読者各位
amazonで「共に生きるための人間関係学―『自立』と『つながり』」畠中 宗一 編著の予約が始まりました。
この本は、対人援助職の方のみならず、人間関係の現場に身を置かれるさまざまな方々の参考になるのではないかと思います。
定価3,200円(税別)と少し値が張りますが、どうぞご期待ください。
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読者各位
来月、金剛出版より
「共に生きるための人間関係学 『自立』と『つながり』のあり方」畠中宗一編著
が刊行されます。
私は、3章4節を担当しました。
内容につきましては、以下の金剛出版のホームページをご参照ください。
http://kongoshuppan.co.jp/dm/1752.html
乞うご期待。
和智 章宏
わが国の社会福祉行政・政策は、平成12年には社会福祉事業法が社会福祉法に改称・改正され、介護保険制度が始まるなど、行政による措置制度から契約制度へと変換していった。しかし、福祉サービスを必要としている人が、判断能力が不十分な認知症高齢者、知的障害者、精神障害者の場合、契約的自立を支援するシステムがなければ、契約制度に転換したとしても実効性がなく、その人に保障されている生存権(日本国憲法第25条)や幸福追求権(日本国憲法第13条)が形骸化してしまう恐れがあった。また、従来の民法では意思能力が継続的に不完全な成年者の財産を保護するための(準)禁治産制度があったが、わかりにくく利用しにくい制度であり、近年急激に増加する後期高齢者に伴って増加する認知症高齢者の財産の保護に対応するためにこの制度を改正することが求められていた。このような背景から民法が改正され判断能力が不十分な人の契約自立を支援するための成年後見制度が平成12年から開始された。この改正の重点は、「自己決定の尊重、残存能力の活用、ノーマライゼーションといった新しい理念の導入とともに、これらの理念と従来の制度でもめざされていた要保護者の保護という理念の調和を図ること」(注1)であった。
現在の民法では、「家庭裁判所によって後見(保佐、補助)開始の審判を受けたものは、成年被後見人(被保佐人、被補助人)(以下、「被成年後見人等」という)とされ、その支援者・保護者として成年後見人(保佐人、補助人)(以下、「成年後見人等」という)が付される。」(民法8条、12条)とされた。そして、成年後見人の目的は被成年後見人の生活の質を維持し、向上させることである。
家庭裁判所は、親族または第三者を成年後見人等に選任し、必要に応じて複数の成年後見人等を選任することも可能である。第三者の成年後見人等としては、主に弁護士や司法書士等の法律実務家と社会福祉士等の福祉の専門家が選任される。そのなかで社会福祉士はソーシャルワーカーとして、弁護士・司法書士とともに権利擁護の役割を果たすことが期待されている。また、対象となる被後見人等は、その障害のためにさまざまな生活上の課題を抱えており、身上監護を行うための専門知識を持つ社会福祉士は、被後見人等に最も近いところで相談援助、連絡調整の役割を果たすことになる。特に一人暮らしの認知症高齢者など、自ら主張すること、支援を求めることや制度を活用することができにくい人々の生活空間にアウトリーチして、それらの人々の福祉ニーズを把握し権利擁護活動のリーダーシップをとっていくことが社会福祉士に求められている。
成年後見制度は家庭裁判所を中心とした多種多様な組織・団体・人びとによって支えられている。社会福祉士は、それらの組織・団体・人びととのネットワークを築いて、より多くの人々がこの制度を活用できるようにしていくことが期待されている。
〔引用文献〕
(注1) わかりやすい成年後見・権利擁護〔第2版〕村田彰・星野茂・池田惠利子編 民事法研究会 2013年 p.81
〔参考文献〕
1. 新・社会福祉士養成講座 7 「相談援助の理論と方法Ⅰ」第3版第4刷 中央法規、2018年
2. 新・社会福祉士養成講座 9 「地域福祉の理論と方法」第3版 中央法規 2015年
3. 新・社会福祉士養成講座 13 「高齢者に対する支援と介護保険制度」第5版第4刷 中央法規、2016年
4. 新・社会福祉士養成講座 14 「障害者に対する支援と障害者自立支援制度」第5版第2刷 中央法規 2016年
5. 新・社会福祉士養成講座 19 「権利擁護と成年後見制度」第4版第5刷 中央法規 2018年
6. わかりやすい成年後見・権利擁護〔第2版〕村田彰・星野茂・池田惠利子編 民事法研究会 2013年
7. 社会福祉の動向2018 第4節「認知症高齢者支援」社会福祉の動向編集委員会編 中央法規 2017年
筆者が大学で早坂泰次郎から人間関係学を学んだ1980年代後半は、まだ、ワープロやファックスが出始めで、300bps(bit per second: 1秒間に伝送するコンピュータの電気信号(bit)数)のカプラモデムを使ったパソコン通信が一部のマニアの間で広がり始めた時代であった。それから30余年たち、情報通信技術(ICT)の発展は目覚ましく、いまではインターネット網が世界中に広がり、我々は、瞬時にいろいろな国々の人々とつながることができ、また、さまざまな情報を集めることができるようになっている。そして今や掌中に収まる小型のコンピュータであるスマホを携帯し、いつでもどこでもインターネットに数十Mbpsから数Gbps(Mは百万、Gは10億)という超高速な通信速度の無線ネットワークを介して常時接続できるようになった。また、道ゆく自動車においても当初はガソリンエンジンの性能向上のために開発された車載コンピュータ(ECU)は、今やライト制御やウィンドウ制御から自動追従走行や衝突防止ブレーキのようなADAS機能まで自動車の幅広い領域で活用されるようになり、近い将来には自動運転車が実用化されるという。
