唇を噛む、沈みこむのも愚かな無駄なことだった。胸に舌打ちを残しながら、急ぎ操る。『九回二死、清原ドカーンと逆転一発』と字面が雄吉の目に入り新鮮で、挑発的に感じた。だがすぐにそれも今朝の頭には伸びやかな選手の姿態が、ひっかかる。どうしても嫌味、僻み、嫉妬に走りそうな予感がしてうんざりするのだった。すると静かな妻子がやたら苦痛で、
「とうとう明け方になって、<地図>を読み切っていたよ。犯人がきゃつだったとはな」と二人にはわけがわからないのを承知でそういって小さく息を吐いていた。
「表の裏の裏は表というわけでね。怪しい人物が犯人でした。単純なトリックだった。それを見破れんかったことは残念」
「あなた、気楽なことをいって、体に気をつけてくださらなくては・・・」
耄碌するにはまだ早いとでもいう妙子の声を聞いた。
(つづく)
「とうとう明け方になって、<地図>を読み切っていたよ。犯人がきゃつだったとはな」と二人にはわけがわからないのを承知でそういって小さく息を吐いていた。
「表の裏の裏は表というわけでね。怪しい人物が犯人でした。単純なトリックだった。それを見破れんかったことは残念」
「あなた、気楽なことをいって、体に気をつけてくださらなくては・・・」
耄碌するにはまだ早いとでもいう妙子の声を聞いた。
(つづく)