アルビン・トフラー研究会(勉強会)  

アルビン・トフラー、ハイジ夫妻の
著作物を勉強、講義、討議する会です。

第三の波目次とサピエンス全史目次

2024年06月10日 15時45分47秒 | トフラー論より
ここで、再び「第三の波」の目次に目を通して
いただきたい。それは、これから解説するユヴ
ァル氏の「サピエンス全史」~「21LESS
ONS」に連なる目次と大変似通っているから
である。

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第三の波
<目次>
序章  ぶつかり合う波
第一章 明日への大闘争
革命的前提/波の方向/未来の波/金
ブームに踊る投機狂から暗殺まで

第二の波
第二章 文明の構造
暴力的な解決/肉体的労働に頼ってい
た動力/子宮の役割まで果たす科学技
術/深紅の仏塔/流線型家族/かくさ
れたカリキュラム/法人という名の不
死鳥/音楽の製作工場/紙吹雪 
第三章 見えない楔
市場の意味/男女の役割の分離 
第四章 暗号の解読
規格化/分業化/同時化/集中化/極
大化/中央集権化 
第五章 権力の技術者
統合する人びと/統合の原動力/権力
構造のピラミッド/スーパー・エリー

第六章 隠された青写真
機械信仰/議員代表制の標準モデル・
全世界にひろがった法律製造工場/ 
    選挙は確認の儀式 
第七章 国家に対する熱狂
馬を乗り代える/黄金の多釘
第八章 帝国主義への道
庭のガスポンプ/マーガリンのための
ヤシ農園/アメリカ人による統合/
    社会主義国の帝国主義 
第九章 産業的現実像
進歩の法則/空間の組み変え/現実像
の本質/究極の“なぜ”
第十章 鉄砲水

第三の波
第十一章 新しい統合

第十二章 変貌する主要産業
     太陽エネルギー、そのほかの代替エ
ネルギー/明日の道具/宇宙の富の
利用/海底への進出/遺伝子産業/
技術に対する反逆者たち 
第十三章 脱画一化へ向かうメディア
     イメージの貯蔵庫/脱画一化へ向か
うメディア/「瞬間情報文化」
第十四章 知的情報に満ちた環境
     脳の働きの強化/社会的な記憶 
第十五章 大量生産のあとにくるもの
     ねずみのミルクにTシャツ/「スピ
ード」効果/秘書不要の時代 
第十六章 「エレクトロニック住宅」
     家内労働/通勤の代用としての労働
/家庭中心の社会 
第十七章 未来の家族
     核家族を守るキャンペーン/非核家
族の生活様式/こどものいない生活
/ホットな関係/愛プラスアルファ
ー/働くこどもたち/エレクトロニ
ック大家族/両親を訴える/新しい
時代の家族 
第十八章 企業存立の危機
     踊り狂う通貨/加速化ぎみの経済/
企業の見なおし/五つの圧力/多目
的企業/多様化する「純益」の内容
第十九章 新しい規約の発見
     九時~五時労働の終焉/眠らざる魔
女ゴルゴン/友人別のスケジュール
/コンピューターとマリファナ/
「脱規格化」人間/新しい配列/小
さいものは素晴らしい/未来の組織
第二十章 生産=消費者の出現
     目に見えない経済活動/大食漢と未
亡人/D・I・Y/アウトサイダー
とインサイダー/生産=消費者の生
活様式/第三の波の経済/市場拡大
の終焉 
第二十一章 知性の混乱
     自然の新しいイメージ/進化をデザ
インする/進歩の樹/時間の未来/
宇宙旅行者/全体論と半分論/宇宙
の遊戯室/シロアリの教訓 
第二十二章 国家の崩壊
     アブハジャ人とテクシコ人/上から
の圧力/グローバルな企業/“T字
ネット”の出現/「地球意識」/神
話と創作 
第二十三章 衛星を持ったガンジー
     第二の波の戦略/こわれた成功のお
手本/第一の波の戦略/第三の波の
問題/太陽とえびとシリコンの小片
/最初の生産=消費者/スタートラ
イン
第二十四章 大合流
     明日の基盤/プラクトピアの概念/
間違った設問 


結論
第ニ十五章 新しい精神体系
     孤独への挑戦/情報化時代の共同体
/ヘロインによって与えられる生き
がい/新興宗教の秘密/人生相談と
結社の効用 
第二十六章 人間性の未来
     今までとはちがった成長/新しい労
働者/生産=消費者の倫理/絶対的
な私
第二十七章 時代おくれになった政治体制
     ブラック・ホール/私的軍隊/英雄
待望論の誤り/網の目を張りめぐら
した世界/多部門にまたがる問題/
決定のスピードアップ/コンセンサ
スの崩壊/決定の内部崩壊 
第二十八章 二十一世紀の民主主義
     建国の父母へ/マイノリティー・パ
ワー/半直接民主主義/決定権の分
散/エリート層の拡大/来たるべき
大闘争/創造者の運命

