三色すみれが五月の微風に慰撫されると妙子は、依怙地になって見つめる。汚れを英次が極度に嫌う、そんな性質を母は承知していた。が信仰の壁を塗る。三色すみれも、もとはといえ教祖の勧めに従った。今年は梅、桃、そしてなぜか三色すみれを飾っていたものであり、親子は一世、夫婦は二世を契ると教えるので、妙子は雄吉の様子を知るため、首をそっと回して見る。
「ママ、早く早く」
と英次はいう。椅子を離れて佇む。出勤前のサラリーマン然としていたのは見かけばかりの、英次の股間に、妙子の目が雄吉に届く途中で異様な脹らみを捕えていた。妙子に美醜の感覚が働くのみ、赤面して見せているのは。お椀の若布は折角、頭に効くと勧められたものなのに・・・零してしまってと思いながら、突き離すような目つきをつくっていて、
「自分でなさい」
流しの布巾を放ってやる。その声も艶々した面長の顔も、二十年前に戻ったようだ。その妙子を朝刊紙越しに雄吉が覗き見をして、腕を卓上に伸ばす指先を微かに震わせ、タバコを探るのを、妙子は英次にかまけて見逃した。白、黄、紫と出窓で三色すみれの花が風に笑い、ダイニング・キッチンの情景を皮肉に眺めるじゃないのという、雄吉の目顔を見逃していた。信仰に頼り切るしかない妙子には、時々の視点が限られるのかも知れない。英次を睨むのだった。
「自分でなさいね、英次」
(つづく)
「ママ、早く早く」
と英次はいう。椅子を離れて佇む。出勤前のサラリーマン然としていたのは見かけばかりの、英次の股間に、妙子の目が雄吉に届く途中で異様な脹らみを捕えていた。妙子に美醜の感覚が働くのみ、赤面して見せているのは。お椀の若布は折角、頭に効くと勧められたものなのに・・・零してしまってと思いながら、突き離すような目つきをつくっていて、
「自分でなさい」
流しの布巾を放ってやる。その声も艶々した面長の顔も、二十年前に戻ったようだ。その妙子を朝刊紙越しに雄吉が覗き見をして、腕を卓上に伸ばす指先を微かに震わせ、タバコを探るのを、妙子は英次にかまけて見逃した。白、黄、紫と出窓で三色すみれの花が風に笑い、ダイニング・キッチンの情景を皮肉に眺めるじゃないのという、雄吉の目顔を見逃していた。信仰に頼り切るしかない妙子には、時々の視点が限られるのかも知れない。英次を睨むのだった。
「自分でなさいね、英次」
(つづく)