英次の背中にリュックを任せてやりながらいった。
「気をつけてね、英次」
「うん」
今のこの感情を妙子は昔に味わったことがある。雄吉は妻に異性を嗅ぐ朝の風景がドラマふうに、一つの場面と化して浮かんだ。豊かな乳房の頭がリュックの生地にこすれていて、おぶさるように英次の背中から肩や胸にかけて腕を回した。
「行かなきゃ遅れるよう」
「表通りは静かでしょう、英次は今朝子供の日と知っていて?」
「うん。ママ、じゃあ会社へぼくは行くんだ」
声を吐き出す機械に似ている英次と長男の子の声が、妙子の空耳に聞く時、無表情の顔がドアに向かって裏返った。軽快な感じの身ぶりで、英次はドアを開ける。リュックが住宅街の光の中に飛び出して行くのを、妙子は夢中の人になって送り出していた。爽やかな風と五月の光が束の間に、三和土に侵入した後でドアは荒っぽく閉じている。
「会社はお休みなのも?・・・」
妙子は絶句して立ち尽くすが、長男親子と同居した当時が懐かしくなるのだった。
(つづく)
「気をつけてね、英次」
「うん」
今のこの感情を妙子は昔に味わったことがある。雄吉は妻に異性を嗅ぐ朝の風景がドラマふうに、一つの場面と化して浮かんだ。豊かな乳房の頭がリュックの生地にこすれていて、おぶさるように英次の背中から肩や胸にかけて腕を回した。
「行かなきゃ遅れるよう」
「表通りは静かでしょう、英次は今朝子供の日と知っていて?」
「うん。ママ、じゃあ会社へぼくは行くんだ」
声を吐き出す機械に似ている英次と長男の子の声が、妙子の空耳に聞く時、無表情の顔がドアに向かって裏返った。軽快な感じの身ぶりで、英次はドアを開ける。リュックが住宅街の光の中に飛び出して行くのを、妙子は夢中の人になって送り出していた。爽やかな風と五月の光が束の間に、三和土に侵入した後でドアは荒っぽく閉じている。
「会社はお休みなのも?・・・」
妙子は絶句して立ち尽くすが、長男親子と同居した当時が懐かしくなるのだった。
(つづく)