アルビン・トフラー研究会(勉強会)  

アルビン・トフラー、ハイジ夫妻の
著作物を勉強、講義、討議する会です。

アルビン・トフラー ハイジ・トフラー共著 富の未来(下)001

2012年02月12日 19時46分59秒 | 富の未来(下)
最新事例研究を省き、富の未来 下巻へ進みます。
著者の核心部分を敢えて省略しました。本ブログに頼ることなく、著書の購入並びに大学または公立図書館にて
貸し出しを受けて読了されることを期待しています。

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2006.6.7 REVOLUTIONARY WEALTH 富の未来(下)
第7部 退 廃P.14~93
第31章 変化の教え
 「文明」は抽象的で堅苦しい言葉であり、哲学者や歴史家は夢中になるかもしれないが、たいていの人にとっては眠たくなる言葉だ。もっとも「われわれの文明が脅かされている」というような文章で使われたときは例外であり、そうした状況になると、多数の人がカラシニコフに弾をこめようとする。
現在、きわめて多数の人が実際に、自分たちの文明が脅かされており、脅かしているのはアメリカだと感じている。確かに脅かしている。
だが、ほとんどの人が考えているものとは道筋が違っている。
第三の源泉
世界各国で、アメリカを批判する人はアメリカが軍事力と経済力で世界を支配していると指摘する。だが、広い意味での知識とそれに基づく新技術があるからこそ、アメリカは軍事力と金融力をもち、発展させることができている。
アメリカが技術力で、主導的な立場を脅かされているのは確かだ。アメリカ科学財団の科学理事会によれば、アメリカの大学で現在、数学、コンピューター科学、工学の博士号のうち、50パーセント近くを外国人が取得している。アメリカの若者はこれらの分野にあまり興味を示さなくなっている。アメリカ航空宇宙局の高官は、いまでは、同局につとめる科学者が高齢化し、60歳以上が30歳未満の三倍にもなると嘆いている。
アメリカ科学振興協会のシャーリー・アン・ジャクソン会長はこう説明する。「技術に基づく活動、教育訓練、起業が世界全体に急速に広まっている。そのため、アメリカが現状を維持しても、技術革新とアイデアのグローバル市場でのシェアは低下していく」。
とはいえ、アメリカはいまでも、デジタル技術、バイオ技術、科学全般のほとんどの分野で主導的な地位を維持している。世界全体の研究開発費のうち44パーセントがアメリカで支出されている。1999年から2003年までのノーベル化学賞、物理学賞、医学生理学賞の受賞者38人のうち三分の二近くがアメリカ人か、受賞時点でアメリカの研究機関に属していた。少なくとも現在の段階では、アメリカは世界の科学研究の中心地である。
おそらくそれ以上に重要な点は、世界各地での科学技術研究の成果が商品化されてソフトや製品になり、製造業、金融業、農業、防衛、バイオなどのセクターに幅広く拡散していく速度である。これによって経済の生産性が高まり、変化がさらに加速し、アメリカの世界的な競争力が高まることになる。
だが知識はビットやバイトや科学と技術だけの問題ではない。


