弁護士法人四谷麹町法律事務所のブログ

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割増部分と特定しない残業代込みの賃金

2012-02-28 | 日記
Q86 残業代(割増賃金)に関し,使用者と社員が合意することにより,割増部分を特定せずに,残業代込みで月給30万円とか,日当1万6000円などとすることはできますか?
 
 割増部分を特定せずに,残業代(割増賃金)込みで月給30万円とか,日当1万6000円などなどと約束して,社員を雇っている事例が散見されますが,このような賃金の定め方は,トラブルが多く,訴訟になったら負ける可能性が極めて高いやり方です。
 労働契約書,労働条件通知書,給与明細書などで残業代相当額が明示されていないと,通常の賃金にあたる部分と残業代にあたる部分を判別することができないため,残業代が全く支払われておらず,月給30万円,日当1万6000円全額が残業代算定の基礎となる賃金額であると認定されるのが通常です。

弁護士 藤田 進太郎

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トラブルの多い社員が定年退職後の再雇用を求めてくる。

2012-02-27 | 日記
Q22 トラブルの多い社員が定年退職後の再雇用を求めてくる。

 高年齢者雇用安定法9条1項は,65再未満の定年の定めをしている事業主に対し,その雇用する高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保するため,
① 定年の引上げ
② 継続雇用制度(現に雇用している高年齢者が希望するときは,当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度をいう。以下同じ。)の導入
③ 定年の定めの廃止
のいずれかの措置(高年齢者雇用確保措置)を講じなければならないとしています。
 そして同条第2項において,過半数組合又は過半数代表者との間の書面による協定により,②継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準を定めることができる旨規定されています。
※ 平成22年4月1日から平成25年3月31日までは,上記「65歳」を「64歳」と読み替えることになるため(附則4条1項),雇用確保措置が義務付けられているのは64歳までですが,65歳までの雇用確保について「努力」義務が課せられています(附則4条2項)。

 厚生労働省の「今後の高年齢者雇用に関する研究会」が取りまとめた「今後の高年齢者雇用に関する研究会報告書」によると,平成22(2010)年において,雇用確保措置を導入している企業の割合は,全企業の96.6%であり,そのうち,
① 定年の引上げの措置を講じた企業の割合 → 13.9%
② 継続雇用制度を導入した企業の割合    → 83.3%
③ 定年の定めを廃止した企業の割合      → 2.8%
ですから,トラブルの多い社員が定年退職後の再雇用を求めてくることに対する対策としては,通常は,②継続雇用制度を採用した上で,「継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準」を定めるか,再雇用自体は認めた上で,担当業務内容,賃金額等の労働条件により不都合が生じないようにすることが考えられます。

 まずは,継続雇用の基準についてですが,継続雇用の基準は具体的で客観的なものである必要があり,トラブルが多い社員は継続雇用の対象とはならないといった抽象的な基準を定めたのでは,公共職業安定所において,必要な報告徴収が行われるとともに,助言・指導,勧告の対象となる可能性があります。
 健康状態,出勤率,懲戒処分歴の有無,勤務成績等の客観的基準を定めるべきでしょう。
 「JILPT「高齢者の雇用・採用に関する調査」(2008)」によると,実際の継続雇用制度の基準の内容としては,以下のようなものが多くなっています。
① 健康上支障がないこと(91.1%)
② 働く意思・意欲があること(90.2%)
③ 出勤率,勤務態度(66.5%)
④ 会社が提示する職務内容に合意できること(53.2%)
⑤ 一定の業績評価(50.4%)

