本当の人間関係を学び続ける学徒のつぶやき

人間関係学を学び続ける学徒の試行錯誤

【公開】 マルティン・ブーバー原著『対話の倫理』抄本

2023-03-25 10:16:08 | 日記

抄本を改訂しました。

マルティン・ブーバー原著『対話の倫理』抄本http://www7b.biglobe.ne.jp/~ipr_phenomenology/Buber_conversasion_1.3.pdf

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 今回三冊目となる『対話の倫理』の抄本を作成しました。この本は、ブーバーが1951年にアメリカに渡り、各地の大学で行った講演を基に“Eclipse of God”(神の蝕)としてまとめられたものです。

 以前紹介した『ユートピアへの途』はブーバーの社会学的側面、『人間とは何か』は哲学的側面の表出とすれば、この本はブーバーの宗教的立場が強く表現されているものと思われます。神は信じる対象ではなく実在し、出会い、実感する、永遠の汝であり、逆にわれわれが神がいないと思うことは、そう「信じている」ことにすぎず、実在する神は、われわれ人間のあり方によって隠されてしまっている——あたかも日食のように——というブーバーの神にたいする考えがこの本で明確に示されています。

 「あとがき」ブーバーの手紙(1963年、読売新聞掲載)の全文を載せました。これは60年近く前に書かれた文章ですが、現代のウクライナ紛争などを報道で見ると、わたしたち人間は、ブーバーが指摘した「純粋な対話」をまだ全然できていないと愕然とします。わたしたちひとり一人が、もう、いままでのように政治家任せにせず、自分にとっての神——他人にとっての神ではなく——と自分がどう向き合っているのかについて深く考え、周りの自分とはまったく異なる人たちと「純粋な対話」をしていくことが、今まさに求められています。ぜひご一読ください。

 

掲載場所:  IPR現象学研究会のホームページ

http://www7b.biglobe.ne.jp/~ipr_phenomenology/index.htm

IPRとは( IPR現象学研究会のホームページから引用)

IPRというのはInter-Perponal Relationship の略で、直訳すれば「人格間関係」を意味します。従来使われてきた Human Relations(人間関係)の語が、ともすれば表面的な対人関係のイメージを生みやすいことをおそれ、より率直な「ほんとうの人間関係」を意味するIPRの語を使用しています。

1970年、心理学者・早坂泰次郎(立教大学名誉教授、故人)を中心に「日本IPR研究会」が創設されました。その研究会では、①対人関係理論の研究と、その実践である②グループ・トレイニングの開催を行ってきましたが、創設50年を迎える2020年に活動を終えることになりました。

http://www7b.biglobe.ne.jp/~ipr_phenomenology/iprintro.htm

 

 

 


生活支援コーディネーターに求められる社会福祉士としての専門性

2023-03-12 11:46:17 | 日記

 私は現在、鎌倉市社会福祉協議会に所属し、鎌倉市から委託を受けた生活支援コーディネーターとしてて鎌倉市北西部にある玉縄地域の福祉活動に携わっています。生活支援コーディネーターとは、地域包括ケアシステム構築のための一事業である生活支援体制整備事業に位置づけられており、地域の高齢者の在宅生活を支えるための地域づくりを促進するため、地域のさまざまな主体による多様な取り組みのコーディネート機能を担い、一体的な活動を推進することを職務としています。

 厚生労働省の研修資料には生活支援コーディネーターの資格要件として社会福祉士は挙げられていませんが、鎌倉市の生活支援体制整備事業委託契約では生活支援コーディネーターの資格要件は、原則として社会福祉士であると定められています。それでは、鎌倉市の生活支援コーディネーターに求められている社会福祉士にとって共通する専門性とは何かについて自分の日々の業務から考えてみます。

