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古今東西のアートのお話をしよう

映画 “生きるーliving”




黒澤明の“生きる”をノーベル賞作家カズオ・イシグロが脚本を書きリメイクした、“生きるーliving”



1960年5歳で渡英したカズオ・イシグロが黒澤明の“生きる”を観たのは11歳だった
脚本は黒澤の“生きる”を東京からロンドンに移し替えてほぼ忠実に再現している

ノスタルジアか黒澤へのリスペクトか、“生きるーliving”も1950年代の設定とはいえ、スクリーンサイズを横が短いスタンダードサイズだが…


オリジナル“生きる”は、1952年10月公開
「サンフランシスコ平和条約」が同年4月に発効し、アメリカの占領統治が終わった
まさしく、アメリカの占領によって去勢されていた日本国の自治が回復した年だった

1952年のヒット曲を調べると、江利チエミの“テネシーワルツ”と美空ひばりの“リンゴ追分”
ベストセラーは、占領時代を描いた“ニッポン日記”マーク・ゲイン、“千羽鶴”川端康成
洋画では“風と共に去りぬ”がヒットし、青山にボーリング場がオープン、“鉄腕アトム”の連載が始まった

アメリカの占領下でアメリカ文化が日本を席巻してきたが、日本サブカルチャーの先駆“鉄腕アトム”の連載、“千羽鶴”のベストセラーなど、生活にある程度の余裕も生まれ、日本発の文化が享受され始めた時代


“生きる”あらすじは、『』はウェキペディア引用

『市役所で市民課長を務める渡辺勘治は、かつて持っていた仕事への熱情を忘れ去り、毎日書類の山を相手に黙々と判子を押すだけの無気力な日々を送っていた。市役所内部は縄張り意識で縛られ、住民の陳情は市役所や市議会の中でたらい回しにされるなど、形式主義がはびこっていた。』


市民課長 渡辺勘治(志村喬)

『ある日、渡辺は体調不良のため休暇を取り、医師の診察を受ける。医師から軽い胃潰瘍だと告げられた渡辺は、実際には胃癌にかかっていると悟り、余命いくばくもないと考える。不意に訪れた死への不安などから、これまでの自分の人生の意味を見失った渡辺は、市役所を無断欠勤し、これまで貯めた金をおろして夜の街をさまよう。』


医師から余命宣告を受ける


『そんな中、飲み屋で偶然知り合った小説家の案内でパチンコやダンスホール、ストリップショーなどを巡る。しかし、一時の放蕩も虚しさだけが残り、事情を知らない家族には白い目で見られるようになる。』


小説家(伊藤雄之助)

『その翌日、渡辺は市役所を辞めて玩具会社の工場内作業員に転職していようとしていた部下の小田切とよと偶然に行き合う。何度か食事をともにし、一緒に時間を過ごすうちに渡辺は若い彼女の奔放な生き方、その生命力に惹かれる。自分が胃癌であることを、とよに渡辺が伝えると、とよは自分が工場で作っている玩具を見せて「あなたも何か作ってみたら」といった。その言葉に心を動かされた渡辺は「まだできることがある」と気づき、次の日市役所に復帰する。』


小田切とよ(小田切みき)


『それから5か月が経ち、渡辺は死んだ。渡辺の通夜の席で、同僚たちが、役所に復帰したあとの渡辺の様子を語り始める。渡辺は復帰後、頭の固い役所の幹部らを相手に粘り強く働きかけ、ヤクザ者からの脅迫にも屈せず、ついに住民の要望だった公園を完成させ、雪の降る夜、完成した公園のブランコに揺られて息を引き取ったのだった。新公園の周辺に住む住民も焼香に訪れ、渡辺の遺影に泣いて感謝した。いたたまれなくなった助役など幹部たちが退出すると、市役所の同僚たちは実は常日頃から感じていた「お役所仕事」への疑問を吐き出し、口々に渡辺の功績を讃え、これまでの自分たちが行なってきたやり方の批判を始めた。』



『通夜の翌日。市役所では、通夜の席で渡辺を讃えていた同僚たちが新しい課長の下、相変わらずの「お役所仕事」を続けている。しかし、渡辺の創った新しい公園は、子供たちの笑い声で溢れていた。』


★★★★★


“生きるーliving”


山高帽をかぶり役所に通勤する
主人公



雪の夜、一人でブランコをこぐ
主人公




★★☆☆☆

黒澤明のオリジナルを観た人は、“生きるーliving”にかなりの違和感を感じるのではないか

志村喬の市民課長は、“事なかれ主義”に染まった、うらぶれた冴えない老公務員だが、“Living”は1953年のロンドンを舞台に、ビル・ナイが演じる老官僚のウィリアムズは、“事なかれ主義”でやる気はないが、山高帽をかぶり、三つ揃いの紳士然とした姿は、くたびれた志村喬とは対象的だ

“生きる”は、敗戦後アメリカに占領され“事なかれ主義”を強いられた日本の象徴である志村喬の市民課長
死を宣告されて初めて「生きる」ことの意義を見出した

一方のウィリアムズは、同じ公務員でも勝戦国イギリスのジェントルマンだ、“生きる”が描く敗戦、占領、解放の状況・環境とは対照的

同じ時代、同じ年代、同じ公務員でリメイクするのは最初から失敗が見えていたのでは…


この映画で、黒澤明監督の“生きる”が注目されて、オリジナルを鑑賞する人が増える事を期待します


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