日に、還る。

 白い陽射し、白い砂浜、汗をかいて、小さな手いっぱいに拾い集める、貝殻虹色の燦めきにときめいて、はずむ、こころ。その向こうにはいつも、『海』が、茫洋として、あった。


 ocean blue、sky blue、
 次から次に、湧き立つ、
 入道雲の、perspective、
 水平線の、gradation、


 まずぼくが、続いてきみが、目を奪われて、せっかく拾った、貝殻の幾つかをこぼし、銀の波が渡る果てどない碧い水面を、手を取り合って、身を寄せ合って、見つめた、『海』。


 ひろいね。
 ひろいね。

 (あのむこうに)
 (なにが、あるんだろう?)

 すこし、こわいね。
 すこし、こわい、ね。

 (あのむこうに)
 (なにが、あるんだろう?)

 いつか、いこう。
 あのむこうへ、いっしょに。


 幼い『あこがれ』の『約束』だけが、ぼくときみを繋いで、今年も白い夏が手招きをする。雨の海岸、誰もいない砂浜に、閉じたパラソルが一本揺れている。濡れることを厭わず、ぼくらは、ただ好きなだけでよかった頃の想い出を抱いて、

 (未だ、知らない、世界)

 そっと、そっと、
 唇を、重ねる。



written:2017.08.17.〜21.



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