見出し画像

古今東西のアートのお話をしよう

春のために

春を感じる日、あるいはみずみずしい感性に触れたときに思い出す詩があります。
はじめて薄暗い本屋でこの詩に出会ったとき、ひかりと移動する視線が作るイメージにくらっときました。
それ以来、大岡信の、特にこの詩を
愛唱しています。



春のために


砂浜にまどろむ春を掘りおこし
おまえはそれで髪を飾る おまえは笑う
波紋のように空に散る笑いの泡立ち
海は静かに草色の陽を温めている

おまえの手をぼくの手に
おまえのつぶてをぼくの空に ああ
今日の空の底をながれる花びらの影

ぼくらの腕に萌でる新芽
ぼくらの視野の中心に
しぶきをあげて回転する金の太陽
ぼくら 湖であり樹木であり
芝生の上の木漏れ日であり
木漏れ日のおどるおまえの髪の段丘である
ぼくら

新しい風のなかでドアが開かれ
緑の影とぼくらとを呼ぶ夥しい手
道は柔らかい地の肌の上になまなましく
泉の中でおまえの腕は輝いている
そしてぼくらの睫毛の下には陽を浴びて
静かに成熟しはじめる
海と果実


大岡信 「記憶と現在」より
名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「俳句・短歌・詩等関連カテゴリー 」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事