日本美術の特徴を作品を通じて
見てみようシリーズ
第五弾は、やまと絵の系譜
『装飾経』です
平安時代の貴族はオフィシャルには密教を、日常的には法華経を信仰していた。法華経には、仏像、仏画をつくり、写経が功徳になると説かれている。法華経は女人成仏を説き、女性の信仰を集め、法華経美術に繊細優美の趣を与えた。
写経を美しく飾る事はさらに功徳があるとされ、競うように華麗で優美な『装飾経』が制作された。
平家納経 1164年 国宝
平家一門がその繁栄を祈願し、厳島神社に奉納された。法華経の登場人物を女房姿であらわし、女神である厳島の神を荘厳し平清盛の海上交易の発展を祈願している。
1602年、本阿弥光悦は平家納経の修理を依頼され、当時無名の俵屋宗達を採用した。この経験が『琳派』誕生の契機になった。
久能寺経 1141年 国宝
鳥羽上皇の出家の折に制作。静岡市の久能山にある久能寺(現在は鉄舟寺)に伝来した。皇后待賢門院を中心にプロデュースされた。
慈光寺経 1206年 国宝
太政大臣の急逝を悼んだ後鳥羽上皇が、中宮宜秋門院を中心にプロデュースして制作された。
埼玉県比企郡にある天台宗の寺院、慈光寺に伝来した。
岡倉天心は、「奈良朝は理想的なる、平安朝は感情的なる、足利時代は自覚的なる、これをその形に現れると壮麗、優美、高淡」と語っているが、『装飾経』は『源氏物語絵巻』と共に、女性を対象とする、あるいは女性がプロデュースした美術で、”優美“の代表であり、『ジェンダー』を考える作品だと思う。