労働審判 手続の第1回期日は,通常,2時間程度かかります。私がこれまで現実に経験した労働審判事件の第1回期日は,最短1時間20分~最長3時間30分かかっています。
最低2時間,できれば3時間30分程度の時間を取られても不都合が生じないよう,スケジュール調整しておくべきでしょう。
なお,第1回期日にかかる時間は,事案の複雑さの程度にもよりますが,同程度の事案であれば,申立書,答弁書において充実した主張反論がなされているケースの方が事実審理に要する時間が短くて済みますので,期日の所要時間が短くなる傾向にあります。
紛争の実情をよく知っている担当社員が第1回期日に出頭できない場合はどうすればよろしいでしょうか。
紛争の実情をよく知っている担当社員が,第1回期日には出頭できない場合であっても,第2回期日なら何とか出頭できそうだという場合は,その旨,答弁書に記載して事情を説明するなどして,労働審判 委員会と進行の調整をするべきでしょう。
当該社員が退職するなどして第2回期日にも出頭できないような場合は,今残っている社員でベストを尽くすほかありません。このような事態になっても,書面等の客観的な証拠だけで,会社の主張がほぼ認められるくらいにしておけば,大きな問題は生じません。他方,客観的な証拠がほとんどない場合は,本来よりも不利な調停内容になる可能性があります。
労働審判 期日では双方の主張を基礎付ける事実関係について質問されますので,問題となる事実関係について直接体験した人物が出頭する必要があります。問題となる事実を体験した本人ではなく,報告を受けただけの人物しか出頭できないと,伝聞での証言しかできないため証言の証拠価値が下がり,事実認定の上で会社に不利益となることがあります。
また,調停に応じるかどうかその場で判断できる立場の人物が同行することも望ましいところです。いったん会社に持ち帰って検討してからでないとその内容で調停をまとめるかどうか決められないというのでは,まとまる調停もまとまらず,長期間にわたり訴訟で戦い続ける事態を余儀なくされる可能性が高くなります。調停に応じるかどうか判断できる立場の者が同行できない場合は,労働審判期日中は電話に出られるようにしておき,調停に応じるかどうか電話で指示できるようにしておくなどの対応が必要となります。
労働審判の答弁書において申立人の主張を否認する場合,否認の理由を記載する必要がありますか。
民事訴訟では,答弁書その他の準備書面において,相手方の主張する事実を否認する場合には,その理由を記載しなければならないとされています(民訴規則79条3項)。
審理充実の観点から否認の理由を答弁書に記載すべき要請は労働審判 においても変わりませんので,労働審判の答弁書においても否認の理由を記載すべきでしょう。少なくとも,重要な事実の否認については,それなりの理由を記載すべきです。
労働審判の答弁書には「答弁を基礎付ける具体的な事実」(労働審判規則16条1項3号)の記載が求められていますが,この項目には具体的に何を書けばいいのですか。
労働審判 手続の当事者は,裁判所(労働審判委員会)に対し,主張書面だけでなく,自己の主張を基礎づける証拠の写しも提出するのが通常ですが,東京地裁の運用では,労働審判委員には,申立書,答弁書等の主張書面のみが事前に送付され,証拠の写しについては送付されない扱いとなっています。労働審判員は,他の担当事件のために裁判所に来た際などに,証拠を閲覧し,詳細な手控えを取ったりして対応しているようですが,自宅で証拠と照らし合わせながら主張書面を検討することはできません。また,労働審判官(裁判官)も,限られた時間の中で大量の事件を処理していますので,答弁書を読んだだけで言いたいことが明確に伝わるようにしておかないと,真意が伝わらない恐れがあります。答弁書作成に当たっては,答弁書が労働審判委員会を「説得」する手段であり,労働審判委員会に会社の主張を理解してもらえずに不当な結論が出てしまった場合は,労働審判委員会が悪いのではなく,労働審判委員会を説得できなかった自分たちに問題があったと受け止めるスタンスが重要となります。
労働審判委員会は,申立書,答弁書の記載内容から,事前に暫定的な心証を形成して第1回期日に臨んでいます。また,第1回期日は,時間が限られている上,緊張して言いたいことが思ったほど言えないリスクがあります。したがって,労働審判手続において相手方とされた使用者側としては,重要な証拠内容は答弁書に引用するなどして,答弁書の記載のみからでも,主張内容が明確に伝わるようにしておくべきことになります。
陳述書を答弁書と別途提出するのは当事者の自由ですが,重要ポイントについては,答弁書に盛り込んでおくことが必要となります。答弁書の記述で言いたいことが伝わるのであれば,答弁書と同じような内容の陳述書を別途提出する必要はありません。
労働審判の答弁書を作成する十分な時間が取れない場合は,どうすればいいでしょうか。
労働審判 の第1回期日は,原則として申立てから40日以内の日に指定されます(労働審判規則13条)。相手方(主に使用者側)としては,答弁書作成の準備をする時間が足りないから第1回期日を変更したい,あるいは,主張立証を第2回期日までさせて欲しいということになりがちですが,労働審判は第1回期日までが勝負であり,第1回期日の変更は原則として認められませんから,たとえ不十分であっても,第1回期日までに全力を尽くして準備していく必要があります。
不十分ななりに,ベストを尽くして下さい。ポイントさえしっかり押さえておけば,そう悪い結果にはならないものです。
労働審判期日では緊張して,言いたいことが言えなくなりそうです。どうすればいいでしょうか。
労働審判 期日に出頭する会社関係者は,労働審判に不慣れなことが多いため,労働審判期日では,緊張して事実を正確に伝えることができなくなりがちです。
言いたいことが言えないまま終わってしまうことがないようにするためには,事前に提出する答弁書に言いたいことをしっかり盛り込んでおいて,労働審判の期日に話さなければならないことをできるだけ減らしておくのが,最も効果的だと思います。
労働審判を申し立てられたので,弁護士に労働審判の代理を依頼しようと考えているのですが,まずは何をする必要がありますか。
弁護士は随分先までスケジュールが入りますから,申立書が会社に届いてからのんびりしていると,第1回期日の日時に別の予定が入ってしまいます。労働審判 を申し立てられて,弁護士に労働審判の代理を依頼しようとする場合,まずは弁護士に労働審判期日のスケジュールを確保してもらう必要があります。
複数の弁護士がいる法律事務所に労働審判の代理を依頼する場合で,所属弁護士の誰かが期日に出頭してもらえれば十分というのであれば,それほど急ぐ必要はないことかもしれませんが,特定の弁護士にぜひ同行して欲しいという場合は,まずは当該弁護士のスケジュールを確保してもらうよう努力すべきでしょう。
私の経験では,会社担当者が私の事務所に労働審判の相談に来た時期が第1回期日まで1週間を切った時期(答弁書提出期限経過後)だったため,即日,急いで作成した答弁書を提出せざるを得ず,第1回期日が指定された日時は私のスケジュールが既に埋まっていたため,第1回期日に私が出頭できなかったことがありました。このような事態が会社にとって望ましくないことは,言うまでもありません。