雄吉はまだ朝刊紙の壁に隠れながらいた。そうして卓上には粽が消えてないのを、妙子は、
「昔に比べて、お味はいかがでしたか」
と隣家の耳を意識して大きくいった。朝刊紙が揺れ、ガサリと音を立てる。雄吉が紙面から顔をあげると、
「英次は機嫌よく出かけた。それは何よりだったな」
とぼける雄吉であった。妙子はそんな雄吉の、隣家をとかく意識した自分に対するあてつけを知り、
「粽も変わるわ。人間も随分変わったんですもの」
「ああ粽。そうでもない。もともと形式的な食べものだろうし」
「人間とは違う。ほほほ」
妙子はわけのわからない笑顔でなく、いい年していおうとして止した結果なのだ。夫への信仰があるなしに対して、ちょっとしたプライドを誇ろうという妙子だった。
「五月晴れだな。英次と一緒に行きたかった」
と雄吉は対抗したつもりではないが、三本目の煙草に火をつけて強がるように、そういう。
(つづく)
「昔に比べて、お味はいかがでしたか」
と隣家の耳を意識して大きくいった。朝刊紙が揺れ、ガサリと音を立てる。雄吉が紙面から顔をあげると、
「英次は機嫌よく出かけた。それは何よりだったな」
とぼける雄吉であった。妙子はそんな雄吉の、隣家をとかく意識した自分に対するあてつけを知り、
「粽も変わるわ。人間も随分変わったんですもの」
「ああ粽。そうでもない。もともと形式的な食べものだろうし」
「人間とは違う。ほほほ」
妙子はわけのわからない笑顔でなく、いい年していおうとして止した結果なのだ。夫への信仰があるなしに対して、ちょっとしたプライドを誇ろうという妙子だった。
「五月晴れだな。英次と一緒に行きたかった」
と雄吉は対抗したつもりではないが、三本目の煙草に火をつけて強がるように、そういう。
(つづく)