2006 No.7 7/12-7/13
作者:有吉佐和子(新潮文庫 上巻552円、下巻590円)
評価・・・★★★★☆ 4.5
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!ネタばれ注意!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
現在、フジテレビ系で放送されているドラマ『不信のとき』の原作です。
この小説が日本経済新聞に連載されていたのは昭和42年。今から39年前になります。ときどき時代を感じさせられる言葉が飛び出すことはありましたが、ほとんど古さを感じさせない作品でした。男と女のことは、いつの時代も変わらないということなんでしょうね。
最初、妻・道子が滑稽に見えて仕方がなかった。
過去に夫が何度か浮気をして大騒動になったことのある道子は、夫・浅井の心をつなぎとめるためかいがいしく夫に尽くす一方、厚化粧をしたり、派手なネグリジェを着たり、寝室をピンクやフリルで飾り立て、夫には内心あきれられている。また、自分は美容のためにあっさりとした食事にしているのに、夫にはスタミナ料理ばかり食べさせてウンザリされているのにも気づかないでいる。
そのうち、夫はまた愛人を作り、愛人は妊娠する。
しかも、この夫は以前、妊娠したと言って妻との離婚を迫る不倫相手から逃げ出した経験があるのです。(このことは妻は全く気づいていない。)
愛人・マチ子が出産したと思ったら、今度は妻も結婚15年目にして初めて妊娠。
運命のイタズラにおろおろしながらも、妻と子の生活も、愛人と子の生活もそれぞれ楽しみ、仕事では部長に昇進し、「俺の人生充実してるなー(^▽^)v」とニンマリ。
「バカかこいつは」と中盤では浅井に対して怒りを通り越してあきれていたのに、後半ではその夫がさんざんな目にあって哀れで仕方がなかった。
ついに妻と愛人が鉢合わせし、浅井ぬきで一対一で対峙することに。
そこで愛人は妻に、浅井を愛してはいない、ただ子どもを産みたい自分にとっては浅井は手頃な存在だった、と言い放ちます。
愛人はそれきり子どもを連れて自分の田舎に帰り、妻との仲は完全に冷え切ってしまう。
それでも愛人の真意を知らない浅井は愛人を懐かしがり、愛人の子どもに会いたく思っていると、今度は妻が爆弾発言!
なんと、夫は「先天性無精子症」であるのだから、愛人の子が彼の子であるはずがないと言うのです。そして、妻が産んだ子はAIDによる人工授精で生まれた子どもだから、夫との血のつながりはないと・・・
激しいショックを受け、にわかに信じることはできない浅井。
ずっと妻との間に子どもができなかったのは、妻が子どもを産めないからだと信じていたのに・・・
そして妻は、子どもができないのは自分ではなく夫に原因があるのにそれを秘密にし、妻に原因があるのだという信じ切っている夫にひたすら尽くしてきたということになる。
そして「子どもさえ産んでくれれば完璧な妻だ」という浅井の言葉に一念発起し、巧妙にことを運んで、夫には内密に人工授精で妊娠し、夫と血のつながりのない子を夫婦の初めての子として育てていたのです。
女ってコワイ!
一方、「認知はしなくていいの。お金はいらないの。ただ子どもを産みたいだけなの。先のことはいいから、今だけでも子どもの父親らしく振る舞ってくれたらそれでいいの」というようにものわかりのいい様子を見せていたマチ子が、浅井から自分は子どもができない体質だということを聞かされた途端ぶちギレて(自分から逃げるためのウソだと思ってしまった)、浅井の会社に彼の不誠実を訴える手紙を子どもとの写真付きで送りつけ、浅井はいつ左遷されてもおかしくないような窮地に追い込まれるのです。
妻の爆弾発言が本当なら、このマチ子も昔の愛人も他の男の子を妊娠したということになるのに、両方ともあくまで浅井の子だと言い張るのがすごく不気味。
本当に女ってコワイ!
あと、おもしろかったのは浅井の仕事相手で、彼とは奇妙な同盟関係とも言うべき存在の小柳老人。彼は60を過ぎて、ハタチにもならない小娘を愛人にして子どもを産ませ、みっともないくらい愛人と子どもにおぼれていくのだけど、最後は愛人が子どもを妻に押しつけて若い男の元に去っていくという憂き目に遭うのです。
おろおろする小柳に追い打ちをかけるように、彼の妻は別居宣言をして息子夫婦の元へ去ります。あとには母親がいなくなって泣き叫ぶ子どもだけが残されて・・・
浮気をしていい気になっていた男が、最後にはさんざんな目に遭ってしまうという、女側から見ればなんとも痛快なお話でした。
有吉佐和子というと、これまでに『華岡青洲の妻』『非色』『和宮様御留』を読んだことがあったけど、どちらかとうと文芸色の強い作家というイメージでした。
でも、こんな現代に生きる人間の生々しい部分をリアルにおもしろく書くことができる作家さんなのですね。
他の作品もかなりお薦めのものが多いみたいなので、また他の作品も読んでみたいです。