あとがき 訳者あとがき
昭和55年(1980)10月1日発行(和訳)

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非常にテンポの良い論説で、数時間で一気読み
も可能であり、読み直しでも、各章各項目が分
かりやすく何度でも確認が出来る。


では、サピエンス全史はどうか?
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サピエンス全史
- 文明の構造と人類の幸福 -

<目次>
歴史年表

第一部 認知革命

第一章 唯一生き延びた人類種
     不面目な秘密/思考力の代償/調理
する動物/兄弟たちはどうなった
か?
第二章 虚構が協力を可能にした
     プジョー伝説/ゲノムを迂回する/
歴史と生物学
第三章 狩猟採集民の豊かな暮らし
     原初の豊かな社会/口を利く死者の
霊/平和か戦争か?/沈黙の帳
第四章 史上最も危険な種
     告発のとおり有罪/オオナマケモノ
の最期/ノアの箱舟

第二部 農業革命

第五章 農耕がもたらした繁栄と悲劇
     贅沢の罠/聖なる介入/革命の犠牲
者たち
第六章 神話による社会の拡大
     未来に関する懸念/想像上の秩序/
真の信奉者たち/脱出不能の監獄
第七章 書記体系の発明
     「クシム」という署名/官僚制の驚
異/数の言語
第八章 想像上のヒエラルキーと差別
     悪循環/アメリカ大陸における清浄
/男女間の格差/生物学的な性別と
社会的・文化的性別/男性のどこが
それほど優れているのか?/筋力/
攻撃性/家父長制の遺伝子

第三部 人類の統一

第九章 統一へ向かう世界
     歴史は統一に向かって進み続ける/
グローバルなビジョン
第十章 最強の征服者、貨幣
     物々交換の限界/貝殻とタバコ/貨
幣はどのように機能するのか?/金
の福音/貨幣の代償
第十一章 グローバル化を進める帝国のビジョン
     帝国とは何か?/悪の帝国?/これ
はお前たちのためなのだ/「彼ら」
が「私たち」になるとき/歴史の中
の善人と悪人/新しいグローバル帝

第十二章  宗教という超人間的秩序
     神々の台頭と人類の地位/偶像崇拝
の恩恵/神は一つ/善と悪の戦い/
自然の法則/人間の崇拝
第十三章  歴史の必然と謎めいた選択
     1後知恵の誤謬/2盲目のクレイオ

第四部 科学革命

  第十四章 無知の発見と近代科学の成立
     無知な人/科学界の教義/知は力/
進歩の理想/ギルガメシュ・プロジ
ェクト/科学を気前良く援助する人
びと
  第十五章 科学と帝国の融合
     なぜヨーロッパなのか?/征服の精
神構造/空白のある地図/宇宙から
の侵略/帝国が支援した近代科学
  第十六章 拡大するパイという資本主義の
マジック
     拡大するパイ/コロンブス、投資家
を探す/資本の名の下に/自由市場
というカルト/資本主義の地獄
  第十七章 産業の推進力
     熱を運動に変換する/エネルギーの
大洋/ベルトコンベヤー上の命/
     ショッピングの時代
  第十八章 国家と市場経済がもたらした世
界平和
     近代の時間/家族とコミュニティの
崩壊/変化し続ける近代社会/現代
の平和/帝国の撤退/原子の平和
  第十九章 文明は人間を幸福にしたのか
     幸福度を測る/化学から見た幸福/
人生の意義/汝自身を知れ
  第二十章 超ホモ・サピエンスの時代へ
     マウスとヒトの合成/ネアンデルタ
ール人の復活/バイオニック生命体
/別の生命/特異点/フランケンシ
ュタインの予言

謝辞 訳者あとがき 原注 索引


「第三の波」同様に、各章各項目とも、分
かりやすい展開で、あっと言う間に読了で
きる。サピエンス全史は2016年に日本語
訳が発行されてベストセラーになったが、
古本屋さんや、ブックオフさんの在庫を見
ると、サピエンス全史(上)※第11章まで
は重版を重ねているが、サピエンス全史
(下巻)、ホモ・デウス(上下巻)、21L
ESSSONSは、ほぼ初版本となってい
る。単なるブームで、サピエンス全史上巻
だけを持っている?のであれば、これから
の議論には役立たない。
出来れば、ユヴァル氏の三部作「サピエン
ス全史(上下巻)」・「ホモ・デウス(上下
巻)」・「21LESSONS」を古本でも
良いので購読していただきたい。
また、トフラーの三部作は、著者が「未来の
衝撃」・「第三の波」・「パワーシフト」として
いるが、1970年の「未来の衝撃」は内容的に
古く、当方の勉強会では「第三の波」・「パワ
ーシフト」・「富の未来」を三部作として展開
する。新刊としては稀少本で、既に販売も終
了されているようなので、著作権侵害に抵触
しないよう、このブログで必要箇所だけの引
用とする。全編読了されたい方は、古本屋さ
んかブック・オフ登録で探してみてください。