 まず第一に挙げられるのは、社会福祉士の倫理綱領やソーシャルワーク専門職のグローバル定義といった理念、考え方の共有です。同僚の生活支援コーディネーターや玉縄地域でともに仕事をする地域包括支援センターの社会福祉士とは地域住民が抱えるミクロの課題を共通した理念、考え方に基づいて議論し、目指すべきメゾ、マクロのあり方を考え、行政や地域のさまざまな主体に働きかけていくことができます。

 次に挙げられるのは、ソーシャルワークの視点です。人と環境、さらに両者の関係(相互作用)に視点を向け、そこから支援を展開、実践するソーシャルワークの視点が、社会福祉士に共通する専門性となります。たとえば、地域住民とともに地域アセスメントを行う際に、地域にあるさまざまな環境について、高齢者の移動の視点、児童の通学路の視点、障害(児)者の視点、防災・防犯の視点、景観の視点などさまざまな視点から地域住民と見ていくことで、住み慣れた地域の環境についての新しい気づきを促し、より深堀した地域踏査を地域住民が主体となって進めていけるよう、社会福祉士として支援することができます。

 そして、最も重要な社会福祉士に共通する専門性は、生きづらさや生活のしづらさを抱える人々に寄り添う態度、姿勢です。令和4年の早春以降、新型コロナウイルスのパンデミックによってそれまで当たり前だった日常が脅かされ、壊されました。外出自粛などさまざまな行動制限が感染症予防対策として強いられ、それまで地域の福祉活動を支えていた高齢のボランティアは、ひとと関わり合えない苦痛に苛まれました。この未曽有の状況において、社会福祉士には地域の高齢のボランティアに寄り添い、苦痛を共有し、ともに悩みともに考え、この状況のなかでできることをできる限りやっていこうとする態度、姿勢が求められます。この態度、姿勢こそが、すべての社会福祉士に求められる最も重要なの専門性ではないでしょうか。

                        社会福祉士 和智 章宏


福祉と防災

2023-03-08 15:47:33 | 日記

 地域福祉と地域防災は切っても切れない関係にあります。地域の自治町内会は福祉よりも防災に力を入れる傾向がありますが、防災だけを進めると結局、自分のことは自分で守る「自助」に重きがおかれ、ご近所で支え合う近助、地域で支え合う互助、共助にはなかなか発展して行かないのが実情だと思います。また、大きな災害があった直後はテレビや新聞で被災地の悲惨な状況に身がつまされ、住民の防災への関心は高まりますが、時間がたつと徐々に「自分は大丈夫」という正常化の偏見が頭をもたげ、防災への関心は薄れ、避難訓練への参加率も低下してしまいます。「自分や家族の命や安全が大事」だけでは限界があるのは明白です。自分だけに関心を向けていているのでは、何も発展して行きません。

 それではどうすればよいのか。まず、近所でお互いに助け合うことを話し合うことだと思います。私たちはいつまでも自分のことを自分で守っていくことは出来ません。必ず年を取り体は弱くなっていきます。認知能力も確実に衰えていきます。また、頼りになる家族も仕事で遠いところに行ってしまうかもしれません。万が一の時に頼りになるのはご近所さんです。ご近所で暮らすもの同士が仲良くなるには色々な方法があると思います。なかでも、地域防災についてお互いに話し合い、もしもの時の役割分担を話し合うことは、お互いの安心につながります。そしてそういう支え合いの輪を少しづつ広げ、ご近所にお暮らしの要支援者の方やそのご家族にも関心を向けて巻き込んでいく、そうすれば自ずと地域共生社会(豊かなまち)づくりが進むこととなります。

