Tears For Fears - The Tipping Point (Official Music Video)
AIR - Starlet (Live at Yokohama Arena)
Mina Tindle - To Carry Many Small Things (clip officiel)
加藤登紀子 『 帰りたい帰れない 』
(ちんちくりんNo,60)
叔父さんに読んでもらっていたの―。そうかほるからの告白を受けて、僕は、「ああ」とイラストのイメージを膨らませる為、かほるに原稿が出来上がる度に原本を預けていたことを思い出した。ラストシーンの原稿はまだかほるの許にあるはずだ。そのかほるの様子を見ていて七瀬社長が僕の疑問に答えてくれた。「そう、読ませてもらったよ」
「文芸誌を作るにあたってね、作家を育てたいんだ。まだ知られていない新人を。それで、もう随分前からかほるにもそういう話をしていてね。そこで君が現れたわけだ。かほるが君の小説を勧めてくれたんだ、読んでみてって。読んでみて驚いたよ。なんて荒い文章だってね。でもそれは表面上のことであって、一皮剥いてみると非常に繊細な剥き出しの神経のような感性が潜んでいることに気づいた。これはもしかしてもしかするぞ、って思ったね。‥‥‥君は才能があると僕は確信している。どうだろうか、これが君に僕の会社に来て欲しい理由だ。不満なら諦めるよ」
かほるは気まずそうな顔を僕に向けている。勿論僕の心の中は複雑な思いが渦巻いている。せっかく僕自身自分の力を信じて前を向いてやっていこう、というところで、このように勝手に動かれるのは面白くない。でも、現実問題として僕自身が一人で動いたとしてもこれだけの成果が、短い期間の中であげられただろうかと考えると答えは否だ。かほるの行動は逆に僕の行く道を明白にし、更なる前進をしていく上で非常に大きな援軍となった。それに、僕の「複雑な思い」というものは意外と大したことがない。それよりも僕は改めてかほるが僕にとってどのような存在なのか、はっきりと意識した。心が真綿で包まれるような温もりを感じた。僕は隣のかほるの肩に手を置き、はっきりとした意思表示をした。「ありがとう。君と出会って、とても幸せに感じています」
僕は七瀬社長のところでお世話になることに決めた。ただ、七瀬社長の提示は僕にとって好条件なものであったが、同時に厳しいものでもあった。編集者であり作家でもあるということだが、但し三年契約だということ。つまりその間に作家として独り立ち出来るまでにならなければ、三年後の保障はない。編集者という肩書は、会社が僕を作家として育てるための投資をする上で必要な、言わば便宜上のものだということになるのだ。しかも、同じような条件の新人は僕だけではなく、あと三人は予定しているというのだ。競わせるということか、僕はそう七瀬社長の思惑を読み取った。
それでも、少なくとも三年間は生活の心配はせずに小説を書くことに専念出来る。全国に作家志望者が幾多もいる中でそれはとても幸運なことだった。食事が運ばれ、パスタを口に運びながら僕は七瀬社長と今後のことを話し合った。食後のコーヒーを口にする頃には、七瀬社長は新しく作る文芸誌の方向性についてこう口にし、早くも僕の次回作について期待を寄せてくれた。
「純文学とか大衆小説とかそんなのはどうでもいいんだ。血の通った作品を載せたい。君なら書ける。次も君が書かずにいられないものを書けばいいんだ」
必ず物事は良い方向に向かう。僕はそう自己暗示をかけるように繰り返したのだった。
AIR - Starlet (Live at Yokohama Arena)
Mina Tindle - To Carry Many Small Things (clip officiel)
加藤登紀子 『 帰りたい帰れない 』
(ちんちくりんNo,60)
叔父さんに読んでもらっていたの―。そうかほるからの告白を受けて、僕は、「ああ」とイラストのイメージを膨らませる為、かほるに原稿が出来上がる度に原本を預けていたことを思い出した。ラストシーンの原稿はまだかほるの許にあるはずだ。そのかほるの様子を見ていて七瀬社長が僕の疑問に答えてくれた。「そう、読ませてもらったよ」
「文芸誌を作るにあたってね、作家を育てたいんだ。まだ知られていない新人を。それで、もう随分前からかほるにもそういう話をしていてね。そこで君が現れたわけだ。かほるが君の小説を勧めてくれたんだ、読んでみてって。読んでみて驚いたよ。なんて荒い文章だってね。でもそれは表面上のことであって、一皮剥いてみると非常に繊細な剥き出しの神経のような感性が潜んでいることに気づいた。これはもしかしてもしかするぞ、って思ったね。‥‥‥君は才能があると僕は確信している。どうだろうか、これが君に僕の会社に来て欲しい理由だ。不満なら諦めるよ」
かほるは気まずそうな顔を僕に向けている。勿論僕の心の中は複雑な思いが渦巻いている。せっかく僕自身自分の力を信じて前を向いてやっていこう、というところで、このように勝手に動かれるのは面白くない。でも、現実問題として僕自身が一人で動いたとしてもこれだけの成果が、短い期間の中であげられただろうかと考えると答えは否だ。かほるの行動は逆に僕の行く道を明白にし、更なる前進をしていく上で非常に大きな援軍となった。それに、僕の「複雑な思い」というものは意外と大したことがない。それよりも僕は改めてかほるが僕にとってどのような存在なのか、はっきりと意識した。心が真綿で包まれるような温もりを感じた。僕は隣のかほるの肩に手を置き、はっきりとした意思表示をした。「ありがとう。君と出会って、とても幸せに感じています」
僕は七瀬社長のところでお世話になることに決めた。ただ、七瀬社長の提示は僕にとって好条件なものであったが、同時に厳しいものでもあった。編集者であり作家でもあるということだが、但し三年契約だということ。つまりその間に作家として独り立ち出来るまでにならなければ、三年後の保障はない。編集者という肩書は、会社が僕を作家として育てるための投資をする上で必要な、言わば便宜上のものだということになるのだ。しかも、同じような条件の新人は僕だけではなく、あと三人は予定しているというのだ。競わせるということか、僕はそう七瀬社長の思惑を読み取った。
それでも、少なくとも三年間は生活の心配はせずに小説を書くことに専念出来る。全国に作家志望者が幾多もいる中でそれはとても幸運なことだった。食事が運ばれ、パスタを口に運びながら僕は七瀬社長と今後のことを話し合った。食後のコーヒーを口にする頃には、七瀬社長は新しく作る文芸誌の方向性についてこう口にし、早くも僕の次回作について期待を寄せてくれた。
「純文学とか大衆小説とかそんなのはどうでもいいんだ。血の通った作品を載せたい。君なら書ける。次も君が書かずにいられないものを書けばいいんだ」
必ず物事は良い方向に向かう。僕はそう自己暗示をかけるように繰り返したのだった。