未来学と楽観主義 訂正

2024年06月10日 15時16分29秒 | トフラー論より
20240607投稿で、スマートホン対応でお
願いしますとのご要望があったので、今後の書式
を以下に統一します。(22P)再投稿○

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未来学と楽観主義
アルビン・トフラーとユヴァル・ノア・ハラリの
共通点は、楽観主義を基本として未来を語って
いるところである。未来を語る上で、悲観主義的
な事柄を述べていては未来が無い。
知的な楽観主義で未来を思考することが最も重要
だと私は主張したい。
双方著者の著書物発行は、40代からのもので共
通点がある。
更には、アルビン・トフラー逝去の年に、ユヴァ
ル・ノア・ハラリは、サピエンス全史を世に問う
わけである。彼の著書が数年単位で発行されてい
る点で、21LESSONSまでの構想があったもの
だと思われる。
それは、「未来の衝撃」刊行40周年を迎え2010
年、トフラー夫妻が発表した「40 FOR THE
NEXT40」(今後の40年を左右する40の変化)
である。
____________________________________________

○アルビン・トフラー著作年代

1928年10月4日生まれ
2016年6月27日逝去88歳
  著  書    年代(和訳)発行 年齢
未来の衝撃     1970年(S45)  42y
第三の波      1980年(S55)  52y
未来適応企業    1985年(S60) 57y
パワーシフト    1991年(H 3) 63y
戦争と平和     1993年(H 5) 65y
第三の波の政治   1995年 (H 7) 67y
富の未来      2006年(H18) 78y
生産消費者の時代  2007年(H19) 79y

○ユヴァル・ノア・ハラリ著作年代

1976年 2月24日生まれ
2024年   現在48歳
   著  書    年代(和訳)発行 年齢
サピエンス全史    2016年(H28) 40y
ホモ・デウス     2018年(H30) 42y
21LESSOONS    2019年(R 1) 43y
緊急提言パンデミック 2020年(R 2) 44y

__________________________________________
「40FOR THE NEXT40」(今後の40年を左右
する40の変化)は、書物としては発刊されず、
ネット上でしか読むことができなかったが、
World Voice プレミアムでは、「世界各地で政治、
経済、社会、テクノロジーなど分野ごとに行なっ
た分析調査をベースに導き出された予測であり、
国家や企業そして個人が未来を左右する原動力を
知り、いかに生きるべきかを考察するための道
しるべともなるものだ。~」と解説している。
政治分野、社会分野ごとにまとめていたが、急速
な世界状況、社会状況の変化は、これらの議論を
はるかに超えた大きな第三の波がAIの登場で一
変するわけである。LLM(ラージ・ランゲージ・
モデル)からMMM(マルチ・モーダル・モデル
)へと進化を続けているAIはわれわれの日々の生
活に衝撃を与えている。言葉を理解して話すだけ
ではなく、目を持ち、物事をアルゴリズムで理解
するようになってきたのだ。臭覚や知覚をセンサ
ーで感ずるようになれば、より人間に近い情感を
持つ事が出来る???ユヴァル氏は、これを根本
的に否定している(ホモ・デウス)。この件は、
かなり後からの議論としたい。

「汝自身を知れ」から始まるユヴァル氏のサピエ
ンス全史の論説は、「国家や企業そして個人が未来
を左右する原動力を知り、いかに生きるべきかを
考察するための道しるべ」となる意味合いを深く
掘り下げている。
ところで、ユヴァル・ノア・ハラリ氏について、
『あいつはゲイである』『変態だ!』などと人格
否定から著書までを貶めて不評を語る者も多い。
本も読まずに気分だけで他者を否定する無知蒙
昧な男性至上主義の輩は、どんな国・地域にもい
るものだ。第二の波の底で、沈殿し続けるヘド
ロのような存在であり、未来を語るに値しない。
LGBTIQの権利を著しく毀損しているのだ。