 常時10人以上の労働者を使用する使用者が,継続雇用制度の対象者に係る基準を労使協定で定めた場合には,就業規則の絶対的必要記載事項である「退職に関する事項」に該当することとなるため,労働基準法第89条に定めるところにより,労使協定により基準を策定した旨を就業規則に定め,就業規則の変更を管轄の労働基準監督署に届け出る必要があります。
 高年齢者雇用安定法9条には私法的効力がない(民事訴訟で継続雇用を請求する根拠にならない)と一般に考えられていますが,就業規則に継続雇用の条件が定められていればそれが労働契約の内容となり,私法上の効力が生じることになります。
 したがって,就業規則に規定された継続雇用の条件が満たされている場合は,高年齢者は,就業規則に基づき,継続雇用を請求できることになります。

 就業規則に定められた継続雇用の要件を満たしている定年退職者の継続雇用を拒否した場合,会社は損害賠償義務を負うことになります。
 裁判例の中には,解雇権濫用法理の類推などにより,労働契約の成立自体が認められるとするものもあります。

 高年齢者雇用確保措置が義務付けられた主な趣旨が年金支給開始年齢引き上げに合わせた雇用対策であることからすれば,原則どおり,希望者全員を継続雇用するという選択肢もあり得ます。
 統計上も,継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準制度により離職した者が定年到達者全体に占める割合は,わずか2.0%に過ぎません(「今後の高年齢者雇用に関する研究会報告書」)。
 平成24年1月6日に労働政策審議会が建議した「今後の高年齢者雇用対策について」は,「雇用と年金を確実に接続させるため,現行の継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準は廃止することが適当である。」とし,この建議に基づき,厚生労働大臣が2月16日に同審議会に諮問した「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の一部を改正する法律案要綱」は「事業主は、事業所に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準を定め、当該基準に基づく制度を導入したときは、継続雇用制度を導入したものとみなすものとしている規定を削除すること。」と規定し,労働政策審議会答申で「厚生労働省案は、おおむね妥当と認める。」とし,「答申を踏まえ、厚生労働省では開会中の通常国会に改正法案を提出する予定です。」とされていることから,「継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準」によって継続雇用する高年齢者を選別することができなくなる可能性があります。
 トラブルが多い点については,トラブルが生じにくい業務を担当させる(接客やチームワークが必要な仕事から外す等。)ことや,賃金の額を低く抑えること等により対処することも考えられます。

 高年齢者雇用安定法上,再雇用後の賃金等の労働条件については特別の定めがなく,年金支給開始年齢の65歳への引上げに伴う安定した雇用機会の確保という同法の目的,最低賃金法等の強行法規,公序良俗に反しない限り,就業規則,個別労働契約等において自由に定めることができます。
 もっとも,就業規則で再雇用後の賃金等の労働条件を定めて周知させている場合,それが労働条件となりますから,再雇用後の労働条件を,就業規則に定められている労働条件に満たないものにすることはできません。
 また,高年齢者雇用確保措置の主な趣旨が,年金支給開始年齢引上げに合わせた雇用対策,年金支給開始年齢である65歳までの安定した雇用機会の確保である以上,継続雇用後の賃金額に在職老齢年金,高年齢者雇用継続給付等の公的給付を加算した手取額の合計額が,従来であれば高年齢者がもらえたはずの年金額と同額以上になるように配慮すべきだと思います。

 高年齢者雇用安定法が求めているのは,継続雇用制度の導入であって,事業主に定年退職者の希望に合致した労働条件での雇用を義務付けるものではなく,事業主の合理的な裁量の範囲の条件を提示していれば,労働者と事業主との間で労働条件等についての合意が得られず,結果的に労働者が継続雇用されることを拒否したとしても,改正高年齢者雇用安定法違反となるものではありません(ただし,平成25年3月31日までは,その雇用する高年齢者等が定年,継続雇用制度終了による退職等により離職する場合であって,当該高年齢者等が再就職を希望するときは,事業主は,再就職援助の措置を講ずるよう努めることとされているため,当該高年齢者等が再就職を希望するときは,事業主は,求人の開拓など再就職の援助を行う必要があります。)。
 したがって,トラブルの多い社員との間で,再雇用後の労働条件について折り合いがつかず,結果として再雇用に至らなかったとしても,それが直ちに問題となるわけではありません。

 なお,組合員差別により再雇用の期待を侵害したと認定された事案において,代表取締役個人が会社法429条1項の責任を負うとされた裁判例が存在しますので,注意が必要です。

弁護士 藤田 進太郎

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高年齢者雇用確保措置(高年齢者雇用安定法9条1項)の選択

2012-02-27 | 日記
Q167 高年齢者雇用確保措置(高年齢者雇用安定法9条1項)としては,どれがお勧めですか?

