古今東西のアートのお話をしよう

日本美術・西洋美術・映画・文学などについて書いています。

おいしいごはんが食べられますように

2022-08-31 22:13:51 | 日記風&ささやかな思索・批評カテゴリー



令和四年上半期の芥川賞受賞作「おいしいごはんが食べられますように」高瀬隼子(1988〜)

高瀬隼子(たかせじゅんこ)

文学少女的な雰囲気があって「芦川」は他人から見られている自身の片割れか…


埼玉のメーカーの支店で働く二人の女、一人の男の三角関係がプロットの主軸。

仕事ができない女で、いつもほぼ定時で帰るのに、何故か会社から許されている、可愛らしく料理上手な「芦川」、「芦川」の後輩で彼女の仕事の後始末をしている「押尾」、「二谷」と寸前で止める。「芦川」とできている、食に興味がない「二谷」。

物語は、押尾と二谷が一人称と三人称で語る芦川の行動を語りながら進み。次第に支店全体を巻き込んでいく。


女性の多い職場でありがちな、橋田壽賀子のドラマのような進行を、一人称と三人称の語り口で複雑化、ミスティフィケートしているが…


閉鎖された空間の人間関係を描く小説ですが、「コンビニ人間」のような現代的で諧謔的な哲学性を持っておらず、通俗的テレビドラマの域を出ない。

★★☆☆☆


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日本美術をひもとく 皇室、美の玉手箱

2022-08-10 18:41:47 | 芸術作品鑑賞・博物館・講座・音楽会等カテゴリー
従来、宮内庁管理の美術品は、慣習的に文化財保護法指定の枠外にあり、国宝などの文化財にはならなかった。

「(宮内庁管理の美術品も)国民にその価値をわかり易く示すべき」との判断で、2021年に三の丸尚蔵館(宮内庁)所蔵の美術品5点が国宝に指定されました。

その中には、人類的名品である若冲の「動植綵絵」全30幅もあります。

今回の展覧会は国宝5点(動植綵絵10幅:後期)が出品されます。


(会場は撮影禁止のため、写真はすべてネットより借用しました。)


展覧会の構成は、

序章 美の玉手箱を開けましょう
1章 文字からはじまる日本の美
2章 人と物語の共演
3章 生き物わくわく
4章 風景に心を寄せる


序章 美の玉手箱を開けましょう

菊蒔絵螺鈿棚 図案 六角紫水
蒔絵 川之邊一朝ほか 金具 海野勝珉 明治36年


1章 文字からはじまる日本の美

絵因果経 奈良時代 8世紀
国宝


恩命帖 藤原佐理 
平安時代 982年

藤原佐理(すけまさ)は、平安時代中期の公卿・能筆家。三跡の一人で草書で有名。
何を書いているのか解りませんが、崩し文字と濃淡の階調がアート。

2章 人と物語の共演

蒙古襲来絵詞 鎌倉時代 13世紀
国宝

肥後の御家人 竹崎季長(たけさきすえなが)が弘安の役(1281年)での自分の活躍を描かせた。馬に乗って、突撃しているのが竹崎。


春日権現験記絵(かすがごんげんげんき) 巻四、五 高階隆兼(たかしなたかかね) 鎌倉時代 1909年頃
国宝

左大臣 西園寺公衡が発願し、高階隆兼が描き、春日大社に奉納。
絢爛たる武者の甲冑姿が精緻に描かれている。



官女置物 旭玉山 明治34年(1901年)

旭玉山(あさひぎょくざん)は、象牙彫刻家。精緻な十二単衣の超絶技巧。


3章 生き物わくわく

綿花猫図 長沢芦雪 江戸時代 18世紀

犬のような猫の顔が印象的。何という種類なんだろう… 


そして、
本日のメインイベント!!

誰もが知るが、あまり見たことがない「唐獅子図屏風」

奥の横山大観の標準的大きさの屏風と比べると、その巨大さがよくわかる。



右隻 狩野永徳 桃山時代 16世紀
223.6×451.8cm
左隻 狩野常信 江戸時代 17世紀
224.0×453.5cm
国宝

破格の大きさは、ダ・ヴィンチの最後の晩餐の460×880cmは別格として、ボッティチェッリのプリマベーラの203×314cmより、一隻が一回り大きい。

ボッティチェッリ プリマベーラ



隈取りのような力強い墨の線
カールした獅子のたてがみ

金雲の中を進む二頭の獅子は何をあらわすのだろう…


この迫力満点の唐獅子図屏風は、明治期に毛利家より皇室に献上されたが、もとは秀吉の毛利攻めの和睦(本能寺の変)の証として、秀吉の陣中屏風だったものを、毛利輝元に贈ったとされるが証拠はない。

