本当の人間関係を学び続ける学徒のつぶやき

人間関係学を学び続ける学徒の試行錯誤

障碍者(障害者)を取り巻く社会情勢

2019-02-27 09:40:54 | コラム

 わが国では1950年の身体障害者福祉法の施行以前は傷痍軍人のみが施設援護サービスやリハビリテーションを受けていたが、戦後この軍人優遇制度はGHQによって解体させられた。そして、この身体障害者福祉法により障碍者に対する福祉サービスが初めて制度化された。その背景には日本国憲法の基本的人権(11)と生存権(25)の保障がある。1970年には心身障害者対策に関する国等の責務を明記し、心身障害者の福祉に関する施策の基本事項を定めた心身障害者対策基本法が制定された。この心身障害者対策基本法は、1993年に障碍者全体を均等に対象とするように改定され、現在の障害者基本法となった。障害者基本法(現行法)は、第3条で「すべての障害者が、障害者でないものと等しく、基本的人権を享有する個人としてその尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい生活を保障される権利を有する」と定め、第4条で障碍者に対する差別を厳しく禁じている。

 身体障害者福祉法は2005年の障害者自立支援法の公布に伴い改定され、2013年に障害者自立支援法と身体障害者福祉法は統合され障害者総合支援法となった。障害者総合支援法は、障碍者の範囲に身体、知的、精神(発達障害を含む)の障碍者に難病等による障碍者を加えた。障害者基本法と障害者総合支援法は現在のわが国の障害者福祉の支柱である。

 200612月の国連総会において「障害者の権利に関する条約」が採択され、20085月に発効した。この条約は障碍者の人権及び基本的自由の享有を確保し、障碍者の固有の尊厳の尊重を促進することを目的としている。わが国はこの条約に20079月に署名したが、国内法の整備に時間が掛かり20141月に批准した。主な国内法の整備としては2011年の障害者基本法の改正と障害者虐待防止法(2011年成立)、障害者差別解消法(2013年成立)が挙げられる。障害者基本法の改正は主に障碍者の社会における共生を目的とし、障害者虐待防止法は、障碍者に対する虐待の防止や対応の窓口となる「市町村障害者虐待防止センター」や「都道府県障害者権利擁護センター」を定めた。また、障害者差別解消法は、行政機関による障碍者に対する差別的取り扱いを禁止し、社会的障壁の除去を実施するための合理的配慮を要求している。

 このように、日本の障害者福祉関連法は、国際社会の障碍者の権利擁護の思想を取り入れることで発展してきたが、「人の有する、守られるべき権利を守る」(注1)という権利擁護の視点からわが国の障碍者福祉の現状を見ると、社会の偏見や差別が十分に解消されているとは言い難い。20167月の津久井やまゆり園の事件で被害者の実名が公開されなかったことが象徴するように、我々の社会には差別意識や偏見が依然として存在している。このような社会の中で障碍者の人として守られるべき権利を擁護するために、ソーシャルワーカーはあらゆる手段を使ってソーシャルワークを実践することが強く求められている。

引用文献・参考文献一覧

〔引用文献〕

(1) 新・社会福祉士養成講座6「相談援助の基盤と専門職」 第3版 中央法規、2015年  p.111

 

〔参考文献〕

1. 新・社会福祉士養成講座14「障害者に対する支援と障害者自立支援制度」 第5番第2刷 中央法規、2016年 

2. 新・社会福祉士養成講座6「相談援助の基盤と専門職」 第3版 中央法規、2015

3.「福祉小六法 2018」 編集 社会福祉法人 大阪ボランティア協会 中央法規、2017

4.「虐待のない支援――知的障害の理解と関わり合い」 市川和彦編  誠信書房、2007


合理的社会システム(官僚制)の逆機能

2019-02-10 10:04:24 | コラム

 西欧では16世紀に宗教改革が始まり、プロテスタンティズムの合理的な価値観が中世の人々にもたらされた。その後の啓蒙主義の時代には人間の理性を絶対視する合理主義的な価値観が広がり、17世紀から18世紀にかけての市民革命や産業革命、科学革命とともに、近代化が急激に進んでいった。マックス・ウェーバーは、西欧の中世から近世にかけての変化を「実証的、科学的な知識によって社会の諸領域が秩序つけられていくという意味での合理化ないし脱魔術化」(注1)と捉え、旧来の伝統的支配やカリスマ的史支配を脱するための合法的支配の純粋系として、官僚制を近代組織の編成原理とした。しかし、近代組織は非人格的なシステムに他ならない。

 官僚制的支配の合理性というウェーバーの命題に疑問をもったロバート・マートンは、官僚制について「その法規や規律への同調過剰は、新しい状況や条件に対する、適応不能、内集団派閥の形成、非人格性と冷淡、官僚の尊大や不遜、大衆軽視などの諸問題を引き起こしやすい」(注2)と指摘した。これが官僚制の逆機能である。この一つ目の例としては、2016年春に発覚した三菱自動車の燃費測定をめぐる不正問題が挙げられよう。この問題は、同社の従業員が社内の組織や内規に過度に依存した結果、検査データの公正性に対する曖昧さにつながり、不正データを国土交通省に報告する事態となった。このことは企業内の論理を優先し利用者や社会を軽視した例である。二つ目の例として、201512月に電通の新入社員が過労自殺した問題がある。この問題の背景には「鬼十則」とよばれる電通の内規がクローズアップされた。もちろんこの内規だけが自殺の原因とは思えないが、電通の企業風土とそれを守る官僚機構が非人格的なものとして、個人を死へと追い詰めたことは確かであろう。最後の例として、「障碍」の「碍」を法律に表記できないという問題がある。朝日新聞に「法律で障害を『障碍』と表記できるよう「碍」の1字を常用漢字表に加えるように求めた衆参両院の委員会決議に対し、文化審議会国語分科会は(2018年11月)22日、常用漢字への追加の是非の結論を先送り」(3)という記事が掲載された。中央省庁が前例や規範に固執し、変化を厭い、障害者やその家族が、「害」という字の否定的なイメージに対して抱く不快な感情を放置し続ける例と言えよう。

 このようにさまざまな組織に蔓延する官僚制の逆機能を克服するためには、その組織の特性を見極め、縦割り化した下部組織を横断する横串のネットワークづくりを進め、風通しを良くする必要がある。また、組織内に趣味サークルや勉強会のような自発的結社をつくり、異なる下部組織の成員同士がお互いに人格的な関係をもてるようにすることも有効である。さらに、外部のNPOや公益団体などと連携し、組織内の常識と社会の常識に乖離が起こらないように組織のトップが率先して心がけていくことが求められる。

〔引用文献〕

(1) 新・社会福祉士養成講座3 「社会理論と社会システム」第3版第2刷、中央法規、 2015年  p.34

(2)有斐閣大学双書「社会学概論」本間康平、田野崎昭夫、光吉利之、塩原勉 編、 有斐閣 1976年 p.137 

(3) 朝日新聞 20181123日朝刊

 

〔参考文献〕

1.  新・社会福祉士養成講座3 「社会理論と社会システム」第3版第2刷、中央法規、 2015年  

2. 有斐閣大学双書「社会学概論」本間康平、田野崎昭夫、光吉利之、塩原勉 編、 有斐閣 1976年 

3. 有斐閣双書〈小辞典シリーズ〉 社会学小辞典〔増補版〕第3刷 濱島朗、竹内郁郎、石川晃弘 編 1984年