 当面は,継続雇用制度(高年齢者雇用安定法9条1項2号)を採用し,高年齢者に係る基準制度(高年齢者雇用安定法9条2項)を設けるのが無理がないのではないかと考えています。

 ただ,老齢厚生年金の定額部分の支給開始年齢は平成25(2013)年度に65歳への引上げが完了し,同年度に老齢厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢が61歳に引き上げられ,平成37(2025)年度までに65歳へ段階的に引き上げられることとなっていること(女性は5年遅れ)もありますので,継続雇用されない高年齢者が年金も支給されないという事態を防止する(「雇用と年金の接続」)必要性が高くなっています。
 平成24年1月6日に労働政策審議会が建議した「今後の高年齢者雇用対策について」は,「雇用と年金を確実に接続させるため,現行の継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準は廃止することが適当である。」とし,この建議に基づき,厚生労働大臣が2月16日に同審議会に諮問した「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の一部を改正する法律案要綱」は「事業主は、事業所に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準を定め、当該基準に基づく制度を導入したときは、継続雇用制度を導入したものとみなすものとしている規定を削除すること。」と規定し,労働政策審議会答申で「厚生労働省案は、おおむね妥当と認める。」とし,「答申を踏まえ、厚生労働省では開会中の通常国会に改正法案を提出する予定です。」とされていることから,「継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準」によって継続雇用する高年齢者を選別することができなくなる可能性があります。
 また,平成37(2025)年度までの間に,高年齢者雇用安定法8条が改正されて定年を65歳以上とすることを義務付けられることも十分考えられます。
 したがって,将来の法改正を見据えて,今のうちから60歳以前の社員の賃金制度を見直すなどして,定年を65歳としても支障が生じないよう備えておくべきと考えています。

弁護士 藤田 進太郎

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高額の基本給・手当・賞与の支給,昇給と残業代

2012-02-25 | 日記
Q85 当社は,同業他社よりも高額の基本給・手当・賞与を社員に支給し,毎年,昇給もさせていますので,社員の残業に対しては,十分に報いているはずです。それでも残業代を別途支払う必要はあるのですか?

 それなりに高額の基本給・手当・賞与を社員に支給し,昇給までさせているにもかかわらず,残業代(割増賃金)は全く支給しない会社が散見されます。
 社員の努力に対しては,基本給・手当・賞与の金額で応えているのだから,それで十分と,経営者が考えているからだと思われます。
 しかし,高額の基本給・手当・賞与の支給は残業代の支払の代わりにはなりませんし,毎月の基本給等の金額が上がれば残業代の単価が上がることになり,かえって,高額の残業代の請求を受けるリスクが高くなります。
 高額の基本給・手当・賞与は,社員にとって望ましいことなのかもしれませんが,使用者としては,まずは法律を守る必要があります。
 労基法37条の定める以上の割合による残業代の支払をした上で,さらに高額の賞与の支給を行うのであればいいのですが,法律を守らずに,残業代の支払を怠った状態で,高額の賞与等を支給するのは本末転倒です。
 支払う順番を間違えたばかりに,高額の残業代請求を受けることのないよう,十分に注意して下さい。

弁護士 藤田 進太郎

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ビクターサービスエンジニアリング事件最高裁第三小法廷平成24年02月21日判決

