以下に、心理療法の大きな三つの流派の概要を述べる。
先ず、精神分析について。「精神分析は、その発達の初期においては、医学の一分野であり、その目標は病気の治療であった」(注1)とあるように、19世紀末にフロイトによって創始された心理療法である。精神分析治療の目的は、「抑圧を除き無意識的過程を再び意識させるというやり方で患者を精神症から解放すること」(注2)である。相談援助の場面では、治療者は、クライエントの面談時の応答の仕方や態度、行動等からクライエントの抑圧や退行などの防衛機制を感知し、クライエントとの対話を通じてクライエントの無意識を意識化させ、精神症から解放させ、社会的適応ができるよう援助する。
次に、行動療法について。1950年代末から心理学者アイゼンク等によって体系化された行動療法は、実験心理学の学習理論を礎とする、精神分析に対立する心理療法である。行動療法では、クライエントの不適応行動はその行動自体が問題であり、その行動は誤った学習の結果であるので、条件づけによってその行動を消去し、社会的に望ましい適応行動に変容させることが可能であるとした。行動療法は後に認知療法を取り入れ認知行動療法となる。認知行動療法は、保護観察における処遇プログラムなど取り組むべき課題がはっきりしている場合に有効とされている。
最後に来訪者中心療法について。心理療法家であるロジャーズは、従来の心理慮法では患者でとされていた来訪者を「自発的に援助を受ける人」と位置付け、1940年代に来訪者中心療法を提唱した。ロジャーズは、治療者とクライエントの関係を重視し、「①治療者における(in)自己一致、すなわち体験と行動の調和、②共感の正確さ、③無条件の積極的関心」(注3)を強調し、非指示的療法を推奨した。治療者の基本的態度である積極的傾聴は、相談援助においては、特にインテークなど面談の初期の展開過程でクライエントとのラポールを形成するために有効である。
〔引用文献〕
(注1) 現代社会科学叢書「精神分析と宗教」エーリッヒ・フロム著、谷口隆之介・早坂泰次郎訳、東京創元社、1971年(新版) p.84
(注2) フランクル著作集3「時代精神の病理学」ヴィクトル・E・フランクル著、宮本忠雄訳、みすず書房 1961年p.11
(注3) 「人間関係学序説 現象学的社会心理学の展開」早坂泰次郎著、川島書店、1991年 p.262(太字は、原文では傍点)
〔参考文献〕
1. 「柔らかアカデミズム・〈わかる〉シリーズ よくわかる臨床心理学 改定新版」 下山晴彦編、 ミネルヴァ書房 2009年
2. 新・社会福祉士養成講座 2 「心理学理論と心理的支援」第3版 第4 中央法規、2018年
3. 新・社会福祉士養成講座7「相談援助の理論と方法Ⅰ」第3版第4刷 中央法規、2018年
4. 新・社会福祉士養成講座 20 「更生保護制度」第4版第2刷 中央法規、2018年