若者文化
知識経済の一部には芸術と娯楽があり、アメリカは大衆文化の世界一の輸出国だ。アメリカが輸出している文化には、ファッション、音楽、テレビ番組、映画、コンピュータ・ゲームなどがある。
アメリカが世界に発信しているメッセージのうちとくに重要なのは、民主主義、個人の自由、寛容性、人権、そして最近では女性の権利だといわれている。だが過去30年、アメリカのメディアは、以前に閉ざされていたか存在しなかった外国市場に浸透していったとき、まったく違うメッセージを伝えてきた。メッセージの多くは若者を標的にしたものである。
もちろんすべてがそうだというわけではないが、大衆文化のかなりの部分は、悪党やギャング、ドラッグ王、ドラッグの売人やうつろな目をした中毒者を吐き気をもよおすほど美化している。どこまでも続くカー・チェイスや、派手な特殊撮影、性差別の毒をしたたらせた歌などで、極端なまでの暴力を称賛している。そして、これらの商品を売り込むために、限界を超えた強引な広告が使われているので、悪影響が一層強まっている。
たとえば、ハリウッド映画が描くアメリカは、若者の快楽主義が絶対的な力をもっており、警官や教師、政治家、経営者がいつも虚仮にされる夢想の世界である。
映画やテレビ番組がこれでもかといわんばかりに、若者の多くが聞きたがる話を聞かせている。大人はみな間抜けだ、お馬鹿で何が悪い、勉強なんかしなくていい、悪いことをするのは良いことだ、やってやってやりまくれ・・・・。
この夢想の世界では、女性はいつでも口説けるが、いまの女性はスーパーマンのように高いビルもひとっ飛びだし、ジェームズ・ボンドのようにピストルをブッ放しして人を殺すし、ブルース・リーのように武術の達人である。
極端に走るのは良いことであり、自制するのは良くないと繰り返し聞かされている。そしてアメリカはきわめて豊かなので、秘書や警官や事務員など、ごく普通の庶民でも、高層マンションの最上階や高級住宅街の大邸宅のようなところに住んでいるとされる。こうしたイメージが台北からティンブクトゥまで、世界中の若者を刺激している。
アメリカの大衆文化を批判する外国人のほとんどは知らないようだが、何とも皮肉なもので、こうした不快なゴミを作り出し広めているアメリカ企業の多くは、実際にはアメリカではなく、ヨーロッパか日本の企業に資金を提供されているか、過去に提供されていた。
これはあまり理解されていない点だが、こうした映画がたとえばヨーロッパ人の監督、オーストラリア人の俳優、中国人の武術専門家、日本人のアニメ製作者などの外国人によって作られていることも少なくない。
とはいえ、いまのところはこうしたゴミの影響力がきわめて強いので、他国では自分たちの文化が生き残れないのではないかと恐れられている。
地の果ての旅
もう何世紀にもわたって、欧米では「ティンブクトゥ」という地名が世界の地の果てを意味する言葉として使われてきた。最近、親しいオーストラリア人で、冒険家、作家として有名なポール・ラファエレがティンブクトゥを尾と訪れた。西アフリカのマリ共和国の首都、バマコから北東に車を運転して二日かかったという。後にそのときの体験談を電子メールで送ってくれた。「ティンブクトゥでは何世紀も、ほとんど何も変わっていない。遊牧民が驢馬の群れを追って市場にやってくる。トゥアレグ人がローブとベールを身にまとい、目だけをだして路地を歩き、14世紀に作られたモスクの土壁の横を通っていく。・・・だが、そんななかに蜃気楼のようなものが見えた。
(中略)
だがその二週間、ティンブクトゥの街でも砂漠でも、伝統的な服装の人しか見かけることはなかったという。「それでも、あの午後、ティンブクトゥの少年少女が今風の服装と音楽へのこだわりを誇示したとき、この町の将来をかいま見ることができたのだろうか」とラファエレは書いている。(以下略)