2012-02-22 | 日記
ビクターサービスエンジニアリング事件最高裁第三小法廷平成24年02月21日判決が出ました。
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=82015&hanreiKbn=02
東京高裁に差し戻しです。

出張修理業務を行う個人代行店は独立の事業者としての実態を備えていると認めるべき特段の事情のない限り被上告人との関係において労働組合法上の労働者に当たると解すべきであることを前提とした上で,
① 参加人らに加入する個人代行店の修理業務の内容,当該個人代行店が独立の事業者としての実態を備えていると認めるべき特段の事情があるか否か
② 仮に当該個人代行店が労働組合法上の労働者に当たると解される場合において被上告人が本件要求事項に係る団体交渉の申入れに応じなかったことが不当労働行為に当たるか否か
等の点について更に審理を尽くすことになります。


弁護士 藤田 進太郎


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労働審判の平均審理日数

2012-02-17 | 日記
Q103 労働審判の平均審理日数はどれくらいですか?

 労働審判申立てから終局までの審理日数は,全国平均で73.1日です(平成23年12月末現在)。
 平均して3か月もかかっていないことが分かります。

弁護士 藤田 進太郎

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年俸制社員の残業代

2012-02-13 | 日記
Q84 年俸制社員については,残業代を支払わなくてもいいのですよね?

 労基法上,年俸制社員について,残業代(割増賃金)の支払義務を免除する規定はありません。
 使用者が,社員との間で,週40時間,1日8時間を超えて労働した場合であっても残業代を支払わない旨の合意をしていたとしても,労基法の強行的直律的効力(労基法13条)により当該合意は無効となり,法定時間外労働時間に対応した労基法37条所定の残業代(割増賃金)の支払義務を負うことになることになりますので,労働契約又は就業規則で,年俸制社員については残業代を支払わない旨規定していたとしても,その支払義務を免れることはできません。
 したがって,年俸額を定めるに当たっては,年俸額のうち何円が残業代(割増賃金)で,何円が通常の賃金なのかを明確に分けて定めるべきと考えます。

弁護士 藤田 進太郎

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週40時間,1日8時間を超えて労働した場合でも残業代を支給しない合意の有効性

2012-02-13 | 日記
Q83 週40時間,1日8時間を超えて労働した場合でも残業代を支給しない合意は有効ですか?

 使用者が,社員との間で,週40時間,1日8時間を超えて労働した場合であっても残業代を支払わない旨の合意をしていたとしても,労基法の強行的直律的効力(労基法13条)により当該合意は無効となり,法定時間外労働時間に対応した労基法37条所定の残業代(割増賃金)の支払義務を負うことになります。
 したがって,週40時間,1日8時間を超えて労働した場合でも残業代を支給しないとすることはできず(口約束はもちろん,労働者本人のハンコを取っていてもダメです。),残業代を支払わない合意があるから支払わなくても大丈夫だと思って残業代を支払わないでいると,残業代を支払わないことにいったんは納得していた社員が,解雇されたことなどを契機に気が変わって残業代を請求してきたような場合には,使用者は未払となっていた残業代を支払わなければならないことになります。

弁護士 藤田 進太郎

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付加金(労基法114条)

2012-02-10 | 日記
Q82 付加金(労基法114条)とは,どういうものですか?

 使用者が,
① 解雇予告手当(労基法20条)
② 休業手当(労基法26条)
③ 残業代(割増賃金)(労基法37条)
④ 年次有給休暇取得時の賃金(労基法39条7項)
のいずれかの支払を怠り,労働者から訴訟を提起された場合に,裁判所はこれらの未払金に加え,これと同一額の付加金の支払を命じることができるとされています(労基法114条)。
 他方,基本給等の通常の賃金について付加金の支払を命じられることはありません。

