搦手門を出ると左手にとった。英次は城址をくるり三周するのが日々の仕事。習慣になっていて、舗道の喧騒に出たり、緑陰に入ったり、今は樹木の光の散らばりを気隋に踏んでいる。リュックが、通りがかりのOLに美しい真顔をつくらせる時、城址の太陽を中心に回る星のように、英次の姿は昼さがりに時計の役をしていた。星は孤独なのが常だったが、英次はこの道にある時には一周二周、三周とお気に入りの気持ちだったのだ。もっとも目顔に輝きを宿している。
「もうこんな時なの」
OLは数年間続いた英次の姿に気づくとそういって、会社の噂話を続けて行った。「私たちを課長はこき使って。一度は抗議しなくてはと思うわ」
「それに、エッチなの。喜ぶとでも思っているのよ。あの課長が出世に無縁なのは当たり前ですわね」
「あなた気をつけて。不満の受け口にならないように、課長の」
「うまくやりましょう。喫茶店でサボッちゃいましょうか」
賛成々々と次第に小さく行き過ぎていた。爽やかな微風が颯爽たるOL二人の背後を追い立て、英次の行く手にそれが一層、仕事に対する意欲を煽った。英次に触れてくるものは風、でも仕事に励みを与える風との触れあいのように思えば、自然に身が弾んだ。触角が仕事に誘ったのだろう。
(つづく)
「もうこんな時なの」
OLは数年間続いた英次の姿に気づくとそういって、会社の噂話を続けて行った。「私たちを課長はこき使って。一度は抗議しなくてはと思うわ」
「それに、エッチなの。喜ぶとでも思っているのよ。あの課長が出世に無縁なのは当たり前ですわね」
「あなた気をつけて。不満の受け口にならないように、課長の」
「うまくやりましょう。喫茶店でサボッちゃいましょうか」
賛成々々と次第に小さく行き過ぎていた。爽やかな微風が颯爽たるOL二人の背後を追い立て、英次の行く手にそれが一層、仕事に対する意欲を煽った。英次に触れてくるものは風、でも仕事に励みを与える風との触れあいのように思えば、自然に身が弾んだ。触角が仕事に誘ったのだろう。
(つづく)