参考資料として、exaBase コミュニティ AI新
聞の公開資料を参照されたい。

ユヴァル・オードリー対談(2020.07.12)
「民主主義と社会の未来」全和訳
ユヴァル氏はゲイ、オードリー氏はトランスジェ
ンダーという性的マイノリティーの話題から対談
は始まっている。AIメンターによるサポート、そ
してユヴァル氏は未来を見つめる中世の歴史家、
オードリー氏は現在をハッキングする技術者とし
て地球規模の問題を解決するために、ユニークで
個性的な特性や違いを消し去ることなく、未来に
向けて新しい共有の「物語(価値観)」を思考して
いる。
更にはユヴァル氏はイスラエル人、オードリー氏
は台湾人として双方共に政治体制、紛争当事国の
環境下にある。
二十一世紀の共通の価値観、古い物語の奴隷にな
るなとユヴァル氏は述べ、オードリー氏は
Internet of things(物のインターネット)を見たら
、Internet of being(人間のためのインターネット)
を考えよう。バーチャルリアリティを見たら、リ
アリティの共有を考えよう。機械学習を見たら、
コラボ学習を考えよう。ユーザー体験を見たら、
人間体験を考えよう。特異点が近いと聞いたら、
多元性がここにあることを忘れないようにしよう
- と文章をまとめている。

○「新しい人間」の登場○
 この流れは、「第三の波」に描かれている。
『-第三の波- 結論 
第26章 人間性の未来 543ページ~
新しい文明が日常正確に急速に入り込んでくるに
つれて、われわれは、自分自身がすでに時代お
くれの存在になっているのではないか、と自問せ
ざるをえない状況におかれている。生活習慣、物
事の価値、日常の生活態度までが問いなおされる
ようになると、時として、われわれ自身が第二の
波の文明の遺物ではないのか、過去の存在になっ
てしまったのではないかと考えたくなるのも、無
理からぬところがある。しかし、アナクロニズム
としか言いようのない人びとがいるのも事実だと
して、一方には、来るべき第三の波の文明を待望
している「未来を予見する市民」もいるはずであ
る。われわれの身のまわりに起こった過去の退廃
や崩壊を振り返って見れば、期待される未来の人
間像の輪郭がみえてくるのではなかろうか。言っ
てみれば「新しい人間」の登場である。
~第三の波の文明が成熟するとともに、われわれ
がつくり出すのは過去の人間を見いだすユートピ
ア的な男女でもないし、ゲーテやアリストテレス
のような(ジンギス汗やヒトラーと言ってもよい)
スーパーマンでもない。ただ人間と呼ばれるにふ
さわしい人類を希求し、人間的な文明を願望して
いるにすぎない。しかし同時にそうした人間らし
さを、誇りをもって追求していくわけである。
では、こうしたのぞましい変革の結果を期待でき
るのだろうか。すぐれた、新しい文明への移行は
可能なのだろうか。これは、政治変革の必要性と
言う、決定的な命題をどう解決するかにかかって
いる。われわれは最後に、この、一面では恐ろし
く、また一面では期待に満ちた展望について触れ
ることとしよう。未来の人間性は、未来の政治と
ともに考えざるをえないのである。』
この視点から、「第27章 時代おくれになった政
治体制」「第28章 二十一世紀の民主主義」へと
すすみ、結ばれている。
後年、トフラーは「第三の波の政治」1995年 (H 7)
6月27日を発刊したのは、「二十一世紀の民主主
義」の内容を改訂増補したものである。
この箇所も、「民主主義と社会の未来」の基盤とな
っているところで、この課題をどう乗り越えてい
くのかがわれわれの鍵となるのだ。

ただし、「新しい人間」とは、今、日本国内で企業
献金等で物議をかもし出している政治屋(金満政
治家)の事ではない。
かれらは、「古い人間」であり、法の支配に基づか
ない、スピード感の無い、分かりずらい、有権者
に寄り添わない、歳費という名の税金を消費する
「無生産大消費者」なのである。トフラーが生き
ていたら激怒しただろう。


アルビン・トフラー パワーシフト 究極の代替物より

2011年06月11日 22時00分02秒 | トフラー論より
暴力・富・知識のパワー(権力)の三本柱。
先般はジョブトレーニングメンバーのテキストで紹介しましたが、もう一度
勉強しましょう。

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パワーシフト 第八章 究極の代替物    P.133~143 
*第三の波の政治 第3章 究極の代替物P.55~64(改訂)
 (以下は、パワーシフト本文より)
本書の読者は、読解力という驚くべき技を持っている。おしなべて我々の祖先が文盲だった事実に思いいたると、時おり異様な感じに襲われざるを得ない。頭が悪いとか、無知だったとかではなく、文盲であるのは当時、致し方なかったのだ。