 残業代(割増賃金)請求訴訟においても,付加金の請求もなされるのが通常で,例えば,未払の割増賃金の額が300万円の場合,さらに最大300万円の付加金の支払(合計600万円の支払)が判決で命じられる可能性があるということになります。
 使用者が残業代の支払を怠っている場合,付加金の支払も命じられることが多くなっていますが,付加金の支払を命じるかどうかは裁判所の裁量に委ねられており,全く付加金の支払が命じられないこともないわけではありませんし,未払割増賃金の50%相当額の付加金の支払が命じられるといったこともあります。
 私が使用者側代理人を務めた東京地方裁判所民事第19部平成22年(ワ)第41466号賃金請求事件において,平成23年9月9日に言い渡された判決(伊良原恵吾裁判官)でも,「原告は,・・・本件割増賃金について労基法114条本文に基づき付加金の請求をしているところ,同条は『裁判所は・・・付加金の支払を命ずることができる。』と規定しているにとどまるのであるから,裁判所は,諸般の事情を考慮し,付加金を命ずることが不相当であると判断した場合にはこれを命じないことができ,また,これを命ずる場合であっても裁量により減額することができるものと解するのが相当である。」とされています。
 したがって,使用者としては,付加金の支払を命じるのが相当でない事情があるのであれば,その事情を主張立証しておくべきことになります。

 なお,付加金の請求は,違反のあったときから2年以内にしなければならないとされていますが(労基法114条),この期間はいわゆる除斥期間であって時効期間ではないと考えられており,労働者が付加金の支払を受けるためには,2年以内に請求の「訴え」を提起する必要があります。
 したがって,割増賃金等の消滅時効は中断している場合であっても,その時効中断が訴え提起によるものでない場合は,付加金については除斥期間を経過しているためその全部又は一部の支払を命じることができないというケースもあり得ることになります。

弁護士 藤田 進太郎

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残業代の遅延利息の利率

2012-02-10 | 日記
Q81 残業代の遅延利息の利率は,退職後は年14.6%という高い利率になるというのは本当ですか?

 残業代(割増賃金)などの賃金(退職手当を除く。)の支払を怠った場合,退職後の期間の遅延利息は年14.6%という高い利率になる可能性があります(賃金の支払の確保等に関する法律6条1項・同施行令1条)。
 厚生労働省令で定める事由に該当する場合には,その事由の存する期間については上記規定の適用はありませんが(賃金の支払の確保等に関する法律6条2項),従来は当該事由に該当するかどうかについて裁判で争点になることはそれほど多くなかったようです。
 しかし,会社側としては,厚生労働省令で定める事由に該当する可能性があるような事案であれば,しっかり主張すべきではないでしょうか。
 特に,「支払が遅滞している賃金の全部又は一部の存否に係る事項に関し,合理的な理由により,裁判所又は労働委員会で争っていること。」(賃金の支払の確保等に関する法律施行規則6条4号)に該当する場合は,それなりにあるように思えます。
 民事訴訟では弁論主義が適用されますから,会社が厚生労働省令で定める事由の存在を主張しさえすれば立証が容易で割増賃金の遅延利息の利率を下げられるような事案であっても,会社側が主張すらしなければ,そのまま年14.6%という高い利率が適用されることになってしまいます。

 私が使用者側代理人を務めた東京地方裁判所民事第19部平成22年(ワ)第41466号賃金請求事件において,平成23年9月9日に言い渡された判決(伊良原恵吾裁判官,平成23年9月27日確定)では,賃確法施行規則6条4号にいう「合理的な理由」の存在について以下のとおり緩やかに判断されており,当該事案における未払割増賃金に対する遅延損害金の利率も,商事法定利率(年6分)によるべきものとされています。

