ソーシャルワークは、かつて個人への援助が活動の中心であったが、次第に小集団・組織や地域社会に対象が広がりつつある。現在、ソーシャルワークは、従来の個人や家族にかかわるミクロレベルから、集団、または集団と地域社会にかかわるメゾレベルやマクロレベルに拡大し、クライエントも個人とその家族から、クライエント・システムとしての小集団・組織、地域住民へと拡大している。ソーシャルワーカーは、このようなパラダイムの変化に伴い、「人―環境」の相互作用という概念で対象を把握し援助を行うことが求められている。
こうした変化の中で、例えばケースワークで心理社会療法を確立したホリスは、「ソーシャルワークの焦点を『全体連関的な状況の中にある人』とし、多面的な関連を持った人としてとらえ」(注1)た。また、ドロールとワルテールは、「環境は一般的に『人間と社会の物理的・地形的条件、環境、生活条件を形づくる、複雑な関係で絡み合ったさまざまな要素の全体』と定義し、すべての構成要素は常に変動している」(注2)と述べている。そのように、現代のソーシャルワークでは、クライエントを身体機能・精神心理・社会環境的な側面をもつものとして、全体を捉える考え方が主流になっている。この流れの中で、個人と環境の交互作用に視点をおく生態学的アプローチが広がってきており、ソーシャルワークにとっての環境である「社会資源」の重要性が増してきている。
ソーシャルワーカーは、人間関係こそが変化していく媒介であることを認識し、クライエントとの対等な関係で両者が参加し、一緒に変化を求めていくのであるが、その時に、人は、人単独で営まれるのではなく、必ず何らかの環境の中で、しかもその環境と相互作用しつつ、関係のなかで相互に影響を与えながら営まれているという現実に即した視点を持つことが必要である。そして、ソーシャルワークを、人と環境を調整する機能、人の対処能力を強化する機能、環境を修正・開発する機能、という枠組みでとらえていくとき、「クライエントを『問題を持った人』という否定的な視点で捉える伝統的な発想から決別し」(注3)、「人々は問題だけでなく、強さを持って生活している」(注4)と捉えるストレングスの考え方が、「人とその環境」をリアルにみるときに重要になる。このストレングスの視点をもつことにより、ソーシャルワーカーは「医学モデル」から「生活モデル」への転換を実質的に図ることができる。
相互作用する「人とその環境」において、その関係を人と環境の分離ではなく、ひとつの統一体として把握しようとするシステム論は、現代のソーシャルワークの理論的支柱であるが、「人―環境をみるときには、援助者側から見た客観的環境という側面だけではなく、『その人にとっての環境』という主観的側面を把握しなければならないという視点」(注5)を忘れてはならない。
〔引用文献〕
(注1) 新・社会福祉士養成講座 7 「相談援助の理論と方法Ⅰ」第3版第4刷 中央法規、2018年 p.30
(注2) 同上 p.56
(注3) 同上 p.31
(注4) 同上 p.31
(注5) 同上 p.66
〔参考文献〕
1. 新・社会福祉士養成講座7 「相談援助の理論と方法Ⅰ」第3版第4刷 中央法規、2018年