ハリウッドの快楽主義
ハリウッド映画は、自由とは制約のない快楽主義だというメッセージを送っているわけだが、ウォール街も、制約のない事業活動と貿易が富への最善の道だというメッセージを送っている。
アメリカ政府も同じ点を主張しており、制限のない自由貿易と「平等な競争条件」によって誰にとっても有利な状況が生まれると言い続けている。この点と組み合わせて主張されるが、自由化とグローバル化は民主主義を意味するという魔法の公式である。
もう何十年も前から、アメリカは世界全体に、そして自分自身に、自由放任(とくに民営化と規制緩和)が民主主義を生み出すと言い続けてきた。まるで、機械的な万能の公式が世界のどこにでも通用し、宗教や文化、歴史の違い、経済開発と社会制度の発展段階の違いをすべて無視できるとでもいうように。
アメリカが世界の目からみて、あらゆる面で制約のない状況を意味し、そのような状態が自由の意味なのであれば、文化の違う国の大人がそれは自由ではなく混乱に過ぎないと考えるのも、驚くに値しない。
(中略)
マスコミ、大量販売、大量流通の方法がアメリカによる大衆向け文化と価値観の輸出を支えているが、これは第二の波の工場時代の大衆文化に特有のものであって、カスタム化と非マス化という逆の動きに基づく第三の波の知識経済とは無縁のものである。
実際には、第三の波の発展に伴って多様性が生まれ、各国の将来に向けて、経済、社会、政治でそれぞれ違った道筋をたどることになろう。アメリカのようになるわけではない。そして、アメリカ自体も将来は現在と違った形になるだろう。
川への第一歩
アメリカが世界に送っているほんとうのメッセ-ジ、政治的なスローガンや広告の言葉より重要なメッセージは、「変化の教え」である。
(中略)
変化の教えは既存の制度と秩序によってとくに危険である。もともと右翼的でも左翼的でもないし、民主主義的でも独裁主義的でもないからだ。この教えが意味するのは、どの社会も、どの生活様式も、どのような信念すらも、本来一時的なものにすぎないということである。(以下略)
いまでは多数の国が、工業に基づく富の体制と文明から知識に基づく富の体制の文明へと移行しはじめているが、新たな富の体制にはそれに対応する生活様式が不可欠であることを認識していない。アメリカはこの移行に伴う全面的な変化の岐路にある。そのアメリカにとって、もっとも重要な輸出品は変化なのだ。
この点から、現在と過去の同盟国すら世界のなかでのアメリカの役割に不安を感じるようになった理由が説明できる。同盟国も大きく変化しており、たとえば欧州連合が拡大する一方で、一部の加盟国が欧州憲法の批准を否定したことにその点が示されているが、変化のペースはもっと遅いし、革命的でもない。どの国も自分たちの未来を築くために苦闘しているのだが、そのときアメリカがはるかに先を行き、未知の領域へと疾走して、荒れ狂う航跡に他の文化や他の国を引き寄せているのである。
だが、ほんとうに万物が流転し、すべてのものが一時的なのであれば、アメリカの力も一時的である。

第32章 内部崩壊
世界中の多数の人たちがアメリカの世界支配への懸念を強め、往々にして怒りを募らせるが、国内の制度が危機にあるのであれば、超大国であろうがなかろうが、対外的な力をいつまで持続できるのかは疑問である。(以下略)

孤独という伝染病
さらにいうなら、社会を支える安定した基盤であるはずの核家族制度が、これほどの混乱状態にあるのはなぜなのか。~アメリカで孤独という病が蔓延しているのも不思議ではない。~核家族の危機は、はるかに大きな危機の一部なのである。

幼稚園の後に入る工場
5千万人のアメリカの子供が、急速に変化しているものの、21世紀の必要にはほとんど適応していないばらばらの家族で育てられ、やはり崩壊状態にある教育制度で教育を受けている。(中略)こうして、破綻した家族制度から破綻した教育制度に子どもたちが送り出されているように、破綻した教育制度から別の破綻した制度に若者が送り出されている。

創造的会計
(略)
集中治療
(略)
素晴らしき引退生活
アメリカの勤労者は長年にわたって機能不全の家族、学校、病院で苦労を重ね、腐敗した金融機関に身ぐるみはがされて苦痛を味わった後、ついに引退の時期になると、これからが「黄金の年齢」だと楽しみにする。ようやく長年の念願だった悠々自適の生活を送ることになり、郵便受けを開けて年金の小切手が入った封書を受け取るのが楽しみになる。
ところがところが、アメリカ人は若者も老人ももうひとつの制度の危機に直面している。年金制度の危機である。(以下略)

シュールな政治
超大国アメリカにみられる制度の崩壊の例には、情報機関と対情報機関がクリントン政権とブッシュ政権のホワイトハウスとともに、さまざまな早期警戒情報を得ながら、9・11の惨事を防げなかった点、イラクの大量破壊兵器の脅威について正しい評価を下せなかった点もあげられる。(以下略)

全体的な破綻
(略)