読めるということだけで、昔は舌を巻くような才能だった。聖アウグスツヌスが五世紀に書き残した中に、師であったミラノの司教、聖アンブロシウスに触れ、師は勉学に励んだので唇を動かさずに文書を読むことができた、とのくだりがある。この驚くべき才能の故に、聖アンブロシウスは世界で最も頭の切れる人に祭り上げられたのである。
 我々の祖先の大部分は文盲だっただけでなく、簡単な足し算引き算の計算能力さえなかった。できる少数の人間は、かえって危険な存在と見なされた。アウグスチヌスが出したとされる信じ難い警告は、キリスト教徒は足し算や引き算ができる人物に近づくべきでない、というものだった。そんな連中は、「悪魔と契約を結び、精神を惑わせ、人を地獄の束縛に閉じ込める」ことが明白だった。-現代なら小学4年生で算数を習っている生徒の多くがいだく感情だろう。-
商業を志す学生に収支決算をマスターした教師が教え出すのは、それから千年経ったのちのことである。
ここで強調したいのは今日、ビジネスの世界で当たり前と思われている簡単な技術の多くが、長い時間をかけた文化的発展の積み重ねであり、何世紀もの産物であるということだ。世界中のビジネスマンがいま依存している知識は、それと自覚してはいないが、中国から、インドから、アラブから、フェニキアの貿易商人から、そしてまた西欧からの遺産の一部なのである。こうした技術を身に着けた何世代もの人間が、その技術を改善し、後代に伝え、そしてゆっくりと現在の形に作り上げてきた。 
経済のすべてのシステムは、知識の基盤の上に立っている。ビジネス関係のすべての企業も、社会的に積み上げられて来たこの前世紀からの遺産に頼っている。しかし、重要であるべきこの要素は資本、労働、土地と違って、物の生産に必要な要素を勘定する際、普通は経済学者と経営幹部になおざりにされてきた。とはいえ今日、この要素は(時に代価が支払われ、時にただで搾取されるが)全要素中、最も重要なものとなった。
歴史上には数は少ないが、知識の進歩が時代遅れの障害をいくつか打ち壊してきている。そうした突破口のうち特記されるべきは、新たな思考方法の到来と、表意文字・アルファベット・零といった情報伝達手段の発明である。そして我々の世紀において、それはコンピュータにほかならない。
30年前にコンピュータを少しでも操れる者は、大衆紙で数字の魔法使い、あるいは巨大頭脳扱いされた。唇を動かして文字を読む時代の聖アンブロシウスと全く同じである。
今日の我々は、人類の全知識構造が再び変革に身を震わせ、同時に古い障害が崩れつつある、歴史上、何回とない稀有の時代に生きているのだ。 
 
本書はここで、いろいろな事実を、それらがどんなものであれ、足し算して見せようというわけではない。いま会社や経済全体の構造変革が進みつつあるように、知識の生産と配分、そして知識を伝達するためのシンボルの再編が徹底して行われつつあることを、ここで指摘したいだけである。
それはどういうことなのだろうか。
知識の新しいネットワークが創られつつあるということである。いろいろな概念が肝を潰すような形で互いに結び付き、驚くべき推論のヒエラルキーが構築され、新奇な前提と新しい言語、符号、論理を土台とした新しい理論、仮定、想念が創出する-といった具合にネットワークがつくられつつあるのだ。
ビジネスも、政府も個人も、歴史上かつてどんな世代が行ったよりもたくさんのデータそのものをいま収集し、蓄えつつある。(明日の歴史学者は大量かつ複雑な金鉱に出くわし途方にくれるだろう)
しかし、もっと重要なのは、データを様々な方法で相互に関係づけ、それらに文脈を与え、そうすることによってデータを情報へと整えていることだ。そして情報の束をどんどん膨らませて、各種のモデルと知識の殿堂を創り上げていることだ。
といって、このことはデータの正しさ、情報の真実さ、知識の賢さを示しているわけではない。しかし、世界を見る目、富を作り出す方法、力を行使する方法に大きな変化が生じていることを、それは示している。
この新しい知識のすべてが事実に基づき、明確に理解できる形をとるわけではない。ここで使われる用語としての知識の多くは、前提のうえの前提、断片的なモデル、それと気づかない類推などから成っていて、口でははっきり言い様がないものである。そして、その知識は、単純に論理的なもの、また、見せかけとしての非感情的データを含むだけでなく、想像や直感はもちろん、情熱や情緒の産物である価値をも含んでいる。
社会の知識基盤に生じている今日の大騒動こそ(コンピュータを利用した詐欺や単なる金融操作の意味ではない)超象徴(スーパーシンボリック)経済の勃興を告げる証左なのである。

情報の錬金術
社会の知識システムの変化の多くは、ビジネスの操業に直接、取り入れられる。この知識システムというのは、会社にとっては銀行システムや政治システム、あるいはエネルギー・システムよりずっと受け入れ易い。
もし言語、文化、データ、情報、ノウハウがなかったら、ビジネスが成り立たない事実はさて措くとしても、富を創出するに必要な諸要素のうち、知識ほど融通が利くものは外にないという事実は動かし難い。実際に知識は(時には単に情報とデータだけだが)他の要素の代わりに用いられることさえある。
知識 - 原則的に使い減りしないもの - は究極の代替物なのである。