 そもそも賃確法6条1項の趣旨は,退職労働者に対して支払うべき賃金(退職手当を除く。)を支払わない事業主に対して,高率の遅延利息の支払義務を課すことにより,民事的な側面から賃金の確保を促進し,かつ,事前に賃金未払が生ずることを防止しようとする点にあるが,ただ,それは,あくまで金銭を目的とする債務の不履行に係る損害賠償について規定した民法419条1項本文の利率(民法404条又は商法514条に規定する年5分又は年6分である。)に関する特則を定めたものにとどまる。
 以上によると上記(1)の賃確法6条2項,同法施行規則6条は,遅延利息の利率に関する例外的規定である同法6条1項の適用を外し,実質的に原則的利率(民法404条又は商法514条)へ戻すための要件を定めたものであると解することができ,そうだとすると賃確法施行規則6条所定の各除外事由の内容を限定的に解しなければならない理由はなく,むしろ上記原則的利率との間に大きな隔たりがあること及び賃確法施行規則6条5号が除外事由の一つとして「その他前各号に掲げる事由に準ずる事由」を定め,その適用範囲を拡げていることにかんがみると,同条所定の除外事由については,これを柔軟かつ緩やかに解するのが同法6条2項及び同施行規則6条の趣旨に適うものというべきである。
 このように考えるならば,賃確法6条2項,同法施行規則6条4号にいう「合理的な理由」には,裁判所又は労働委員会において,事業主が,確実かつ合理的な根拠資料が存する場合だけでなく,必ずしも合理的な理由がないとはいえない理由に基づき賃金の全部又は一部の存否を争っている場合も含まれているものと解するのが相当である。

弁護士 藤田 進太郎

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残業代(割増賃金)の消滅時効

2012-02-08 | 日記
Q80 残業代の時効は,何年ですか?

 残業代(割増賃金)の消滅時効は,2年です(労基法115条)。
 したがって,会社を辞めた社員であっても,当該給料日から2年間は残業代の請求を受けるリスクがありますし,2年以上勤務していた労働者からの残業代請求においては,通常は,直近2年分の残業代について請求がなされることになります。
 実際の残業代請求は,会社を辞めた後間もない時期になされることが多く,辞めてから1年以上経過してから残業代請求がなされることは,それほど多くはありません。

弁護士 藤田 進太郎

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除外賃金の種類

2012-02-08 | 日記
Q79 除外賃金にはどのようなものがありますか?

 除外賃金とされているのは,①家族手当,②通勤手当,③別居手当,④子女教育手当,⑤住宅手当,⑥臨時に支払われた賃金,⑦一か月を超える期間ごとに支払われる賃金です(労基法37条5項,労基則21条)。
 除外賃金に該当するかどうかは,名称にかかわらず実質によって判断されますので(昭和22年9月13日発基17号),名称が「家族手当」や「住宅手当」であったとしても,除外賃金ではないと判断されることも珍しくありません。
 「家族手当」は,扶養家族数又はこれを基礎とする家族手当額を基準として算出した手当のことをいいますので,独身社員についてまで支払われていたり,扶養家族数に関係なく一律に支給されていたりする場合は,除外賃金としての性質を有する「家族手当」とは認められず,残業代(割増賃金)算定の基礎賃金に入れるべきこととなります(昭和22年11月5日基発231号)。
 また,「住宅手当」は,住宅に要する費用に応じて算定される手当をいいますので,全社員に一律に定額で支給することとされているようなものは,除外賃金としての性質を有する「住宅手当」には該当せず,残業代(割増賃金)算定の基礎賃金に入れるべきこととなります(平成11年3月31日基発170号)。

弁護士 藤田 進太郎

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問題社員に対する法的対応の実務(福岡) 2012年4月17日(火)午後1時30分~午後5時

2012-02-03 | 日記
マネジメント&マーケティング戦略特別セミナー

【大反響セミナー福岡開催決定!】

問題社員に対する法的対応の実務

~訴訟を見据えた問題社員対応のケーススタディ~




セミナー要項
開催日時 2012年4月17日(火)午後1時30分~午後5時
会場 福岡県中小企業振興センター
福岡市博多区吉塚本町9-15
(092)622-6230
受講料 1名につき 31,500円(税込)
同一団体より複数ご参加の場合、2人目以降 26,250円(税込)
備考:



