2006 No.6 6/12-6/16
作者:小松左京(小学館文庫 上下 各571円)
評価・・・★★★★★ 5.0
7月15日(土)から公開される映画『日本沈没』の原作です。
大規模な地殻変動により、日本列島が2年以内に海中へ沈んでしまうことになったら、日本はどうなるのか?・・・ということを描いたとてつもなくスケールの大きい作品。
原作が出版されたのが1973年3月。今から33年も前の作品にもかかわらず、圧倒的なパワーを持っていて夢中で読み進みました。
日本列島が沈んでしまうという怖ろしい未来に直面しなければならなくなった人々の様々なドラマには、胸が震えるような強い感情がわき上がってきて、時に涙ぐみながら読んでいました。
この作品は沈み行く日本の混乱を描くだけでなく、この日本への深い愛も描いています。
日本の美しい自然、文化、そして未熟な部分はあるけれども愛すべき日本人・・・
そういったものを育んできた日本列島が沈んでしまうということ・・・それはただ住み慣れた場所を失うというだけではなくて、“母”ともいうべき大きな存在を失うということであり、日本人の心のよりどころを失うということであり、日本人のアイデンティティーを失いかねない大きな出来事であるのだ・・・
そういうことを想ったとき、ふと自分の中に日本への愛が強くわき上がってきて、とまどってしまいました。
この作品の中心的人物で、日本沈没直前まで捨て身の救出活動を行った潜水艇パイロット・小野寺が、重傷を負いながらもなんとか日本から逃れ、シベリアを行く列車の中で最後に助けた少女から八丈島の伝説を聞かされるところで、小説は終わります。
その八丈島の丹那婆(たなば)という娘の伝説は、絶望の中にあっても人間は力強く生きようとするものなのだ、ということを教えてくれているようで、不思議と力づけられました。
たとえ日本が沈んでしまっても、きっと私たちは強く生きていける!
・・・と、まるで自分も小説の中の世界の人物のように思ってしまいました(^▽^;)
ちなみに、映画の方の人物設定は原作とは結構違うようです。
私のお気に入りの登場人物は、小野寺、田所教授、渡老人。この渡老人が映画には出てこないんだけど、それに代わる人物は誰になるんだろう?
映画では日本列島が沈んでゆくところがどんな映像になるのかも楽しみです。
原作でも、自分の住んでいる地域がまさに沈もうとしているふうに描かれていて胸が痛くなったのですが、映像になるともっとすごいんだろうな。
日本が沈没するメカニズムを説明する部分ではかなり専門的なことが出てくるのですが、高校時代の地学のテキストが大活躍してくれました。日本付近の地震の震央分布図、活断層分布図、世界の海底地形図、プレート図など。高校時代は資料的な図表でしかなかったものが、突然日本沈没の可能性を秘めたものに見えてきて、ちょっと怖くなってしまいました。
あと、地図帳も大活躍でした。結構いろんな地名が登場するのですが、なじみの薄い地名も多いので、地図帳で位置を確認しながら読むと、イメージしやすかったです。