児童虐待は閉ざされた家庭内という空間で起こるため、事態が深刻化するまで顕在化しにくい。また、顕在化したとしても虐待者である親は児童相談所などの「介入」を嫌い、被虐待児も親をかばう傾向があるため、事態はますます悪化していく。最近の事例でいえば、千葉県野田市の小学4年生の女児の虐待死はまさにこうして起こった。このような児童に虐待死の危機が差し迫っている状況では、もはやソーシャルワーク介入ではなく警察の介入が必要で、公権力を行使して虐待死を阻止しなければならない。
ソーシャルワーカーは、児童虐待がまだ起こるか起こらないかの状態を察知して、対象の家族にソーシャルワーク介入を行い、虐待を未然に防いでいかなければならない。そのためにはまず、小中学校の職員や民生委員・児童委員と連携してその地域に暮らす児童の状況を把握する。そして被虐待児となる可能性のある児童がいれば、その児童の家族構成や生活環境についての情報を収集し、その地域の特性を理解した上で児童や家族と地域環境へのエコロジカルアプローチを行い、親や児童に対する学習会を開催するなど虐待を予防するための啓もう活動を展開していく。
虐待予防のために最も重要なのは、虐待をする可能性のある親に対する援助と介入である。最近の理化学研究所の調査によれば、「子どもを虐待したとして有罪判決を受け、服役した親や同居の大人25人のうち、72%にあたる18人が自身の子供時代に虐待を受けていた」、「本人が精神的問題を抱えるケースや、子供に健康や発達の問題があり子育てが難しい環境におかれていた例も目立った」(注1)という。虐待者となった親は、さまざまな課題を抱えていたのである。児童虐待を単に家庭内の問題としてではなく社会福祉の課題として捉え、児童だけではなくその親も社会的に支援してインクルージョン(包摂)していかなければならない。
対象となりうる親の多くは「虐待」の重大さに対する認識が弱く、社会的援助の必要性を認めないインボランタリー・クライエントと思われる。また、子育てや仕事が忙しく、時間をとって面談を実施するのは難しいが、粘り強くアウトリーチしていき、子育ての大変さや生活の苦労に共感しながら傾聴して、ラポールを形成し、クライエントが不安を除去できるように支援していく。このようなケースでは、例えばクライエント中心アプローチが有効であろう。
そして、その親が子供を、別の人格として大切に育てていくことを阻害する問題、例えばその親が固執する優生的な価値観や、親自身が親から受けた虐待などの経験、職場などでのストレスや、子供の健康や発達上の問題、あるいは困窮などの医学モデルに基づく課題、その子とその親が暮らす環境・地域社会との接点に着目する生活モデルの観点から注意深く感知し、エンパワメントとストレングスの視点から、親子がさまざまな困難を乗り越え、虐待に陥らずに子供を大切に育てていけるよう支援してこと、そして、万が一、そのような状況に親子が陥ったときも、社会的なセーフティネットが機能していくようにしていくことが喫緊の課題である。
〔引用文献〕
(注1) 神奈川新聞 2019年3月31日 朝刊
「児童虐待 加害者の親 7割 自らも被害 受刑者調査」
〔参考文献〕
1. 新・社会福祉士養成講座7「相談援助の理論と方法Ⅰ」第3版第4刷、中央法規、2018年
2. 新・社会福祉士養成講座8「相談援助の理論と方法Ⅱ」第3版第4刷、中央法規、2018年
3. 「児童虐待への対応における警察との連携の強化について」子家発0720第2号 平成30年7月20日
厚生労働省子ども家庭局家庭福祉課長
http://www.pref.okayama.jp/uploaded/attachment/236773.pdf
「虐待対応『指標』生かせず 児相、リスク『増』でも帰宅容認」
「虐待の恐れ 全事案確認へ 政府、情報の取り扱いも厳格化」
「『介入』ためらう児相 昨年度の『親権停止』30件」
7. 朝日新聞 2019年2月17日 朝刊
「社説 虐待と児相 見逃した背景にも目を」
8. 朝日新聞 2019年3月25日 朝刊
「フォーラム 児童福祉司の専門性」