総務省の最新の公表データによれば日本の人口は1億2,622万人という。(出展:令和元年7月1日現在、総務省統計局ホームページ) また、2019年4月の就業者数は6,708万人、ここから自営業主・家族従業者を除いた雇用者は5,959万人である。(出展:令和元年5月31日総務省統計局「労働力調査(基本集計)平成31年(2019年)4月分(速報)」)実に、日本の総人口の47.2%、ほぼ半数近くの人々が何らかの形で他者である事業主と契約を結び、他者に雇われ報酬(給与等)を得て生計を立てているのである。40年ほど前に早坂泰次郎が「現代の産業化された社会にあっては、人々の生活様式はもはや自営業や自由業によっては代表されず、被雇用者あるいはサラリーマンによって代表される」と述べたが、現代の状況は、当時と比べ男女雇用機会均等、若年層の減少や就業意識の変化、非正規労働の増加、シニア世代の定年後再雇用(定年延長)など雇用環境は大きく変化たが、被雇用者やサラリーマンが日本の生活様式を代表しているという点については変わっていない。
日本は戦後、年金保険や医療保険、介護保険、雇用保険などの社会保険と、社会扶助の社会保障システムを整え、その規模を急速に拡大してきた。財務省「財政制度分科会(平成31年4月23日開催)資料によれば、平成28年度の全ての社会保障の給付費合計は116.9兆円に上るが、その財源の内訳は被保険者負担(会社等に努めている人の負担)36.5兆円、事業主負担(会社等の負担)、32.4兆円、公費(国や地方自治体の負担)、47.7兆円となっている。平成2年度と比べると公費負担の割合は増加傾向が続いているが、社会保険料(被保険者負担と事業主負担)は依然として全体の58.9%を占めており、民間企業の社員の懸命な営利追求活動が、現代も日本の社会保障制度を支えていることは確かである。
また、日本の社会は、成人した男性が民間企業に就職し、定収入を得て家族を養うことを前提に社会保障を制度化してきた。企業に勤務する男性が女性と結婚すると、その妻は専業主婦となり家事一切を担当し、子ども産み育て、自分や子どもが病気になれば夫の健康保険をつかい、高齢になり夫が定年を迎えれば夫の厚生年金と自身の基礎年金(第3号被保険者として受給)とで生計を立て、老親の世話を看ることが世間の常識とみなされてきた。このように日本は伝統的に男性中心社会であり、企業に勤める男性を中心にした家庭生活が営まれてきた。日本の男性は、さまざまな局面で男性優位が認められてきたと同時に社会を支える大きな責任と経済的かつ精神的な負担が掛かっていたといえよう。
しかし、少子超高齢化や共稼ぎ世帯数の増加、グローバル化など産業構造の変化、生産年齢人口の減少などさまざまな社会の変化に伴い、父親が一家の大黒柱モデルという家族形態はすでに過去のものとなりつつある。そのようななかで、「企業で働くこと」について管理(経営)者や従業員(社員)だけではなく従業員(社員)の家族や、医療や福祉、教育や行政など彼らの傍らにいるさまざまな人々も考え直してみる必要がある。
参考文献
1. 『人間関係学』早坂泰次郎著、同文書院、1987年、p.223