技術を取ってみよう。
ほとんどの煙突型産業の工場は、製品を変えようとすると、法外な費用がかかる。高価な道具、型造り機、ジグセッター、その他の特殊設備に高い金を必要とし、結果として非稼動時間が生まれ、機械は遊んで、資本、利子、間接費が食われることになる。同一製品を長期に造れば造るほど、単位あたりのコストが下がるのは、そのためである。
しかし、長期生産の代わりに、最新のコンピュータ利用の製造技術を使えば、種類の違う製品をいくらでも造ることができる。オランダに本拠を持つ巨大なエレクトロニクスをあつかう、フィリップスは1972年に100種類の型のカラーテレビを造った。今日では型の種類は、500に上っている。日本のブリジストン・サイクル社は、“ラダック型注文生産”という自転車を宣伝中だ。松下は注文用半製品のホットカーペットを市場に出している。さらにワシントン靴店は注文用半製品の女性靴を出していて、これは各サイズごとに32種類のデザインがあり、店内に備えたコンピュータが客の足の形を測ってつくっている。
新しい情報技術は大量生産型経済の原則を逆転させ、製品の型を変える費用をゼロに近づけている。知識はこのように、かつては高くついた生産工程の変化にかかる経費を肩代わりするのである。

では原料を取ってみよう。
旋盤を動かすコンピュータに上手にプログラムを入れれば、たいていの旋盤工がやるよりも多くの型を、同じ大きさの鋼板から切り抜くことが出来る。新しい知識は精密作業を可能にしたため、製品をより小型化、軽量化し、結果として倉庫費と輸送費を減らした。さらに鉄道・船舶輸送会社のCSXのケースで見たように、輸送状況を分刻みで把握することによって(それはつまり情報の質的向上に外ならないが)配送費のいっそうの節約が図られた。
新しい知識はまた、飛行機の合成材から生化学的薬剤にいたるまでの広い範囲にわたって、全く新しい材料をも創り出し、ある原料を他の物で代替させる可能性を広げている。テニスのラケットからジェットエンジンにいたるまであらゆるものが、新しいプラスティック、混合物、複雑な合成物質と組み合わされて創られる。(中略)
つまり、知識は、資源と輸送双方の肩代わりをするわけである。

同じことがエネルギーにも当てはまる。
最近の超伝導開発の成功は、知識がもたらす代替的活用として、他のどんなものにも優っている。これが実用化されれば、各生産単位に送られているエネルギーの量を大幅に減らすことができる。全米公共電力協会によれば、銅線による伝導効率が悪いため、全米で生産される電力の15%が供給途中でロスになるという。このロスの量は、発電所50箇所の発電量に相当する。超伝導は、そういったロスを大幅に削減できるのだ。
 同様にサンフランシスコのベクテル・ナショナル社は、ニューヨークのエバスコ・サービス社と組んで、フットボール競技場の大きさの巨大なエネルギー貯蔵用バッテリーを造ろうとしている。完成すれば、電力消費のピーク時に余剰電力を供給するため設けられた発電所は要らなくなってくる。

原料、輸送、電力の肩代わりに加えて、知識は時間も節約する。
時間は会社のバランスシートのどこにも現れないが、実は最重要な経済資源の一つである。時間は事実上、隠れたインプットとして残る。特に変化が加速されて(例えば連絡手段や製品を市場に出すのが早くなるように))時間が縮めば、利潤とロスに大きな違いが出てこよう。
新しい知識は物事をスピードアップさせ、同時的、即時的な経済へ向かって我々を駆り立て、さらに時間の消費を肩代わりする。
空間もまた知識によって減らされ、コントロールできる。GEの運輸システム部が新しい荷物運搬車をつくったが、この運搬車を高度の情報処理および通信を使ってサプライヤーとつないだところ、在庫調べが以前より12倍早くなり、その結果、倉庫空間の1エーカー分が節約された。(中略)
もっと重要なのは、コンピュータと進んだ知識に基づく遠距離通信により、生産設備をカネのかかる都心部から疎開させることができ、エネルギーと輸送コストをさらにカットできることである。