このようにわれわれは、情報技術(IT)や情報通信技術(ICT)の恩恵を受けて以前とは比較にならないような便利で快適な生活を手に入れることができた。このITやICTの基盤となる巨大な情報通信システムや車載システムを正確に動かすためのソフトウェアのソースコードプログラムの開発には、組織による徹底した品質管理が必要である。そのため、特定の人があるシステム開発・設計を担当し、その人にしかそのソースコードがわからなくなるような属人性を排除することが必須とされている。万一、プログラムにバグがあったとしてもその原因となる箇所を追求し、そのバグの修正によるソフトウェア全体への影響範囲を追跡するためには属人性を排除したソフトウェアが良いソフトウェアとされるのは当然である。ソフトウェア開発が仕事である以上、属人性は排除され、組織によって管理されたプロセスを厳重に守られることが求められる。しかし、職場に集まる従業員(社員)一人ひとりの職場での人間性までもを「属人性」として排除されるようなことはあってはならない。
かつて、早坂は、かつて、仕事のなかで人間性を回復するためには「生計の手段を託す仕事のなかに、それがかつて持っていたが、現代では失われかけている『遊び』の要因をとりもどしていくことである。いいかえれば、仕事に『手作り』の性格をとりもどしていくことである。」(注1)と書いたが、現代の巨大でシステム化された組織のなかで、「遊び」や「手作り」を仕事に取り入れていくことは、もはや不可能かもしれない。しかし、だからこそ、「対人関係を、組織のなかでいかに確保し、建設していくかという問題」(注2)が重要になるのである。ここでいう対人関係とは、和気あいあいとした一心同体を理念とする一般に日本人が好むタテマエのなれあいの人間関係でなく、人格間関係(IPR: Inter-Personal Relationship)である本当の人間関係のことである。
早坂がIPRトレイニング(注3)を始めて来年で50年が経つが、今の時代こそ、信頼や愛情、心の通じ合いとう人間存在を特徴づける、本当の人間関係について体験学習ができる場の存在が求められているのではないだろうか。
引用文献
(注1) 『生きがいの人間関係学 信頼で結ばれる人間関係』、早坂泰次郎著、同文書院、1990年、p.78
(注2) 同書、p.80
参考文献
1. 『人間関係学』早坂泰次郎著、同文書院、1987 年
2. 『生きがいの人間関係学 信頼で結ばれる人間関係』早坂泰次郎著、同文書院、1990 年
※ (注3)のIPRトレイニングは、日本IPR研究会が主催する対人関係トレイニングです。詳細は以下のホームページを参照してください。
http://www7a.biglobe.ne.jp/~ipr/
首都圏近郊にあるA市では、2014年以降外国籍世帯が増加している。ブラジルやペルーなど南米系の住民は減少傾向であるが、中国やベトナム、タイなど東南アジア系の住民が急増している。また、男性の方が女性よりも増加率が高い。その背景には、日本人労働者不足に伴う外国人労働者の需要増がある。外国人労働者は家族を伴いA市に転入し、それに伴い、市内の外国籍の児童・生徒数も増加している。
筆者は、ある公立小学校の関係者に、外国籍世帯のなかでも最も生活問題を抱えているのは母親であるといわれた。その理由として挙げたのは、子どもは、最初は学校生活で言葉の壁があるが、例えば市の教育委員会が設置する「国際交流教室」などの取り組みによって学校や地域とつながることが可能になってきている。また、父親も、職場を通して、地域社会とつながっていくことが可能であるが、母親は言葉の壁、文化の壁に阻まれ、一人家庭のなかに引きこもり、地域社会から孤立してしまうリスクが高いことである。ここでは、このような外国籍世帯の母親に対するソーシャルワーキングについて考えてみる。
まず、ミクロ・レベルでのアプローチであるが、このような孤立した外国籍世帯の母親のケースではアウトリーチが重要になる。この地域を担当するソーシャルワーカーは、民生委員・児童委員や自治会などと連携して、ケースの発見を行う。そして、ソーシャルワーカーは通訳を同行するなどして対象となる母親のAさんを訪問し、インテークを行う際には、文化の違いや生活様式の違いを十分に配慮する必要がある。また、校区担当のスクールソーシャルワーカーと共にAさんの子供の様子を見たり、Aさんの夫と個別面談したりして、共同体で孤立や虐待等のリスクを含めた生活問題を把握しアセスメントを行う。
外国人であるAさんが抱える生活問題には、周囲の日本人の同一性を好む性質に起因するケースも考えられるため、問題をAさんの個人的なものとして捉える医学モデルのアプローチよりも、Aさんを環境との接点に位置づけ、環境との相互作用のなかでAさんを捉える社会モデルによるアプローチの方が有効な場合がある。そのような場合は、メゾ・レベルのアプローチとして、ソーシャルワーカーは小中学校、地域の民生委員・児童委員、自治会などと連携し、さまざまな情報を多角的に収集し、Aさんと地域住民の共生についての課題を把握し、詳細かつ統合的なアセスメントを実施する。そして、Aさんや家族と協働して地域住民がこれらの問題を「わがこと」としてとらえるような環境づくりを進めていく。
さらに、ソーシャルワーカーは、ミクロ・メゾ・レベルでAさんへの援助を進めていくなかで、人権擁護など地域社会全体による支援が必要となる課題が明確となった場合には、関係する諸機関、専門職等と連携して地域住民に対する意識啓発などを行い、AさんがAさんらしい生き方を地域社会で実現できるようなまちづくりをマクロ・レベルの援助として推進していく。
〔参考文献〕
1. 新・社会福祉士養成講座6「相談援助の基盤と専門職」第3版 中央法規、2015年
2. 新・社会福祉士養成講座7「相談援助の理論と方法Ⅰ」第3版第4刷 中央法規、2018年
3. 「社会福祉士相談援助演習」第2版第6刷 中央法規、2018年