映画の感想など・・・基本的にネタばれです。
しづのをだまき
今井正 四作
しまね映画祭、今井正監督の下記の作品が10月22-23日にテルサで続けて上映された。
「また逢う日まで」「真昼の暗黒」「純愛物語」「青い山脈」
少女時代から熱烈に敬愛していた今井作品をずっと楽しみにしていたので、終ったらどっと疲労して肩が凝っていた。
今回見てよかった順に並べると
1)「真昼の暗黒」(1956年)。その迫力とテンポの良さでぐいぐい迫ってくる。
1951年山口県で起こった実際の事件(八海事件)に材をとっている。
警察の見込み捜査、暴力的な取り調べ、検事と判事の思考停止ぶり、家族と周囲の反応、どれもいかにもリアルである。特に息子の無実を信じる母親(夏川静江)が被害者宅へ「お詫び」に渋々連れていかれる途中で、橋の真ん中で立ち止まってしまい、風呂敷包を解いて線香を川の中に捨てるシーンは素晴らしかった。加害者の家族に加わる世間の圧迫をよく表現している。
2.「純愛物語」(1957年)1と2は50年代、映画最盛期の時代の熱気と監督自身の脂の乗った時期が重なった感じである。
初めて知ったのは1962に十朱幸代主演でTVドラマ化されたのを親戚の家で見たとき。
映画は学校の前にポスターが貼ってあり、白い靴を胸に抱えた中原ひとみが、江原真二郎の傍らにかがむ、感傷的なコピーとともに迫るものがあり、長くあこがれていた。映画館で初めて見たのは池袋の名画座だったが、36歳の時で少女期ほどの感激はなかった。
郷ひろみに骨格の似た江原が会わせろと大暴れする女子少年院のシーンともう一つは、病室の空のベッドのシーンが今回印象的だった。
あとの二つは米軍の統治下で制約のもとに作られている。
3.「また逢う日まで」(1950年)はロマンロランの原作。バタ臭いというか、欧米の香りがする。主演の岡田英次が映画化を熱望したとのことで、彼が唇を寄せるガラス越しのキスシーンはジャン・マレーの「オルフェ」すら彷彿とさせ、さすがに美しい。若者たちが死んだ後で残される年寄りたちという皮肉が強烈だ。これも前評判で期待していたが初めて見たのは36歳、高田馬場のActミニだった。このタイトルからは讃美歌を連想するのだが、映画には出てこない。私事だが母の葬式で霊柩車が教会の庭を出るとき、「神ともにいまして、行く道を守り、天のみ糧もて…また逢う日まで」と、この歌が歌われた。
私の若いとき「純愛物語」「また逢う日まで」は日本の恋愛映画の双璧と感じていた。ふたつとも、恋愛において欲望がむきだしに表れない、という意味で「純愛」だった。今見るとあのころと同じ感動を覚えないのは、半世紀の人生経験の結果であり、少し寂しくもあるが、それでよいと思う。
4.「青い山脈」(1949年)は石坂洋次郎原作。封切前に主題歌だけが大流行して、音楽はいらないといった監督を憮然とさせたそうだ。→八木先生のブログegoisteによる
主演の杉洋子はのちにアメリカ人と結婚し、原節子も早く引退してその後は一切人前に出て来ない。この映画は地方を舞台にした庶民的で親しみ深い映画のように見えて、実は現実離れしていたのではなかろうか。映画は下田あたりを設定したようで、原作の東北弁「変すい変すい」が、「変しい変しい」となっていた。冒頭で新子が六助のうちにお米を売りに来るのが、映画では卵を売ると変わっているのは、配給制に触れるからだろうか?女子に飯炊きをさせるのがよくなくて、卵焼きを焼かせるほうを選んだのだろうか?にせのラブレターを書いた松山浅子(を演じる山本和子)は懐かしい。「女の園」の共産党系女子大生である。芸者の木暮美千代が「世の中にも家庭にもお上品なお色気が充満すれば、私たちのような女の出番はなくなるのに」というが、石坂の持論であるが馬鹿々々しい説である。杉洋子が水着で海辺に寝るシーンは「不良少女モニカ」1953を連想したが製作年代はこちらが早い。この点では日本は先進国か?
「青い山脈」1949年 172分 原節子 池辺良 若山セツ子
「また逢う日まで」1950年 109分 岡田英次 久我美子 杉村春子
「真昼の暗黒」1956年 124分 左幸子 夏川静江
「純愛物語」1957年 133分 中原ひとみ 江原真二郎
→「真昼の暗黒」7-2-12
→「また逢う日まで」10-8-8
コメント ( 4 ) | Trackback ( 0 )
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映画は青春の芸術ーー
戦後の邦画の熱気をご存知なのは羨ましいです。
今のように小奇麗で管理された映画館ではなく、薄汚くて臭くて煙草の煙が立込め、しかし途中から入っても何時間いてもよい、隣に男性が来ると少し怖い、緊張感でびくびくしながら、見たい一心で入った昔の映画館が懐かしいです。
映画館に限らず、どこにいても不安で怖かった若いころからすると、よくここまで図々しくなれたと思います。