Kyuyusaikai 河島英五とアナム&マキ
Paul McCartney & Wings 'Band on the Run' (Lyric Video)
CocoRosie - R.I.P. Burn Face (Live on KEXP)
Tekirei (Acoustic Version) アナム&マキ
(ちんちくりんNo,41)
僕らは揺れる列車の中、乗車口のドアとは反対になるドアを背にして並んでいる。右に立っているかほるは嬉しそうにチョコピーを口に放り込んでいる。僕が余りに渋い顔をしてるものだからそれに気づいたかほるは「食べる?」とチョコピーが入った袋を僕の目前に持ってきたが、勿論そんな気分になれない僕は断った。「美味しいのに」かほるは肩に掛けた大きなトートバックの中にそれを放り込み、今度はそこから文庫本を一冊取り出した。サリンジャーの"ライ麦畑でつかまえて"か。最近の女子高生でもこういうのを読むんだな、と少し感心しかけたがなにしろ僕の右肩下辺りに彼女の左腕がくっ付く。彼女はノースリーブのひらひらした白いシャツを着ていたので、列車が揺れるたびに汗で濡れかけた腕と腕が密着して、妙に悩ましい妄想が生まれてきそうになる。なので、僕は彼女から体を幾分離して隅の方に寄せた。
僕は午後一時過ぎた頃下宿を出たのだった。新宿駅までは一時間半もあれば着くのを見越してのことで、実際特急乗り場のホームには二時三十分を少し過ぎた頃に行き着いた。お盆前で帰郷する人たちが結構いるようで、各乗車指定ラインには長い行列が出来、混雑していた。僕は自由席乗り場の一番短い行列の最後尾に並び、売店で購入した週間漫画誌を読みながらホームに列車が来るのを待っていた。そんな状況の中で僕の肩を後ろから突っつく者がいた。「えっ」と振り向くとそこにはまさかの七瀬かほる。驚いたなんてものではない。僕が思わず「な、なんで」と目を見開くと、彼女は口端を上げて「見送りに来ちゃいけなかった?」と返したのだった。
多分その時彼女は、本当にそのつもりだったのだろう。でも、列車が来て僕が乗り込み発車ベルが鳴り始めて、僕がホームに立っているかほるに手を振ったところで、突然彼女は行動に移したのだった。「やっぱり、私も」彼女は飛翔するかのように列車のタラップに足を掛け、僕の胸に飛び込んだ。ベルが止み、ドアが閉まる。プシューという音とともに列車が動き出した時には、僕はかほるの背中まで腕を回し、その背が高い癖に「ポパイの恋人・オリーブ」のように華奢な体を、強く強く抱きしめていたのだった。
Paul McCartney & Wings 'Band on the Run' (Lyric Video)
CocoRosie - R.I.P. Burn Face (Live on KEXP)
Tekirei (Acoustic Version) アナム&マキ
(ちんちくりんNo,41)
僕らは揺れる列車の中、乗車口のドアとは反対になるドアを背にして並んでいる。右に立っているかほるは嬉しそうにチョコピーを口に放り込んでいる。僕が余りに渋い顔をしてるものだからそれに気づいたかほるは「食べる?」とチョコピーが入った袋を僕の目前に持ってきたが、勿論そんな気分になれない僕は断った。「美味しいのに」かほるは肩に掛けた大きなトートバックの中にそれを放り込み、今度はそこから文庫本を一冊取り出した。サリンジャーの"ライ麦畑でつかまえて"か。最近の女子高生でもこういうのを読むんだな、と少し感心しかけたがなにしろ僕の右肩下辺りに彼女の左腕がくっ付く。彼女はノースリーブのひらひらした白いシャツを着ていたので、列車が揺れるたびに汗で濡れかけた腕と腕が密着して、妙に悩ましい妄想が生まれてきそうになる。なので、僕は彼女から体を幾分離して隅の方に寄せた。
僕は午後一時過ぎた頃下宿を出たのだった。新宿駅までは一時間半もあれば着くのを見越してのことで、実際特急乗り場のホームには二時三十分を少し過ぎた頃に行き着いた。お盆前で帰郷する人たちが結構いるようで、各乗車指定ラインには長い行列が出来、混雑していた。僕は自由席乗り場の一番短い行列の最後尾に並び、売店で購入した週間漫画誌を読みながらホームに列車が来るのを待っていた。そんな状況の中で僕の肩を後ろから突っつく者がいた。「えっ」と振り向くとそこにはまさかの七瀬かほる。驚いたなんてものではない。僕が思わず「な、なんで」と目を見開くと、彼女は口端を上げて「見送りに来ちゃいけなかった?」と返したのだった。
多分その時彼女は、本当にそのつもりだったのだろう。でも、列車が来て僕が乗り込み発車ベルが鳴り始めて、僕がホームに立っているかほるに手を振ったところで、突然彼女は行動に移したのだった。「やっぱり、私も」彼女は飛翔するかのように列車のタラップに足を掛け、僕の胸に飛び込んだ。ベルが止み、ドアが閉まる。プシューという音とともに列車が動き出した時には、僕はかほるの背中まで腕を回し、その背が高い癖に「ポパイの恋人・オリーブ」のように華奢な体を、強く強く抱きしめていたのだった。
シリーズ中の1篇なんですね。
あまり意識してませんでしたが、今回のも完結ですか。
続きがあると、さらに面白くなりそうですが。
何か男性の照れてつっけんどんにしてるところと女の子の天真爛漫さもいいですよね。うらやましいなー。
あ、シリーズというか。
一話完結というつもりはなかったのですが、確かに読み直してみると、そのような書き方をしていました。不定期に書いていましたし。
続きはありますよ。まだまだ続きますので指摘されたことを考えながら書いていこうと思っております。
ありがとうございました。(*^_^*)
そうですか。でもまだ続きますよ。
「男性の照れてつっけんどんにしてるところ」というのはどうも私の小説の主人公は皆そういう性格になってしまう傾向があるようです。前に公募で出したときも講評でそう書かれました。昔、高橋道綱の小説を好んで読んでいた時期があるので、その影響もあるのかもしれません。(*´ω`)