英次の声がそこから無遠慮に漏れていたが、英次は今年三十五で、別に会社も仕事という仕事も持つわけではない。一瞬家中が静けさに沈んだ。彼の事情を雄吉は熟知し、会社へ行く会社とはある市中の場を指すのを責めるのが嫌で、外のことに浮かされていたがる。今朝は例の推理小説なのであり、「犯人には、肉親の間にふつふつ煮えたぎったものがあり、実妹の裸体を目の前に殺意が萎え、魅せられていて竦んだのだった・・・」
雄吉は事実それに浮かされる。ドアをふり向いていて、ドアは妙子の信仰の友に勧められて改めた、明彩色のピエロの柄である。廊下には、築後十年目に建てこむ郊外の朝日が輝いて、雄吉に感傷を呼ぶと、今しばらくはその頭をなだめる時間が要るようであった。
(つづく)
雄吉は事実それに浮かされる。ドアをふり向いていて、ドアは妙子の信仰の友に勧められて改めた、明彩色のピエロの柄である。廊下には、築後十年目に建てこむ郊外の朝日が輝いて、雄吉に感傷を呼ぶと、今しばらくはその頭をなだめる時間が要るようであった。
(つづく)