破綻の伝染病
(略)

スターのストライキ
(略)

第33章 ボルトの腐食
いま勃興している世界はまだ、朽ち果てようとしている世界の残骸のなかに半分埋れている。・・・そして、古い制度のうちどれが・・・残骸のなかから頭をもたげてくるのか、どれが残骸のなかで死に絶えることになるのかは、誰も分からない。
アレクシ・ド・トクビル
~FBIの危機の根源は他の制度の危機の場合と同様に、富の基礎的条件の深部にある要因への社会の対応が根本的に変化していることにある。

FBI時間
(略)

世界空間
だが時間は、基礎的条件の深部の要因のうちのひとつでしかなく、いまの制度が依存している要因は他にもある。時間との関係で不均衡が拡大しているように、空間との関係でも不均衡が拡大している。
いまでは企業は、製造をひとつの国で行い、経理と事務を別の国で行い、ソフトウェアをまた別の国で開発し、顧客サービス用のコールセンターを違う国に設け、世界各国に営業所を展開し、節税のためにカリブ海の島で金融活動を行い、それでも名目上は「アメリカ企業」を自称していたりする。ソニーのように、株式の50%を外国人が保有していても、「日本企業」という場合がある。非政府組織の場合にも、グリーンピースは世界40ヵ国で、オックスファムは世界70ヵ国で活動している。
 民間セクターの企業やNGOはともにグローバル化しているのに対して、公共セクターの組織の大部分は国か地方の範囲内でしか活動していない。
 要するに、高速の通信と輸送によって世界中が結ばれているために、財やサービス、人、考え方、犯罪、病気、環境汚染、テロがすべて国境を越えて広まっている。それによって国家主権という伝統的な見方が侵食され、地方や国の目的だけを追求するように設計された公共セクターの制度が出し抜かれ、追い越されている。
 基礎的条件の深部にある空間に関するこうした変化によって、時間要因による混乱が増幅している。グローバル化以前のゆっくりした活動のために設計された制度の多くが、与えられた任務をうまく果たせなくなっているのも、不思議だとはいえない。

死知識の重荷
 今後予想される制度の内部崩壊をさらに加速する要因として、基礎的条件の深部にあるもうひとつの要因、知識に関する変化があげられる。(中略)
 それ以上に問題なのは、公共セクターでも民間セクターでも、官僚機構が知識とその構成要素をばらばらに分解し、「煙突」のような小さな分野に分けて蓄積し、処理していることである。時間の経過とともに専門分野がさらに細分化されて、煙突の数が増えていき、超えられない壁が増えていく。その結果、人工的な専門分野の壁を超える知識を必要とする新しい問題、急速に変化する問題への対応が極端にむずかしくなっている。
 それだけではなく、それぞれの煙突を守っている幹部は、データや情報、知識を管理することで自分の力を強化できるので、データや情報、知識を他の分野の人と共有する動機をもたない。(中略)
 それぞれの変化にはそれぞれの影響がある。それぞれの変化によって、制度が内部崩壊する国が増えていき、世界の水準でも制度の内部崩壊が起こるだろう。だが、基礎的条件の深部にある三つの要因、時間、空間、知識の変化の組み合わせによってこそ、見慣れた制度が転覆し、明日の不思議な新しい経済・社会環境にわれわれが放り出される可能性が高いとみられる。
 コンプレクソラマ(複雑祭)にようこそ。
 まるでテーマパークのような名前だと思えるとすれば、それは明日の世界がスリルと驚きに満ちていて、20世紀半ばに育ったものにとっては非現実的だと思えるからである。