 地域防災・減災はそれ自身が目的ではありません。国や行政にとってはそうかもしれませんが、地域住民は、地域防災・減災を豊かなまちづくりのひとつの大変重要な課題として捉えるべきです。そして、ご近所同士が支え合い、協力し合って、豊かなまちづくりに主体的に参加していくことが大切です。自治会や町内会は、地域住民と豊かなまちづくりを目標として防災・減災を進めていくことが重要で、防災・減災のために地域で顔の見える関係づくりしていくわけではありません。全く逆です。豊かなまちづくり、つまり地域福祉のために地域の防災・減災があると考えていくことが必要です。なぜなら、私たち人間の生きる目標は、ただ生きながらえることではなく、周りの人、他者と我ー汝の関係をもき、豊かなまちー地域共生社会ーを実現し、地域に暮らす誰もがそこで暮らしている他の人々と共に本当にくつろげる生活だからです。豊かな福祉社会を実現していくことが、私たち人類の本当の目標だと思うのです。

※ 地域の防災と福祉の取り組みの例

マイタウン玉縄

福祉、防災の講演会

 

 


住民主体の地域福祉

2023-03-05 08:58:34 | 日記

 私は、鎌倉市の生活支援コーディネーターとして玉縄地域を担当している。生活支援コーディネーターとは、高齢者の生活支援・介護予防サービスの体制整備を推進するための生活支援体制整備事業に位置づけられた専門職で、鎌倉市では原則として社会福祉士とされている。多様な主体、例えば地区社会福祉協議会や民生委員児童委員協議会、自治町内会連合会などの地域住民、地域包括支援センターの職員や高齢者介護施設の職員、総合病院の医療ソーシャルワーカーなどが参画する協議体(玉縄地域福祉ネットワーク会議)の事務局として、私は地域住民が主体となった地域づくりの取り組みを支援しているが、私はこの事業において、この「地域住民が主体」の実現が最も重要であると考えている。

 周知のように、2000(平成12)年4月に介護保険法が制定され、高齢者に対する介護サービスが「措置から契約」に移行した。2015(平成27)年の同法改正では、地域包括ケアシステムの構築に向けた在宅医療と介護の連携推進、地域ケア会議の推進などが取り入れられ、高齢者福祉を実施する主体は国から地方自治体、そして地域住民へと移行してきた。しかし、このことに対する地域住民の受け止めは決して肯定的ではない。「少子超高齢化が進み、このままでは介護保険制度が破綻するので、国は本来行政が責任を負うべき高齢者福祉を地域住民に押し付けている」などの声が玉縄だけではなく他の地域でも聞かれる。国や行政機関が地域住民に福祉サービスを提供し、地域住民はそれを享受して不満があれば苦情を言う。そのような状況をみると、地域住民ひとり一人が責任ある主体として行政や様々なサービス提供機関と共に福祉サービスを創り育てようとするのではなく、単に客体として国や行政から措置を受けるという意識が、地域住民の心のなかに根強く残っているのではないかと感じる。住民主体をいかに実現していくのか、という課題が生活支援隊コーディネーターとしての社会福祉士に課せられた最大の責務である。

 行動規範の「社会福祉士は、クライエントが自己決定の権利を有する存在であると認識しなければならない」に立ち戻り、地域住民をクライエントとして考えたとき、「自己決定の権利」とは、単なる受け身の客体として自由気ままに市役所の職員や高齢者介護施設の職員に不平不満をぶつけることではあるまい。かつて、哲学者のマルティン・ブーバーは人間存在に対する深い洞察から、すべての人間にはそこで寛ぎ、共に住む人びとが彼との出会い、彼との協働のうちに彼の固有の本質と生活を確認するところのより広大な建物のなかの一つの部屋として自己の住居を感じたいという永遠の欲求があると述べた。この欲求が地域住民ひとり一人にあるのであれば、その欲求が解放され、それに基いた自己決定ができるように支援し、住民が主体となった真の地域福祉を実現していくことが、社会福祉士に課せられた使命ではなかろうか。

                         社会福祉士 和智 章宏

参考文献 

『ユートピアの途』M.ブーバー著 (1950 年) 長谷川 進訳
理想社 初版 1969(昭和 44)年 (改訳第 2 版 1983(昭和 58)年

【参考】http://www7b.biglobe.ne.jp/~ipr_phenomenology/buber-intro.htm