日本の高度成長期に育った和気入道、愛媛松山という片田舎では幼少のころ、こんなライフスタイルがありました。お買い物と言えば、国鉄松山駅とは離れた繁華街に行くわけです。銀天街と大街道という千舟町をはさんでつながる2つの商店街、その両端に位置する松山三越と伊予鉄そごう(現在の伊予鉄高島屋)という2つの百貨店です。
今も基本的に変わっていないといえば、変わっていないロケーションではありますが、週末の人出を見れば当時の賑わいは影を潜めたと思うのは和気だけではありますまい。消費活動の変化や行きたいスポットの不足、暇つぶしする暇もなし。仕方ないといえばそうなのでしょうが。
ノスタルジーに浸るとまではいきませんが、連綿と続く松山食文化の代表の一角をなす、カレーのデリーであります。まつちかタウンという愛媛唯一の地下街にあります。これまた今となっては小さいスケールの地下街ですが、子どもの頃はここしか知らないのですから、こんなものかと。なぜか小銭がぶちまかれた噴水、その上のテレビで流れる高校野球、無言で見上げるオッサン達、そんな感じのシーンを何度も見ていたような気がします。
プチおのぼりとしてはデパートの食堂が定番なのですが、子ども心ながらあまりおいしくない(当時はね)と思ってました。そんな折、連れらたようなおぼろげな記憶がある、初めてのカレー専門店でこちらでありました。その洗礼を受けた方々、多いんじゃないですか。
L字になってるカウンター、赤を基調としたシュールな壁のシルエット画?、 カレーの寸胴をターナーでかき混ぜるマスター、オーダーサインのタグ、添え物の器、小さいお冷のグラスもほとんど変わっていません。この店には目隠しがまったくありません。全てを見ながらいただくスタイルです。
メニューも変わっていません。目つむっても言えそうです。そう、ここに集いし者は恐らくですが、メニューを見ずに注文しているはず。エビフライが2尾のエビカレーだけはソースが別皿で出てくることも忘れてません。前回、いつ食べたかは完全に忘れてますが。
連れがたのんだのは、定番の「デリーカレー」。ワンコインで食べられます。
和気殿は、「エッグカレー」。オーダーしてから揚げる卵のフライを、店のルーティンに則って調理します。カウンター越しに見るその風景、マスターの所作もそのまんま。でも、今回は異常に早く出てきたので、すでに揚げてあったようです。こんなことは初めてでしたが。まあ、冷めたエッグも気にしないぜ。バランス良く食べないと、ライスが残ってしまうんですねえ。
福神漬けとラッキョウの添え物も、ここの特徴といえるでしょう。姫らっきょというか、小振りでおいしい。家のラッキョウはあまり好きではないけど、ここのはたくさん盛ってしまうんですねえ。昔は、これでもか! というほど皿に放り込んでいた人もいましたが。
「へいからいや」という名のスパイスがタバスコと共に備えられています。すでに表示がなくなってますが。体調が悪いときにはご遠慮くださいみたいな表記がありました。辛くないとカレーでない、という吾人は辛さの効き方が違う2種類の辛味をご利用ください。
子どもでも食べやすい辛くない優しいカレーです。具のゴロゴロ感は全くありません。すでにソースに同化してしています。ここでしか味わうことができない、混沌とした甘目のカレーは、家庭や給食では食べたことのない、「外食」体験の素晴らしさを舌にもたらしたのではないでしょうか。まあ、オッサンになっても、インド料理にはまっても、その原体験はまだまだ健在でありました。時折、無性に食べたくなるのであります。酒の〆にもいいですよね。
子どものころに連れられてきたこの場に、その頃は想像すらできなかった、自分の子どもを連れてくることになりました。特に感慨深いということではありませんが、食文化って、こうやって受け継がれるのかと思ってしまいました。どんなやり取りがあったかなんて全然覚えていないけど、親から「おいしいね」とかって言われて、「おいしい!」とかって興奮してたガキだったんだろうなあ。かくして、おんなじように「おいしいだろ?」と訊いて、「おいしい」と言う娘に、なんか安心していまいました。
個人的な思い入れなど交えてありますが、愛媛松山の味と言っても過言ではありません。ぜひ一度お試しください。