重点講義内容
<東京開催セミナー(2011年8月開催)参加者の意見・感想(抜粋)>
 ・実際の問題に直面した内容の解決策が見つかりました。
 ・各社の質問に関する対処の仕方が例題として参考になります。
 ・法律的な見方(判断基準)について学ぶことができた。
 ・事例(判例)や基本的な考え方をきちんと押さえることができました。
 ・具体的ケース(事例)を交えての説明が良かった。
 ・事前提出した質問書の対応が理解できた。
 ・裁判になった際の裁判所の考え方がわかりました。
 ・詳細に事例が纏まっており、事例も多いため。
 ・身近な事例に沿った内容が多かった。

四谷麹町法律事務所 所長弁護士
藤田 進太郎 (ふじた しんたろう)氏

 近年、問題社員に悩まされている経営者・人事労務担当者が増加しており、問題社員にどう対応するかが、重要な課題となっています。
 しかし、問題社員に対して十分な指導をしないまま放置したり、解雇の有効性を十分に検討しないまま解雇したり、残業代を基本給と区別して支払っていなかったり、長時間労働を放置したりしているなど、問題社員対策が不十分な会社がまだまだ多く、無防備な状態のまま、訴訟を提起されるなどして多額の解決金の支払を余儀なくされて初めて、問題社員対策を検討し始める会社経営者が多いというのが実情です。
 問題社員に対する具体的対応は、法律論だけで答えを出せるものではなく、奥の深いところがありますが、基本的な法律論を理解し、訴訟になったらどのような結果になるのかということを見据えた上で問題社員対応をすることは必要不可欠です。
 本講演では、まずは、実務上、問題となりやすい事例に対する法的対応のケーススタディを解説して問題社員に対する法的対応の基礎を理解していただいた上で、受講者からの質問に回答する形で、現在、受講者が悩んでいる事案の解決の役に立てるよう、できる限りの情報提供をしていきたいと考えています。

<1>講義:問題社員に対する法的対応のケーススタディ【基礎編】
 1.勤務態度が悪い。
 2.仕事の能力が低い。
 3.上司が注意するとパワハラだと言って、指導に従わない。
 4.転勤を拒否する。
 5.就業時間外に社外で刑事事件を起こして逮捕された。
 6.精神疾患を発症して欠勤や休職を繰り返す。
 7.行方不明になって連絡が取れない。
 8.退職届提出日から退職日までの間年休を取得してしまい引継ぎをしない。
 9.勝手に残業して、残業代を請求してくる。
10.社外の合同労組に加入して団体交渉を求めてきたり、ビラ配りしたりする。など

<2>Q&A:「このようなケースはどうしたらいい?」【応用編】
実際に発生した事例を受講者からいただき、その一つ一つに時間の許す限り丁寧に講師が回答いたします。心強い対応の引き出しを増やすことのできる生の講座です。

●ご記入いただきました質問内容は、会社名等の情報は非公開とし
  十分な配慮を行いますのでご安心ください。
  情報は当セミナー内でのみ利用させていただきます。
●質問は、なるべく事前にお送りください。
  お申込いただいた後、質問用紙をお送りいたします。
●講演当日も質問を受付いたしますが、質問数が多く回答時間が
  足りない場合は、事前に質問を提出していただいた受講者からの
  質問に対し、優先的に回答していく予定ですのでご了承下さい。


講師プロフィール
藤田 進太郎(ふじた しんたろう)氏
東京大学法学部卒業。四谷麹町法律事務所所長弁護士。日本弁護士連合会労働法制委員会委員・事務局員・労働審判PTメンバー。第一東京弁護士会労働法制委員会委員・労働契約法制部会副部会長。東京三会労働訴訟等協議会委員。経営法曹会議会員。労働問題・問題社員の対応(使用者側専門)が中心業務。



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