サスペンスの巨匠ヒッチコック監督。
サイコ、鳥、めまい、レベッカ、裏窓・・・、
有名作品が数多くある中で、
私が特に好きなのは、
サスペンス風味のコメディ
「ハリーの災難」。
紅葉が絵のように美しい村の森で、
ある日、よそ者の死体が見つかる。
諸々の事情により、数人の村人が
この死体を埋めたり掘り出したりと
一日中、右往左往する。
そういう展開にもかかわらず、
スプラッタや陰惨な感じは皆無で
なんだか落語っぽい。
主要登場人物のキャラが
とにかく面白い。
引退した独り者のデブッチョ船長。
堅物の老嬢(差別のつもりは全くなく、
時代的にぴったりな表現なので使った)。
臨機応変、調子のよい貧乏絵描き。
子持ちで、かなり天然な未亡人。
唯一の敵役は、万屋の女主人の息子の
ちょっと鈍そうな保安官代理。
切羽詰まった者もそうでない者も、
小気味いいくらいに
あっけらかんとしている。
美しい風景は一見の価値あり。
死体の影がうっすらと壁に映る横で、
ドアが音もなくゆっくり開きかけるのは
不気味なアクセント。
中年独身女性の扱いに
いささか問題がなくもないけれど、
「女性蔑視の表現」であるとか
「埋めたり掘り返したりあり得ない」
などと目くじらを立てずに、
落語のような感じで観ると
とても楽しい映画だと思う。