第34章 コンプレクソラマ
 スポーツがどれほど複雑になったかに気づいた人がいるだろうか。その昔、楽しみで行うスポーツはもちろん、プロ・スポーツすら、経済のなかでかなり単純な部分だった。
 いまではチームが増え、リーグが増え、ルールが複雑になり、チームとリーグの関係もはるかに複雑になった。さらにスポーツの世界は、ドラッグに関する法律、テレビ、政治、労働組合、性差別をめぐる対立から、都市計画や知的所有権にいたるさまざまな問題と絡み合うようになった。
 そして、産業としてのスポーツは他の産業、最新技術、観衆や視聴者と密接に関連するようになり、たえず変化する複雑な関係を作り上げるようになった。
(中略)
 人類の歴史にあらわれた三つの偉大な富の体制、つまり農業、工業、知識に基づく体制はそれぞれ、複雑さの程度に違いがある。現在は、経済と社会の複雑さが体制全体にわたって飛躍的に高まる歴史的な転換期にある。そしてこの点が、企業経営から政治まで、子育てから買い物まで、あらゆる点に影響を与えている。
(中略)
 社会的な優越感を扱った著書のあるジョゼフ・エプスタインによれば、優越感の基準が複雑になってきているという。このような多様性と相互依存関係の組み合わせによって、日常生活が究めて複雑になっているのである。

ビル・ゲイツが知っていること
 複雑さの一因は、企業が市場を拡大しようとして、ひとつの製品に多数の機能を組み入れ、諸費者に「余分な複雑さ」を強いていることにある。これは大量生産・大量販売の時代の名残である。
(中略)
 個人のレベルでの複雑さが、企業、経済、金融、社会のレベルでははるかに増幅される。アメリカでは、こういう点を十分に心得ているはずのビル・ゲイツが、「天文学的に高まる複雑さ」について論じている。(中略)
 ようこそコンプレクソラマへ。これが新しい現実なのだ。
(中略)
 複雑さが急激に増加していることを示すものとしては、多数の分野で下位の専門分野が増え、それをさらに細分化した下位の下位の専門分野が増えていることもあげられる。
 半世紀前、知識経済への移行がはじまる直前には、医療は十前後の専門分野に分かれていた。いまでは医療専門家は二百二十を超える分野に分かれていると、カイザー・パーマネンテのデビッド・ローレンス博士は語る。1970年代には医療専門家は年に百前後の臨床試験結果について知っておく必要があった。いまではこれが年に一万になっている。

一万二千二百三の問題
 アメリカ国外に目を移すと、ペースは遅いが、やはり複雑化への動きが起こっている。EUの研究開発政策部門は、「社会が複雑さを増している」と指摘し、「この複雑さを管理する能力を企業がどこまでもっているのかが今後、ヨーロッパの技術革新の能力を決める」と論じた。
(中略)
 十年前に、ブリュッセルの国際団体連合が全二巻の『世界の問題と人類の可能性の百科事典』を刊行した。この野心的な一覧には一万二千二百三もの「世界の問題」が掲げられており、それぞれの項目で「もっと一般的な問題、具体的な問題、関連する問題、悪化させるか悪化させた問題、緩和するか緩和した問題」を相互に参照している。索引には五万三千八百二十五もの項目があり、四千六百五十項目の参考文献が紹介されている。だがこれは十年前の話だ。
(中略)
基礎的条件の深部にある要因が変化して、新しい革命的な富の体制とそれに対応する生活様式が形成されているのであり、この体制と様式はどちらも、経済と社会の未曾有の複雑さに基づいているのである。
 変化の加速、非同時化、グローバル化の収斂と、津波のような新知識とによって、工業時代の制度は圧倒されており、内部崩壊が近づいているのである。
だが、ありがたいことに、脱出への道がある。

第35章 セプルベダの解決法
 ロサンゼルスは高速道路網で世界的に有名だが、そのひとつ、405号線は数珠つなぎの渋滞で悪名が高く、混雑があまりにひどいので、平行して走るセプルベダ通りに多数の車がはみだしてくる。
 このセプルベダ通りに、何とも変わった商売がある。ごく普通の洗車場と、見慣れたガソリン・スタンドの光景があるが、料金を支払おうとすると、驚くことになる。何と洗車場と書店を組み合わせてあり、世界でもここにしかないと思えるはずだ。そして、以下にみていくように、このような変わった組み合わせを考える精神こそが、日常生活を支えている制度の全体的な崩壊を克服するために、さらには崩壊を防ぐために、必要なのである。