知識対資本
コンピュータ機能による人間労働の肩代わりについては余りに多く語られ過ぎているので、資本の肩代わりについて、つい忘れがちになる。そうであっても今まで述べられてきたことは、資金的な節約にもまた繋がっているのである。
実際、ある意味で知識は、労働組合や反資本主義的政党より、遥かに金融権力に対する重大な長期的脅威である。なぜなら相対的問題として、情報革命は産出単位ごとの資本必要量を減少させるからである。資本主義経済という呼び名のもとで、これほど重要なことはない。
(中略)
したがって、ここまで見てきたことは、どんな形の経済であろうと、生産と利潤は力の三つの主要な資源 - 暴力、富、知識 - に依存していること、そして暴力は法律へと形を変え、ついで資本とカネは共に知識へと変質しつつある、ということである。仕事の内容も並行的に変化し、シンボルの操作にますます頼るようになっている。資本、カネ、仕事が揃って同方向へ移行するに伴い、経済の全基盤に革命的変化が起きている。それは、煙突型産業時代に行き渡ったルールとは極端に違うルールに従って運営される、超象徴(スーパーシンボリック)経済への変貌である。
原料、労働、時間、空間、および資本への必要度が減少する一方、知識は先進経済の中心的な資源となってくる。この減少が起こるにつれて、知識の価値は高騰する。この理由のために、次章で見えるように、情報戦争-知識のコントロールをめぐる争い-が、いたるところで勃発しつつある。                           
第二部 超象徴経済における日常   (終了)

アルビン・トフラー パワーシフト まえがき

2011年06月03日 22時09分59秒 | トフラー論より
アルビン・トフラーの20世紀における三部作、「未来の衝撃」・「第三の波」、そして
「パワーシフト」は、著者が整理立てて解説していますので、そのまま引用します。

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1990年11月発刊 『パワーシフト』まえがき

驚くべき変化が我々を21世紀へと駆りたてている。『パワーシフト』は、二十五年にわたって、その変化の意味を捉えようとした努力の集大成である。『未来の衝撃』に始まり『第三の波』へとひきつがれ、そしてここに完成した三部作の最終作である。

 この三冊はいずれも独立した作品としても読めるのであるが、これをまとめると、知的に一貫した読みものとなる。全体の中心テーマは、社会がまったく新しい予想もしなかった姿に急に変容するときに、人々に起こる変化である。

『パワーシフト』では、これまでの分析をさらに推し進め、産業社会のパワー・システムにとって代わった新しいパワー・システムの出現に焦点を合せている。加速化する今日の変化を表現するのに、マスコミはまったく関連のない情報をうるさく我々に浴びせかけている。専門家は極めて専門的な研究論文の山に我々を埋めようとする。人気のある予測家たちも関連のないトレンドをいくつか示してはくれるが、相互関係とか、そのトレンドに逆行する諸勢力のモデルはみせてはくれない。そのため変化そのものが、無秩序で、時としては異常としかみえなくなる。

 しかし、今日の変化は、我々がよく思いがちなように無秩序でもなければ、でたらめでもない。この三部作はそのことを前提としている。そして、ヘッドラインの裏には、単に明確なパターンだけでなく、そのパターンを形成する同一の力があるのだと私は考えている。こうしたパターンや力を理解してしまえば、それを個々にでたらめに扱うのではなく、計画的に扱うことが可能となる。 

 しかし、今日の大きな変化の意味を理解し、計画的に考えるには、断片的な情報やトレンドのリストだけでは足りない。異なったいくつもの変化が相互にどう関連しているかを知る必要がある。そこで『パワーシフト』では、前二著と同じく、明確な全体像を総合的に捉えようとした。つまり、地球上に現在広がりつつある新しい文明を網羅するイメージを求めたのである。

 次に本書は、明日の発火点、つまり新しい文明が古い既成勢力と衝突する際に我々の当面する対立点をとりあげている。『パワーシフト』は、これまでにみられた企業買収や構造改革は、今後に生ずる、より大規模でまったく新しいビジネス戦争を告げる最初の発射音にすぎないとみている。さらに重要なことは、東ヨーロッパやソ連における最近の激変も、今後に生ずるグローバルな権力闘争に比べると、ほんの小競合いにすぎないとみている。また米欧日間の競争もまだピークには達していない。つまり『パワーシフト』は、産業文明が世界的支配力を失い、新しい勢力が興って地球を支配する際に、なお我々が直面する権力闘争の高まりについて述べたものである。私にとって『パワーシフト』は、魅惑的な旅の終わりに辿りついたひとつの頂点である。

            (中略)

 この三冊は、1950年代の半ばから2025年にいたる約75年間という、人間にすれば、ひとつの生涯にわたる期間をとりあげたものである。この期間は、数世紀にわたって地球を支配した煙突型文明が、世界を揺るがすような権力闘争の期間につづいて、従来とはまったく異なった文明にとって代わられるという、いわば歴史の接点ということができよう。

 しかし、この三冊は、同じ時代を対象としながらも、現実の表面下を探るのに、それぞれ違ったレンズを用いている。したがって、読者のためにここで、その違いをはっきりさせておきたい。
『未来の衝撃』は変化のプロセス
-人々や組織に与える変化の影響―をとりあげた。
『第三の波』は変化の方向
-今日の変化によって我々はどこへつれてゆかれるのか-に焦点を合せた。
『パワーシフト』では今後起こる変化のコントロール
-誰がどうやって変化を形成するか-を扱っている。