巨大なもの、派手なものが好きだった秀吉らしい持物で、大阪城、聚楽第で秀吉の威光を表す障壁画だったかもしれない… 

この前に秀吉が座ったとしたら、はたして威光を感じただろうか…



七宝四季花鳥図花瓶
並河靖之 明治32年(1899年)

「有線七宝とは、図柄の輪郭線に沿って細い金属線をかたどり、その中に釉薬を挿し焼成するやり方で、金属線が繊細な図柄を引き立たせる。」

実物を観ると、桜の花びら一枚一枚、紅葉の葉の一枚一枚に有線を施した、信じられない神技。



「唐獅子図屏風」は、8/28まで、「動植綵絵」は、8/30からです。


やっぱり、2回行くしかないか…

お勧めします



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茶の湯の陶磁器

2022-08-02 01:55:42 | 芸術作品鑑賞・博物館・講座・音楽会等カテゴリー
京菓子は、
見て、聞いて、味わう」そうです

聞いて? は、
「菓銘(かめい)」ですね

茶席で主菓子を出すときに、
亭主が菓銘をのべます

唐衣(からころも)

「からころも きつつなれにし つましあれば はるばるきぬる たびをしぞおもふ」在原業平 伊勢物語


句の頭をつなげると、か、き、つ、ば、た 燕子花の花を表現しています 五月の茶席


宮廷から茶の湯の主菓子に用いられるようになって、陶磁器の「銘」に倣って、「菓銘」ができたのだろう…




リニューアルオープン第二弾の三井記念美術館は、

「茶の湯の陶磁器 
“景色を愛でる”」

陶磁器の「銘」にスポットをあて、三井家につたわる名品を展示

展示室は撮影禁止

茶の湯でつかわれる名物の茶器には、茶人がつけた「銘」があります
形や色、模様にちなんだもの、所有者にちなんだものもありますが、「銘」を決めるために重要なのは「景色(けしき)」だそうです

斗々屋茶碗 銘かすみ
朝鮮時代 16世紀

琵琶色の釉薬に、青く変色した景色はまさしく春のかすみを思わせます

大井戸茶碗 銘須弥(別銘十文字)
伝古田織部所持 朝鮮時代 16世紀

言い伝えによると、織部が一回り大きかった茶碗を十文字に割り、小振りに金継ぎしたそうです
織部らしい ひょうげものぶり?

十文字のツギハギと変色した赤、青の釉薬が大胆かつ美しい

古三島茶碗 ニ徳三島 
伝千利休所持 朝鮮時代 16世紀 

ニ徳とは所持していた袋師の名前
その前に千利休が持っていたと伝わる
実に上品で侘びた茶碗ですね

粉引茶碗 三好粉引 大名物
朝鮮時代 16世紀 重要文化財

高麗茶碗を茶器に見立てたもの
くさび形の模様がアクセントになっている 
三好粉引とは、戦国武将の三好長慶が所持していた粉引(粉を引いたような肌合い)茶碗の意
三好長慶から秀吉、金森宗和に伝来

シンプルで力強いフォルム

志野茶碗 銘卯花墻(うのはながき)
桃山時代 16〜17世紀 国宝

銘卯花墻は、大名茶人片桐貞昌(1605〜1673)の箱書きの和歌による

「山里の卯花墻の別つ路 雪踏み分けし 心地こそすれ」 

山里に咲く白い卯の花の垣根
雪を踏み分けて歩いているようだ


片桐貞昌は、片桐石州の名でしられる石州流の開祖で大和小泉藩の二代藩主

何度見てもウットリする茶碗

黒楽茶碗 銘俊寛
桃山時代 16世紀 長次郎

俊寛は、平安後期の真言宗の僧で後白河法皇に仕えていた
平氏打倒の密議、「鹿ヶ谷の陰謀」の首謀者として薩摩の鬼界ヶ島に他の二人と共に配流された
後に二人は赦され都に戻るが、俊寛のみとどめられ自害し果てる

千利休が長次郎に黒楽茶碗を三椀造らせ、利休はそのうち二椀を返し、一碗だけを手元においた 
その一碗を「俊寛」と名付けた

志野重餅香合
名前の通り美味しそうです

さて、今回私が一番気に入ったのは
茶器ではなく、その添状でした

瀬戸二見手茶入 銘二見 中興名物
桃山〜江戸時代 17世紀

二見は伊勢の二見ヶ浦の景色を見たらしい

この茶入の添状を書いたのが、松平不昧公で、その書状を掛け軸にした二見茶入添状 表装もいい

いままで書状をみて感動したことはありませんでしたが、一定のリズムをもって、流れるような文字の美しさに驚きました
写真が無いのが残念…

調べると、松平不昧(1751〜1818)は出雲松江藩七代藩主の大名茶人で、書道も定家流の名人だったようです

【参考】
松平不昧公の書状 茶道心得

三井家が蒐集した名物を堪能し、

「銘」の成り立ちを思う

味のある展覧会でした


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