ソーシャルワークに必要とされるコミュニケーション技術は、観察、傾聴、共感、支持、質問、基本的応答技法とされる。
「共感」は同情とは異なる。「援助者の援助」を説く村田久行が「私とは、本質的に他者と共にある関係存在なのである。それゆえ他者の苦しみに出会うとき、私は自己の存在と意味の消滅を体験し、それを回復するために相手の苦しみを和らげ、軽くし、なくそうとする。」(注1)と述べているとおり、共感とは他者の苦痛を、関係存在としての我が苦痛として感じることに基づいている。そして、この共感によってのみ他者への励ましが可能となるのである。例えば、誤って熱湯で火傷をした幼子の手を必死に水で冷やす母親には、子どもの痛みが正に己の痛みとして存在している。
「質問」には、開かれた質問と閉ざされた質問がある。例えば、発達障害の児童A君に「A君、君の好きなゲームは何かい?」と尋ねるのが開かれた質問である。A君は「トランプの神経衰弱が好き。」と答え、一緒にトランプしようと言うかもしれない。また、トランプの片付けをしないA君に、「A君は、後片づけが苦手なの?」と聞くことは閉じた質問である。A君はちょっと俯きながら「ううん。」と答えてしぶしぶと片づけ始めるだろう。
「基本的応答技法」には、「内容の反射」と「直面」「沈黙」がある。「内容の反射」には、単純反射や要約などがある。単純反射は、例えば、軽度の認知障害がある高齢者のBさんが「さっき行った店にカバンを忘れた。」と持っていないカバンを置き忘れたような感覚になったときに、直ぐに「店にカバンは持って行っていない。」と答えるのではなく、「さっき行った店にカバンを忘れたのですか?」とゆっくりと尋ね、Bさんを落ち着かせるような質問である。要約はBさんが「そのカバンの中にはメガネと財布が入っている。」と言った時に、「大事なカバンを店に忘れたのですね?」と、Bさんの認識を支えていくようにする質問である。
村田は「『沈黙』は『待つ』という意識的な行為を行った結果であって、援助者としてはただ沈黙を意図しているわけではない。」(注2)と言い、「『待つこと』は相手にその想いを語ることを促す援助的な技術なのである。」(注3)と述べている。そして、待つことの結果としての沈黙をとても重視している。親が最近元気のない様子の子供が気になり、「最近あまり元気がないように見えるんだけど、何かあったの?」と問いかけ、子供が答えにくそうにしていても忍耐強く見守り、子供が長い沈黙の後「友達と喧嘩しちゃったんだ。」と答えるのは沈黙と明確化の一例となろう。
ソーシャルワークの現場では、かつてロジャーズ,C.が着目した「傾聴」や「無条件の積極的関心」「共感的理解」「自己一致」というクライエント中心療法的な関わり方だけではなく、現象学的方法論による援助関係の解明と「関係性に基づき、関係の力を使う<ケア>という対人援助技術」(注4)が求められる。
〔引用文献〕
(注1)「援助者の援助 支持的スーパービジョンの理論と実際」村田久行著 川島書店、2010、(はしがきiii)
(注2) 同上、p.52
(注3) 同上、p.53
(注4) 同上、(はしがきv)
〔参考文献〕
1. 新・社会福祉士養成講座7 「相談援助の理論と方法Ⅰ」第3版第4刷 中央法規、2018年
2. 新・社会福祉士養成講座8 「相談援助の理論と方法Ⅱ」第3版第4刷 中央法規、2018年
3.「柔らかアカデミズム・〈わかる〉シリーズ よくわかる臨床心理学 改定新版」 下山晴彦編、ミネルヴァ書房、 2009年
4.「援助者の援助 支持的スーパービジョンの理論と実際」 村田久行著 川島書店、2010