 『未来の衝撃』を我々は、余りに多くの変化に、余りに短期間に対応しようとしたために生じた方向感覚喪失とストレスだとしたが、この本では、歴史が加速化すると、実際の変化の方向とは関係なく自らの結果を招くことになると論じた。出来事とその反応時間が加速化するだけで、その変化が良くても悪くても、それなりの効果を生ずる。
 また、この本では、個人なり組織、または国家でも、余りに多くの変化を、余りに短期間にうけると、方向感覚を失い、知的に適応した決定を行う能力が損なわれると論じた。つまり彼ら自らが未来の衝撃をうけるのである。
 当時の一般世論とは逆に、『未来の衝撃』は、核家族はやがて崩壊するであろうと述べた。また遺伝子革命、使い捨て社会、それに今やっと始まった教育革命などを予言した。この本は最初1970年にアメリカで出版され、その後世界各国でも出版されたが、人々の琴線に触れ、思いがけなく世界的ベストセラーとなり、批評のあらしを呼んだ。科学情報研究所によると、本書は社会科学分野で引用頻度の最も高い本のひとつとなった。『未来の衝撃』という言葉も日常語となり、多くの辞書にとりあげられ、今でも新聞雑誌の見出しに頻繁に登場する。 

 『第三の波』は1980年に出版されたが、前著とはその焦点が違っている。技術、社会における最近の革命的変化について、それを歴史的に概観し、その変化のもたらす未来の姿を描いたものである。
 この本では、1万年前の農業革命を人間の歴史における変革の「第一の波」、産業革命を「第二の波」として捉え、1950年代半ばに始まった大きな技術的社会的変化を、煙突型文明のあとにつづく新しい文明の始まりである大きな「第三の波」であるとした。
 なかでも本書は、コンピュータ、エレクトロニクス、情報、バイオテクノロジーなどに基づく未来の新しい産業を、経済の「新しい展望台」と名づけて、それをとりあげたものである。ここではフレキシブルな製造、特定分野の市場、パートタイム作業の拡大、メディアの非大衆化などの傾向を予想した。生産者(プロデューサー)と消費者(コンシューマー)に新しい融合がみられるため、「プロシューマー」という表現を導入した。また一部の仕事が今後は再び家庭で行われることや、政治や民族国家におけるその他の変化を論じた。『第三の波』は国によっては発禁となったが、他の国ではベストセラーとなり、しばらくは中国の改革派知識人の間で「バイブル」とされた。最初は西洋の「精神的公害」を撒き散らすものだとして非難されたが、のちに解禁されて莫大な部数が出版され、この人口世界一の国において、ベストセラーとなった。当時の趙紫陽首相は、本書に関する会議を開いて、政策立案者たちに本書の研究を薦めた。
 ポーランドでは合法的に縮訳版が出版されたが、学生や連帯支持者たちが削除に怒ってアングラ版を出版し、カットされた部分を載せたパンフレットを配付したりした。『未来の衝撃』と同じく『第三の波』も読者の間に多くの反応を引き起こし、その結果、新製品が生まれ、会社が設立され、シンフォニーが作られ、彫刻さえ登場した。

 『未来の衝撃』から20年、『第三の波』から10年経った今日、ついに『パワーシフト』が生まれた。本書は前著の終わった所から出発し、パワーに対する知識の関係が大きく変化した点を取り上げた。社会的パワーに関する新しいパワーを示し、ビジネス、経済、政治、世界問題における来るべきシフトを探っている。
 未来は正確な予想という意味では知ることはできない。そのことはつけ加えて言う必要もない。人生というものは超現実的な驚異に満ちている。見たところ最も確実なモデルやデータと思われるものも、とくにそれが人間のことに関するときは、主観的な仮定に基づくことがよくある。さらに、この三部作のテーマである加速的変化によって、書かれた内容は古くなる危険がある。統計数字は変わり、新しい技術は古い技術を追い出す。政治的指導者には盛衰がある。しかし、明日という未知の世界に進むとき、まったく地図なしで進むよりは、たとえ不完全で修正や訂正を要するものであっても、おおまかな地図はあった方がよい。
 三部作のそれぞれは、お互いに違ってはいるがお互いに矛盾することのないモデルに基づいており、どの本も多くの異なる分野、多くの異なる国の文献、調査、報道を参考にしている。

(中略)

 こうした経験は、世界各地からの資料を徹底的に読み分析した結果を補足すると同時に、そのために『パワーシフト』執筆準備期間は、我々の人生の中でも忘れがたいものとなった。『未来の衝撃』や『第三の波』の読者からは、有益で楽しく読めておもしろいという評を頂いたが、『パワーシフト』も同様であることを願っている。四分の一世紀前に始まった広範な分析総合の仕事をここで、一応、終わることにする。
アルビン・トフラー

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