アメリカの女性全員を雇う(略)

ごまかしの改革(略)

立場の変化(略)

カメラと警官(略)

新しい制度の創設(略)

イノベーションを生むイノベーション
 ムハマド・ユヌスが世界でもとりわけ貧しい人たち、それも、小さな事業をはじめるために30ドルから50ドルの資金を必要としている農村の個人事業主に貸し出す銀行を設立したとき、常識から抜け出す創造力が必要だった。通常の銀行なら、個々まで小口の貸し出しでは採算がとれないし、借り手の側には担保も信用実績もない。
 1976年、バングラディッシュの経済学者のユヌスはグラミン銀行を設立した。
借り手には担保を求めるのではなく、地域で数人のグループを作って全員で返済を保証するよう求めた。このグループは借り手の小さな事業の成功を願うようになり、返済が遅れれば社会的圧力をかけるか、手助けすることができる。借入が完済されると、今度はグループの別の人が資金を借りられる場合もある。
 (中略)
 現在では、この少額融資が世界全体でかなりの産業になっている。成功の秘訣は二つある。(以下略)

シンクタンクの発明
 以上にあげたのは、社会組織に関して創造力を発揮し、変革のモデルが作られた例のごく一部である。これらがすべて、計画通りに成果をあげるとはかぎらないが、それでも重要なのは、工業時代の多数の制度が内部崩壊に向かっているまさにそのときに、社会組織を発明する動きがあることを示しているからである。(以下略)

 洗車場が書店を兼ねることができるのであれば、制度の内部崩壊を防ぐための方法は、社会の創造力が尽きないかぎり、無限にある。創造力を解き放つべき時期がきている。

第36章 結論 - 退廃の後
 物質面ではどのような基準でみても、いまのアメリカ人のほとんどは、たとえば「ニュー・エコノミー」がはじまった1950年代の祖父母とくらべて、生活がはるかに良くなっている。(中略)
 この疑問を解くカギは、「物質」という言葉にある。「無形」ではないものが「物質」なのだ。したがって、金銭経済と非金銭経済がともに、肉体労働による物質的な富の創出から知識に基づく無形の富の創出へと移行しているために、別の面でも歴史的な変化が起こっているのである。価値観の復興が中心的なテーマになっているのだ。

価値観をめぐる戦争(略)

究極の究極(略)

退廃に抗して(略)

大物に混じって(略)

新しいモデルの発明
 社会変革を目指す人が、民主主義や礼儀、非暴力主義を大切にしているとはかぎらない。宗教的な狂信派や政治的な過激派なぢも社会起業家として組織を作ることができる。テロリスト組織がかたわらで学校や病院を運営し、資金集めの便宜をはかっている場合もある。そしてもちろん、人間の行動がすべてそうであるように、素晴らしい意図をもった社会起業活動でも、予想外の悪影響を生み出すことがある。(以下略)

悪魔の工場(略)

カッサンドラの後
 本書ではここまで、知識に基づく新しい富の体制と、それを一部とする新しい文明の勃興を論じてきた。経済と文明の変化の基盤になっている基礎的条件の深部について論じてきた。いまの生活と明日の世界で、時間、空間、知識という要因がどのような役割を果たすのかを扱ってきた。工業時代の経済学が陳腐化し、真実と自然科学への脅威が迫っていることを論じた。本書で扱ってきたのは富だけではない。富がそれを取り巻く文明にどのように適合し、文明をどのように変えてきたのかである。
 これらの動きを総合すると、世界のなかの富の役割と性格について、根本から見直す必要があることが分かる。その点から、以下の三つの問いを否応無しに直面することになる。

 いまの形の資本主義は、革命的な富への移行のなかで生き残れるのだろうか。
 国連の決議などではなく実際に、世界の貧困を根絶できるのだろうか。
 最後に、知識経済の普及によって、世界の権力地図はどのように描き換えられるのだろうか。

以下ではこれらの刺激的な問題を扱う。

(第7部 終了)